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「生き心地の良い町」(岡 檀著 講談社 2013)を読んで [メモがわり]

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まっぴら!一億総活躍社会 の記事に《「『町をにぎやかに』なんて思わなくてもいい」・・・少子高齢化社会をすなおに受けとめれば、これがこれからの世の中のトレンドになりそうな気がする。「がんばらなくてもいいんだよ。」》と書いた。とすると、今「いい町」とはどんな町なのか。地区長会の研修旅行先を探しているうちに『生き心地の良い町』という本に行きあたった。徳島県海部(かいふ)町、まるっきり日帰り旅行の範囲を越えている。ふと、著者の岡檀(まゆみ)さん、「共育ネットワーク」主催の講演会講師におよびして話してもらえないかと思って事務局に連絡しました。明日8日の事務局会で方向が決まるはずです。

地区長会の研修視察の方は宮城県の岩出山(現大崎市)に行くことにしました。岩出山は伊達政宗が置賜から移封なった地です。飯山市の方々が尾崎氏の跡を追って宮内にお出でいただくのと同じなわけで、今後どんな展開が待ち受けているか。それはそれで楽しみです。

『生き心地の良い町』、アマゾンにレビューしてきました。もちろん五つ星にしました。

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「生き心地の良い町」帯.jpg
「みんなちがって、みんないい」
「いいまち」を探していてこの本に出会った。読みつつ金子みすゞの「みんなちがって、みんないい」の詩句が思いうかんだ。
極めて自殺率の低い海部町で「自殺予防因子」をさぐる著者は、「病、市に出せ」の言葉に反応する。この町で古くから言い習わされた言葉という。「体調がおかしいと思ったらとにかく早めに開示せよ」の意味だが、同時に「やせ我慢すること、虚勢を張ることへの戒め」の意が込められていることに気づく。さらに「でけんことはでけんと、早う言いなさい。はたに迷惑かかるから」の言葉に出会うが、やはり同じコンセプトにちがいない。

3.11以降しきりに「絆(きずな)」が言われ「助け合い」が言われるようになった。ただしその前提が「みんな同じ」か「みんな違う」かで正負が逆になる。「みんな同じ」を前提とすると「違い」は表に出しにくいが、「みんな違う」を前提にすると「違い」に対して寛容だ。「みんな同じ」には「同じであることの規準」があるゆえに、そこからの逸脱度合いとしての「評価」がつきまとう。お互い評価しあいながら生きてゆく関係が生じる。一方「みんな違う」が前提であれば、規準がないから評価の仕様がない。事実そのまま、現実そのままを受け容れて生きてゆけばいいフラットな社会だ。ハゲが「あんたの頭はハゲてるね」と言われても、それが事実ならそれまでのことなのに、そばに居るだれかが「そんなこと言ったら傷つくわ」と言ったら、その言葉でハゲは傷つく。評価が混じり込むからだ。気遣いがかえってうっとうしい。著者は海部町と対照的に自殺率の高いA町についても調査するが、A町はむしろ海部町以上に地域のつながりは固い。ややもするとよけいな気遣いが多いのではないか。「みんな違う」から出発する海部町に対して、A町は「みんな同じ」から出発しているののかもしれない。金子みすゞが思いうかんだゆえんである。

海部町のようになるにはどうすればいいか。著者が気づいたことがある。《この町の人たちは周囲から「野暮な奴だ」と言われることを最大の不名誉のひとつと思っている。彼ら自身が意識しているか否かは別として、この「野暮」というラベルを貼られるような行為を極力避けながら生きているのではないか》と。「野暮」とは《個人の自由を侵し、なんらかの圧力を行使して従属させようとする行為》である。海部町ではそれが最も嫌われる。そうした行為には否応無しに「野暮」のレッテルが貼付けられる。そのことで《人と違った考えや特徴を持っているという理由だけでその人を排除するという行為》《他者を評価する際に相手の能力や人柄を見ることなく、年功や家柄、財力だけで判断しようとする行為》《その人にやり直しのチャンスを与えずスティグマ(烙印)を押しつけるという行為》《権力を行使して相手を無理やり従わせようとする行為》が封じられる。「野暮ラベル」は、海部町コミュニティにおいて「公平な人間関係」「弾力性の高い合意形成のプロセス」を保証する魔除け札である。著者なりの評価と言える。

