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mespesadoさんの経済談義(1)「限界費用ゼロ社会」に向かっている [mespesadoさんによる1億人のための経済講]

mespesadoさんに3年前に書いた記事に注目していただきました。安倍評価の見直し前、安倍批判の時代の記事です。たまたま「そもそも供給過剰社会で物価上昇はない」と書いていたことに目をつけていただいたのですが、このことをしっかり認識できるようになったのはmespesadoさんから指摘していただいてからのことでした。今回の議論も理屈だけの理解で満足するのでない、目配りの利いたmesさんらしい議論でよく納得させられました。「伊東氏は一点、ある現象を見逃しています」以下の議論です。

*   *   *   *   *

189 名前:mespesado 2018/05/13 (Sun) 07:22:13 host:*.itscom.jp
 私が定期的に読みに行っている、例の「めい」さんの過去記事(2015年1月13日付)に次のような書評記事があります:

伊東光晴「アベノミクス批判―四本の矢を折る」を読む
http://oshosina.blog.so-net.ne.jp/2015-01-13
 その中に、次のような記述があります:

> たとえば第一章、岩田規久男日銀副総裁が説く「通貨供給量の増加→予
> 想インフレ率上昇→予想実質金利の低下→設備投資増加」というトラン
> スミッション・メカニズム(波及経路)を俎上に上げる。そもそも供給
> 過剰社会で物価上昇はないし、インフレ予想と言っても人によってちが
> うわけで土台あやふやな理屈にすぎないことを指摘しつつ、「予想金利
> の低下が投資を増加させる」のかどうかについて問う。イギリスに於け
> る調査、経済企画庁調査局の調査結果を紹介、結論は、投資をするかど
> うかを決めるのはまずもって「予想以上の需要増加」が69.5%、ついで
> 「他企業との動向から競争力を維持するため」が58.8%。そもそも「こ
> れくらい(1〜2%)の実質金利の低下で、不確実姓を伴う投資を企業が
> 増やすわけがない。」という結論。なんとなくそういうものかなと思わ
> されていた岩田説的なこれまでの理解はたちまち消し飛んで、伊東氏の
> 説に納得、腑に落ちた。

 私が2017年になって放知技で得意顔(失笑)で書いてきたことが、既に伊東さんの本で指摘されていて(「供給過剰社会で物価上昇はないし」のくだり)、それをめいさんも正しく評価しておられるではないですか!
 しかし、そんなに以前から鋭い指摘があったのに、現代の経済評論家や学者がこのことを指摘することがないのはなぜなのか?このことに言及すると財務省が緩和政策の邪魔をすると恐れたのか?…いろいろ妄想が膨らんでしまいます。
 さて、上の記述に続く次の部分↓

> このことに関連し第2章では「金融政策はインフレ対策には有効であるが
> 不況対策には無効である。」(31p)とし、ガルブレイスの「紐のたとえ」
> が語られる。「紐を引っ張ると同様に中央銀行の緊縮政策によって銀行
> 貸出量を減らし、それによって貨幣供給量の増加を押しとどめ、減らす
> ことはできる。しかし、紐を押しても効果がないと同様に、銀行貸出及
> び貨幣供給量を増やすことはできない。安倍・黒田氏は紐を押している
> にすぎない。戯画以外の何ものでもない。」(32p)と一刀両断。腑に落
> ちる。

は再考の余地があります。
 私は今までの議論で「金融政策を行えば、市中にオカネが大量に供給されるが、モノやサービスは供給過多なので、これがインフレを引き起こすことは無く、かわりに家計も企業も内部留保に走り、その結果将来の不安が軽減することにより徐々に企業は従業員への還元を増やし、家計は消費を増やしていく、という形でアベノミクスは機能する」と述べましたが、「市中にオカネが供給される」の部分の具体的なメカニズムについては当初は不問に付していました。実は上記の引用部分における伊東氏の論は、まさにこの、私が不問に付していた部分を鋭く突いたものです。
 確かに「金融緩和」というのは日銀が銀行の持つ国債を引き受けて、かわりに市中銀行の当座預金にオカネを振り込むだけですから、それだけだと、確かに資金需要が無い企業の借金が増えることはありません。だからこの部分での伊東氏の議論はそのとおりです。
 ところが伊東氏は一点、ある現象を見逃しています。それは「為替」にまつわる事情です。民主党政権時の緊縮財政のせいで、為替が異常な超円高に振れていました。これは円の実力を過大評価するものでしたが、アベノミクスによる金融緩和のおかげで、企業が借金を増やす増やさないとは関係なく、世界市場が日本の緩和政策を見て投資行動を変えた結果の円売りにより、円安方向に流れ、結果、異常な円高が解消されて日本の輸出企業が息を吹き返し、収益が増えたことです。これが好景気のきっかけとなり、これに緩和政策で内部留保が増えて将来の不安がなくなったことが加味されて、まずは失業率の低下から続いて最近の賃上げに至る、という流れに結びついたのです。
 こんな機序を最初から読めていた人がいるでしょうか?つまり、「リフレ政策」に根本の根拠を置くアベノミクスは、悪い方にブレる誤解と良い方にブレる誤解が複雑に絡まった結果として、結果オーライになっている、という実に薄氷を踏むような「成功」だったわけです。このことは、絶えず環境変化を観察し続け、当初考えていた仮説がどう現実とずれて行っているかを見逃さないようにして軌道修正が必要ならしていく、という大変高度な判断が必要であることを我々に教えてくれていると思います。

*   *   *   *   *

ここで奥田さんがアトキンス氏の同趣旨の主張を紹介します。その主張に対するmesさん、「人口減少」が「インフレにならない」理由ではない。いずれ《「家」とか「米」も、科学技術の進歩によって人手が次第に要らなくなり、生産量は青天井に近くなっていく》。まさに、日本が先陣を切って「限界費用ゼロ社会」に向かっているのです。

