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mespesadoさんによる1億人のための経済談義(62)「日本衰退論」(16) 狩猟民族的冷酷ビジネス [mespesadoさんによる1億人のための経済講]

アマゾンのほかに図書館の蔵書検索の普及もあり、学者レベルはいざ知らず、私レベルで「欲しい、読みたい、見てみたい」と思った本で手に入らない本はほとんどなくなった。ただしその背景には、《アマゾンは、あたりを見回して新ビジネスの余地がありそうな特殊な制度や困っている公企業を見つけて、その「特異性」や「弱み」に付け入って、「消費者の利便性の向上」を旗印にして起業し、使えるものは何でも使い、従来型のビジネスから客を根こそぎ奪うことも躊躇しない、という「狩猟民族」的なある種「冷酷な」ビジネスを展開している姿が浮かび上がってきます。》という現実があってのことだった。「狩猟民族」は目ざとく獲物を狙う。狙われた方はたまったものではないが、得た獲物を享受する側もある。「利便性」は「ビジネスであること」を原動力にして達成された。将来的(限界費用ゼロ社会)には、「ビジネスであること」は意味をなさなくなる、そして「利便性」は確実に残る。後戻りはない。「利便性」を享受しつつ、われわれはわれわれなりの未来を考えればいい。日本人には日本人の役割がある・・・そんなふうに思わされました。

*   *   *   *   *

264 名前:mespesado
2019/03/25 (Mon) 22:33:28

>>253 「日本衰退論」の続きです。
 日本版Wikipedia の「Amazon.com」の項目には、さらりと

> ベゾスはオンラインで販売できる20種類の商品のリストをつくった。次
> にベゾスは、このリストから最も有望と思われる5種類の商品を絞り込ん
> だ。それらの商品は、コンパクトディスク、コンピュータハードウェア、
> コンピュータソフトウェア、ビデオ、そして書籍だった。最終的に、文
> 学への大きな世界的需要、書籍は低価格であること、膨大なタイトルが
> 出版されていることなどを考慮し、ベゾスは自身の事業をオンライン書
> 店とすることを決めた

と 抽象的に書いてありますが、今まで解説してきた「書籍販売の世界の特殊性」を考えると、ベゾスがネット販売のターゲットとして最初に書籍を選んだ理由が鮮 明になります。この件に関してアマゾンの『買い切り方式』は『再販制度』廃止への礎となるのか?いやむしろ新たなビジネスモデルを!
https://news.yahoo.co.jp/byline/kandatoshiaki/20190204-00113234/
という記事には

『出版不況』という社会的な潮流の中で、Amazonだけが成長できた理由
> は何か?。


と問題提起していて、次のように「再販制度(定価販売)」「委託販売(返本可)」という2つの理由が挙げられています:
> それは日本独自の『再販制度』によって守られた『定価』販売による功
> 績が実は大きい。Amazonは、米国と違い、常に『安売り』をすることな
> く、日本では『定価』を維持しながらその利益の中から『送料無料』
> 『Amazon Prime会員』という囲いの中でさらに磨きをかけた。本を1冊か
> らでも、無料で届けてくれるAmazonのサービスにユーザーは熱狂し続け
> た。

> 何よりもAmazonの最大の強みは、売れない本を流通する必要がないこと
> だ。必ず『売れた本』だけを発送するという完璧なビジネスモデルだ。
> 当然、『返本』という儀式もいらない。卸しのように出版社に『前金』
> を支払う義務もない。

  これらの理由はどちらも本質的ですが、特に最初の理由の方が本質的です。なぜなら、それまで eコマースが大ブレイクできなかった最大の理由は「消費者が購入してから配達するので配達料の単価が高くなるから結果としてネット購入の方が商店で買うよ り値段が高くなる」ということだったのです。
 ところが、書籍は書店にとって一冊当たりの儲けが大きくなるように「再販制度」により定価販売が強制されているので、Amazonはこの制度を逆手に取り、その定価販売による「大きな儲け」の中から配送料(の全部または一部)を捻出することにより、他の商品と違って「商店における販売価格に配送料を上乗せする」より安く、最大で「配送無料」で消費者に提供することができたわけです。
 なお、上記の引用部分では再販制度が日本特有であるかのように書いてありますが、もちろんこれは既に前回 >>253 で見て来たように、現在は「定価販売」の制度を持たない米国も、