しかしそもそも、もろもろそうした評価からまったく自由なのが海部町民の海部町民たるゆえんであることに十分気づいて語っている、著者のその姿勢が好ましい。すがすがしい本である。


【追記】
岡さんが参加した鼎談記事がありました。本の内容の大筋が語られています。
自殺をテーマにした異色の2冊の著者が語る「なぜ徳島県海部町は日本一自殺率が低いのか」
末井昭(『自殺』)×岡檀(『生き心地の良い町』)

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めい

日本一自殺が少ない町「海部町」のコミュニティ
https://www.mag2.com/p/news/566943?l=zud06552f9&trflg=1

こんにちは!廣田信子です。
2013年11月に発表したマンションコミュニティ研究会の本、『これからのマンションコミュニティはこの一冊から「集まって住むってステキ!」』の中で、私は、目指す都市型コミュニティの形ということで、日本一自殺が少ない町、徳島県「海部町」のコミュニティを紹介しました(「海部町」は、今は市町村合併で「海陽町」の中にあります)。
岡檀(おか・まゆみ)さんの研究論文を読んで感動した話です。

今でも鮮明に覚えていて、マンションのコミュニティを考える場合の私の原点です。
10年が経過し、地元の自治体で、岡檀さんの講演があると言うので、聞きにいきました。
慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科 特任准教授、一橋大学 経済研究所客員教授になっていらっしゃいました。
変わらないお話に心魅かれました。
久しぶりに、「海部町」のコミュニティを紹介したいと思いました。
自殺率は、コミュニティの性質と深い関係があるといいます。
一見、人間関係が濃い地方の方が、自殺率が低いと思われますが、実は、そうではないのです。
海部町には、「病、市に出せ」という格言が伝わっています。
悩みは、一人で抱え込まないで、周りの人に開示して助けを求めよというものです。
それが、回りまわってみんなのためになると自然に思われているのです。
ですから、海部町では、「がん」になっても、「うつ」になっても周りに隠しません。
みんなで悩みを共有してサポートするのです。
でも、これは意外に難しいことです。
近い関係ほど、弱みを見られたくない、迷惑を掛けたくないという心理が働き、一人で悩みを抱え込んでしまいがちです。
なぜ、海部町の人は周りに助けを求められるのか…です。

岡先生の研究によると、海部町には、いくつかの特徴があります。

まず、コミュニティのつながりがゆるやかだということです。
町民の近所付き合いは、「立ち話程度」「挨拶程度」が中心です。
江戸時代から移住者が多かったため異質なものを受け入れる鷹揚な風土があります。

コミュニティは開放的で、規則も罰則もなく、人の批判をしません。
また、主体的に政治に参画し、「自分には政治を変える力がある」と感じている人が多く、議論も活発です。
そして、学歴等ではなく人物本位でリーダーを選びます。
とかく選挙での勝ち負けが尾を引くことが多いのですが、
ここでは、一つのことにこだわったり、引きずったりしない風土が根付いていて、選挙が終わったらノーサイドです。
私たちが目指す都市型コミュニティの姿が、すでにこの町にはあるのです。
・新たな住民を自然に受け入れて、お互いを尊重する
・ゆるやかなつながりでも、いざというときは、周りに助けを求められる風土がある
・人物本位でリーダーを選び、人任せにせずに自分たちのことは自分たちで決めていく
・違いや過去のいきさつにこだわらない
これって、マンションコミュティが目指す姿だと思いませんか。

by めい (2023-02-18 15:39) 

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