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195:奥田 正行 : 2018/05/13 (Sun) 14:54:01 host:*.zaq.ne.jp
>>189
>既に伊東さんの本で指摘
>「供給過剰社会で物価上昇はないし」

この点については、次の記事でデービッド・アトキンソン氏も同様に記載しています。
同氏(David Atkinson、1965年 - )は、イギリス出身で小西美術工藝社社長。日本の文化財の専門家。
オックスフォード大学で日本学を学び1990年頃来日、1992年ゴールドマン・サックスに異動しアナリスト勤務、
2006年同社パートナー昇任後、2007年退社。文化財等補修の小西美術工藝社へ2009年入社、2011年社長。
2017年6月日本政府観光局の特別顧問に就任。

>日本経済は経済学の教科書が前提としている「正常な状態」(人口が増えている状態)とは、まるっきり異なっている
人口が激減する日本では、物価はそうやすやすとは上がらない
>量的緩和をすれば、住宅を2軒も3軒も購入する人が増えることを期待しているのでしょうか。
>つまり、人口減少に伴う需要の減少には、量的緩和だけでは対処できないのです。
>日本はこれからどこの先進国も経験したことのない「大・人口減少時代」に突入するのです。
>経済が正常な状態だからこそ効果を発揮する通常の政策は、異常事態を迎える日本経済では効果を発揮しないのです。

〇記事
日本が「インフレになるはずがない」根本理由・アトキンソン氏「ペスト時の欧州に学ぶべき」
東洋経済 2018年04月20日 https://toyokeizai.net/articles/-/216990

197:mespesado : 2018/05/13 (Sun) 16:41:23 host:*.itscom.jp
>>195
 奥田さん、情報提供ありがとうございます。
 早速リンク先読ませてもらいました。ただ、冒頭の次の記述↓ですが…

> 私が生産性向上の必要性の話をすると、同じ内容の反論が必ず上がりま
> す。それは、インフレ派の人たちの「量的緩和をすれば、デフレが解消
> されて物価も上がる。その結果、生産性は自動的に上がる。今、日本が
> せっかくいいものをつくっても安くしか売れない『高品質・低価格』の
> 状況に陥ってしまっているのは、日銀の政策の失敗の結果だ」というも
> のです。

> 彼らがよりどころにしているのは、「通貨の供給量が物価を左右するの
> で、通貨の供給量を増やせば、物の供給が一定であるかぎりインフレ率
> が上がる」という教科書通りの理屈です。

> この理屈自体は、間違いではありません。しかし、この理屈が通用する
> のは、経済が正常な状態のときだけです。経済が「正常な状態」でなけ
> れば、この理屈は的外れとなります。

> 近代経済史の観点では、経済が「正常な状態」とは、人口が増えている
> 状態を意味します。

 う~ん。表題中の「日本がインフレになるはずがない」というのはいいですが、その理由が「人口が減っているから」ですか???
 そうじゃなくて、日本の製造業の自動化が極度に発達したために「供給力に上限が無くなった」ことが最大の原因だと思うのですが…。
 実際、引用文の中で「通貨の供給量が物価を左右するので、通貨の供給量を増やせば、物の供給が一定であるかぎりインフレ率が上がる」という教科書のリクツなるものをに言及していますが、この中の「物の供給が一定であるかぎり」という前提自体が成り立たなくなっていることが、「日本がインフレになるはずがない」ことの真の原因だと思うんですよね。
 リンク先では「家」とか「米」のような供給量がそれほど増やせないものを引き合いに出しているから、一般の製造業の製品が対象になっていないのが不審です。それに、「家」とか「米」も、科学技術の進歩によって人手が次第に要らなくなり、生産量は青天井に近くなっていくように思います。
 4ページ目の『これからの日本は「ペスト時の欧州に似ている」』という議論に至っては「なんじゃこりゃ??」です。
 人口が激減した時代だから、今後の日本の少子化の時代と似てるということなんだそうですが、そもそも産業革命以前の時代と比較してどうする?という感じです。どうもこの人だけでなく、松尾匡さんもそうでしたけど、科学技術の進歩を説明変数に入れないで議論する経済学者が多いと感じます。やはり「文系」の人は「理系」の分野が苦手だからなんでしょうか?


【追記 30.5.16】
205:mespesado : 2018/05/14 (Mon) 07:33:35 host:*.itscom.jp
>>195 >>197
 前回論評したアトキンソン氏の日本が「インフレになるはずがない」根本理由 の4ページ:
https://toyokeizai.net/articles/-/216990?page=4で、今後の少子化で人口が「激減」する日本を14世紀のヨーロッパのペストで人口が激減した時代が参考になる、という部分について、>>197 では産業革命以前と比較したって仕方がないだろう、とコメントしましたが、実際にどう「仕方がない」のか補足します。
 この時代のヨーロッパは「資本主義」が始まる産業革命以前の「農本主義」の時代でした。ですから、人々の暮らしの豊かさは農業生産力、具体的には「(一人当たりの)農地の面積の広さ」に比例します。
 ですから、人口が激減すれば、一人あたりの農地は増えますから、それだけ一人当たりの穀物の消費可能量は増えるから豊かになる。それだけのことです。リンク先で述べられていることも要するにそういうことです。
 しかし、現代の日本では、そのような国家全体の生産量が限られている農本主義の時代ではなく、工業化が極限まで進んで生産量は事実上青天井です。ですから、中世のヨーロッパの例は参考にならない、ということになるわけです。

 


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めい

mespesadoさんによる補足「産業革命以前と比較したって仕方がない理由」を追記しました。↑
by めい (2018-05-16 04:34) 

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