> そもそも、安売り全般に対する反感が、20世紀前半においては米国社会
> に根強かった。書籍は安売りになじまないという考えもあった。出版社
> も、(安売りをしていない)書店からの圧力に応え、小売店に最低価格
> を守らせる契約を結ぶよう努めた。チェーン店が大々的に安売りをしだ
> したのは70年代からだが、当初はチェーン店自体も抵抗していた。その
> チェーン店も、21世紀の始めはほとんどの本を定価販売していた

ということですから、アマゾンがビジネスを立ち上げた1995年には米国でも書籍は定価販売が普通だった、ということになり、米国でも上に述べた日本の場合と同様にして書籍の eコマースがブレイクしたわけです。しかも米国では日本のような雑誌の販売に依存しないために書籍の価格がもともと高いのでなおさら無料配送がしやすいわけですね。
 さて、このようにネット販売でも書店での販売と変わらない値段で手に入るとなれば、eコマースは書店にとっては脅威です。事実、「定価販売を義務化」するほど書店を保護しているフランスでは、(別に配送料が無料なだけで割引販売しているわけではないのに)無料配送を法律で禁止するという事態になってしまいました↓
フランスで大手ネット書店に対し書籍の無料配送を禁止する法案が可決、Amazonは「1円配送」で対抗
https://it.srad.jp/story/14/07/15/042239/

 アマゾンも、そっちがその気なら、ということで、最小の「1セント」だけ配達料を取ることで事実上の法律逃れに走り、こうなると、もはや泥仕合ですw
 さて、アマゾンは、このように「再販制度」のような業界保護のための特別な制度をうまく「利用(悪用?)」してビジネスを立ち上げることに成功したわけですが、利用したのは「制度」だけではありません↓
Amazonはアメリカ郵便公社を私物化している、
配達物の約8割がAmazonの荷物だという現状を職員が語る
https://gigazine.net/news/20181126-deliver-amazon-packages-confessions/

> USPS【=アメリカ郵便公社:引用者注】は電子メールの普及によって郵
> 便物が減少し2000年以降は赤字続きで、国から資金も受けていないため
> Amazonの配達契約が大きな収益源となっていますが、これによって従業
> 員が過酷な労働を強いられています。

  ネットが普及した結果、「郵便制度」は電子メールの普及でどの国も郵便の減少で経営が厳しくなっていますが、アマゾンはここに付け入って、配送の実務を USPSに委託することによって、USPSの収益に貢献するという形でUSPSの「組織」には「恩を着せ」ながら、「労働者」には過酷な労働を強いてい る、というのです。
  ここまでを振り返ると、アマゾンは、あたりを見回して新ビジネスの余地がありそうな特殊な制度や困っている公企業を見つけて、その「特異性」や「弱み」に 付け入って、「消費者の利便性の向上」を旗印にして起業し、使えるものは何でも使い、従来型のビジネスから客を根こそぎ奪うことも躊躇しない、という「狩猟民族」的なある種「冷酷な」ビジネスを展開している姿が浮かび上がってきます。
  ここまでは、ネットから拾ってきた情報をもとにアマゾンの起業秘話のような形で話を進めてきましたが、ここに挙げた書店・出版業界を巡る特殊性の話は、最 初に紹介した『GAFA 四騎士が創り変えた世界』にはなぜか載っていません。この本自体が「書籍」の一つですから、著者はあるいは出版業界に忖度したのかもしれませんが、書籍で 成功した後のアマゾンの「冷酷さ」についてはこの本に詳しく説明されていますので、次回はその話に繋げたいと思います。        (続く)

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