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安西正鷹『お金の秘密』を読む(3)われわれはどうやって「いかがわしさ」に馴れさせられたか(前) [30年後]

この著のいちばんの眼目は、第3章から第5章である。それぞれ「永久寄生者の詐術・信用創造のカラクリ」「複式簿記という魔術」「詐欺の芸術品・イングランド銀行」、自分なりによく納得したくてまとめてみた。   

 

先に、実質価値と名目価値の乖離の少ない秤量貨幣が、国家の統制の下、無文銭から銀銭を経て銅銭に到り、その間実質価値は1/1001/150になることを見た。さらに現在の1万円札はといえば、ほぼ1/500。それをいかがわしいとする感覚は、われわれにはほぼない。

 

《貨幣制度の歴史はまさしく、詐欺的金融手法の進化の歴史である。》106p

《お金を支配する者はお金の本当の仕組みを隠蔽するかたわら、似非学説やプロパガンダの流布に躍起となっている。真相究明の鍵を握るわれわれの直感力は、彼らの必死の工作で機能不全に陥っている。》102p

 

さて、お金の仕組みのいかがわしさは、「信用創造」において極まる。すなわち、銀行から借金して通帳に書き込まれる数字に至っては原価も何もない。しかしその数字が記入されるやいなや、その対価として、その数字に利息を加えて「具体的なはたらき」によって小さくしてゆかねばならない義務が生ずる。このことのいかがわしさが「複式簿記」の仕組みから解明される。

 

複式簿記において、左側を「借方」といい、資産(債権)を記入する。右側を「貸方」といい、負債(債務)及び資本・利益を記入する。なぜ資産が借りで、貸しが負債なのか。ここに複式簿記が訳が分からなくなるつまずきのもとがある。「釈然としないまま簿記に慣れていくうちに、やがて何の違和感も感じなくなる」(128p)ものらしいが、私などはずっとここでつまずいたままだった。この著をヒントに解釈してみた。

 

Aさんが100の資本を用意して会社(法人)を立ち上げて商売をするとする。その資本金100は右側の「貸方」欄に記入される。同時にその資本金分100は、現金として用意されたか預金であるか、左側の「借方」欄に記入される。このことが意味するのは、ある人が法人に資本金を「貸出」したことに始まって、法人はその資本金を「借出」して現金化または預金化して商売が始まるということ。法人にとっては借方欄にあるお金(現金・預金)はこれから商売に使うための資産としてあり、貸方欄にあるお金(資本金)はAさんからの負債としてある。ここで意味の逆転が起きている。

すなわち、Aさんにとっての複式簿記が法人化することによって、Aさんが「貸出」したお金は、法人にとってはAさんへの負債(債務)なのである。こう理解することで「なるほど」となったのだがどうだろうか。


さて、「信用創造」のいかがわしさについてである。「近代銀行業の代名詞ともなった信用創造の欺瞞性が、同銀行の設立経過に凝縮されている」(140p)というイングランド銀行の複式簿記で説明される。


1694年.jpg

イングランド銀行誕生時の複式簿記(1694年)

1段階:