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『神になりたかった男 徳田虎雄』(2)無念、もうひとつ [徳田虎雄]

もうひとつ、無念の記憶を甦えさせられた。平成8年(1996)10月の総選挙。中選挙区制に代わり小選挙区比例代表並立制で行われたはじめての総選挙だった。置賜は旧山形一区から山形二区となり、遠藤武彦と近藤鉄雄が自民党公認を争ったが、近藤が勝ち遠藤は無所属で出馬せざるをえなくなった。このとき、唯一政党として遠藤を推薦支援したのが自由連合だった。米沢市民会館を満席にした演説会に中央から駆けつけた応援弁士、江本孟紀田村公平両議員はともに自由連合所属だった。結果は遠藤武彦が94,211票で近藤鉄雄(74,500票)を敗り当選を果たした。しかしこのとき、肝心要の徳田虎雄が落選し、すべての目算は狂った。多くの候補者を推薦擁立した自由連合だったが、当選したのは遠藤武彦ひとりだった。その後遠藤武彦は自由連合副代表に就いている。しかし徳田なき自由連合は体をなしえない。いつのまにか遠藤は自民党幹事長加藤紘一の誘いのままに自民党へ鞍替え、裏切られた気持ちがないでもなかったがやむを得ないことだった。翌年4月に宮内で徳田講演会を開催しているが、徳田さん、浪人中のことだった。宮内への病院建設も成らなかった。

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*   *   *   *   *

 徳田は衆議院二回生にして永田町の風雲児として頭角を現した。
 [自社さ連立政権」を率いる総理大臣、橋本龍太郎は、九六年九月下旬、衆議院を解散した。一〇月の総選挙は政界浄化、金のかからない選挙の名分のもと、初めて「小選挙区比例代表並立制」で行われる。本来、憲法観や国防意識が異なる自民党と社会党の大連立には無理があった。権力ほしさの野合と批判が高まり、橋本は国民に信を問うた。
 徳洲会は、三一の病院に職員一万人、医師二〇〇〇人を擁する巨大病院グループに成長していた。医業収入は年間一〇〇〇億円を軽く超え、税引き利益は一〇〇億円に及ぶ。関連会社も年間数百億円を売り上げる。
 年々、病院の新設は難しくなるが、徳洲会は他の医療法人の病院を吸収、合併して数を増やす。バブルが崩壊しても拡大路線をひた走った。
 徳田は、総選挙に向けて資金力にものを言わせ、自由連合の候補者をハハ人も擁立する。衆院解散時点で、自由連合の国会議員は徳田を含めて、政党要件を辛うじて満たす五人だった。大量擁立で形勢逆転といきたいところだが、にわかづくりの候補者には飲み屋のマスター、運転手、多重債務者や、暴力団関係者とおぼしき人物もいた。
 「衆愚政治をとことん徳田は推し進めるのか」と自由連合内で自嘲が洩れる。
 徳田は大量擁立に自由連合と徳洲会の宣伝効果を期待して巨費を投じた。じつは、得体の知れない、あまたの候補者を立てたのは一種の陽動作戦だった。舞台裏で勢力図を大きく塗り替える工作が進められていた。
 選挙戦の最中、自民党幹部の亀井静香は、「選挙後の政局のキーマンは徳田虎雄だ。自民党の成績次第だけどね」「徳田がいろいろな動きをしている。その戦略をさずけたのは三塚博だ」(「週刊ダイヤモンド」一九九六年一〇月二六日号)と遊説先でコメントした。
 三塚は自民党幹事長、大蔵大臣を務め、総理の座をうかがう派閥(清和会)の領袖だった。しかし資金力不足で新人候補の発掘に手間取っていた。三塚は幹事長時代に徳田に沖縄開発庁政務次官のポストを回し、恩を売った。徳田は三塚に会い、こう提案したという。
 「選挙後に当選者を(自由連合に)分けてほしい。その代わり、その候補者の選挙費用のいっさいの面倒をみる」(同前)
 徳田との面談を終えて三塚は腹心の元秘書ら数人を自由連合の選挙対策に送り込む。徳田は三塚派の別動隊を演じる傍ら、新進党、民主党の当選可能な候補者にも手を伸ばした。もちろん選挙資金付きで、である。選挙後、こんな怪文書が撒かれた。
 「今回の総選挙で(徳田は)新進、民主席党の立候補者25、26人に5000万円から1億円程の現ナマをバラ撒き、当選したら自由連合に参画する。その証文も取ってある」
 舞台回しは写真週刊誌の記者H氏(久恒?)が行ったと怪文書は記す。徳洲会の医業収入の年間税引き利益に相当する一〇〇億円を徳田は使ったといわれる。
 怪文書の真偽は不明とはいえ、徳田が選挙後の政局で新党のオーナーにのし上がり、政権のキャスティングボートを握ろうとしたのは明らかだった。選挙期間中に東京半蔵門の東條舎館で聞かれた奄美群島出身者の集会で、徳田は、聴衆を前にこう嘯いた。
 [首相官邸で会いましょう」
 だが、しかし、肝心かなめの徳田が、鹿児島二区で立候補したのはいいが、三〇代の新人候補に約三〇〇〇票の差をつけられ、まさかの惨敗を喫したのである。自由連合を軸にした新党構想は雲散霧消する。徳田マネーを注入された候補者のうち一六人が当選した。大金を使い果たし、新党樹立の大構想は、ただの空騒ぎに終わった。
(234-237p)
 

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