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mespesadoさんによる1億人のための経済談義(63)「日本衰退論」(17)「殺し文句は世界制覇だ」 [mespesadoさんによる1億人のための経済講]

アマゾン戦略の核心が告げられます。「株主さんよ。我々は将来投資によって必ずや小売業界を世界制覇してやる。もしそれが叶えば莫大な利益が得られて、そのときタンマリと配当を支払うから、今は無配に耐えてくれ」。その殺し文句は「世界制覇」です。
しかし、アマゾンの「資本主義的利益の追求」が「消費者にとって究極の利便」をもたらすことでそこに実現する「限界費用ゼロ社会」は、「資本主義的利益が無意味化された社会」である。そんな逆説的事態が見えてきます。
*   *   *   *   *
283:mespesado:
2019/03/31 (Sun) 22:55:21

>>264 「日本衰退論」の続きです。

 Wiki の Amazon.com の解説によれば、1995年にサービスを開始したアマゾンは、2年後にNASDAQに上場を果たし、1998年にはドイツとイギリスに海外進出するととも に、ミュージックストアを開設して「音楽配信事業」に参入しています。そして1999年にはジェフ・ベゾスがタイム誌の「今年の人」に選ばれるに至ってい ます。
 書籍に続いてDVD、音楽配信と、著作物で長らく定価販売が通常であった商品を手掛けることにより、定価販売によるマージンから配送料を捻出することで収 益を確保してきたわけですが、それだけではタイム誌の「今年の人」に選ばれるほどの成功者として大規模な収益が得られるわけがありません。なぜなら単に 「定価販売の商品を狙い撃ちする」だけなら、その手法をすぐに他人に真似されてしまうはずだからです。
 ベゾスは「定価販売が普通である著作物を中心とした商品」だけに飽き足らず、いよいよ通常の商品までターゲットにして攻勢を続けます。その様子が『GAFA 四騎士が…』の53頁以降に書かれています:

> 資本を食う店舗を持たなかったため、ベゾスは倉庫の自動化に投資する
> ことができた。規模は力であり、アマゾンは実際の小売店にはできない
> 低価格を提示することができた。

 ベゾスは、ネット販売の、一般の小売店における「店舗」という(地の利が良いところではなおさら)「土地代」やら大型店舗であるほどかかる店員の「人件費」といった「金食い虫」を持たないというメリットを最大限に生かし、消費者にとって利便税が悪くてもかまわない安い土地に「倉庫」だけ作り、その管理を「自動化」して人件費も削減することで収益率を上げたうえで、それを「安売り」で消費者に還元することにより、一般の商品についても主流だった在来の大型小売店の顧客を次々に奪い、小売業界での「独り勝ち」を進めていきます。さらに、「資本配分」についてもアマゾンは独自の考え方を採用します:

>・ アマゾンの考え方
>  歴史的な低金利で資金を借りられたら、並はずれて高額な配送コント
> ロール・システムに投資するべきだ。それで我々は小売業界で鉄壁な地
> 位を築き、競争相手の息の根を止めることができる。そうすれば我々は
> あっというまに大きくなれる。

  倉庫とその自動化でコスト削減を狙うアマゾンですが、残る最後の「金食い虫」が、ここで言及されている「消費者が購入した後の商品の配送コスト」です。ア マゾンはこの部分のコストダウンのために、配送システムに投資をする、というのです。しかしこれは、投資しても直ちに成果が上がるとは限らず、長期の投資 になります。ここで、在来の小売企業(例としてウォルマートを取り上げている)とアマゾンの、投資に対する考え方(ひいては株主配当に対する考え方)の違 いが65頁に説明されています:

> ウォルマートは株主を喜ばせようと、せっせと長期的な投資をしている。
> しかし市場はウォルマートのそのようなふるまいを評価しない。ウォル
> マートの2016年第1四半期の収支報告会で、経営陣はウォール・ス
> トリートに向かって「小売業の将来を勝ち取るため」、テクノロジーへ
> の支出を大幅に増やすと宣言した。
 【中略】
> アマゾンの収支報告にはいつも、成長というビジョンを強化し、利益を
> 軽視する旨が記載されている。配当金は絶対に支払わないということを、
> 株主たちに念押しする。殺し文句は世界制覇だ。

 この記述の中に、なぜアマゾンはなぜ日本人には残酷とも思える同業者への仕打ちをしてまでのし上がろうとするのかということへの答も書いてあるように思えます。
  そもそも海外(特に米国)では企業に対する株主の力が強く、とにかく株主は高い配当を要求し、そのために企業は短期の利益を出すことを強いられ、長期的な 投資はしにくいという事情があり、これに対してかつての日本の企業は従業員には還元するけれど、株は企業間の持ち合いが多く、しかも日本では「会社は従業 員の物」という思想があって、株主はあまり高配当を要求することもなく、株主配当を低く抑え、その分将来のための投資に回す。そのために日本の企業の方が 技術が進み、ジャパン・アズナンバーワンの要因となったんだ、というようなことが言われていました。
 ところがアマゾンは、株主が高配当を要求するという風土の中で将来のために投資するため株主配当をあえて行わないという方法を取ったわけです。つまり昔の日本みたいな株主配当軽視を今度はアマゾンが「復活」させたわけですね。しかしアメリカの株主は日本の株主と違って高配当を要求する中でそれをあえて行おうとすれば、株主に対するその「見返り」が絶対に必要です。それが「株主さんよ。我々は将来投資によって必ずや小売業界を世界制覇してやる。もしそれが叶えば莫大な利益が得られて、そのときタンマリと配当を支払うから、今は無配に耐えてくれ」というアピールなわけです。つまり、アマゾンの貪欲さは株主の貪欲さに応えるためにわざとそういうアピールをしているという面も大きいわけですね。
 まさにアマゾンの成功物語は、世の中全体が資本主義の権化のようなアメリカならではの中で登場したと言えるのではないでしょうか。           (続く)

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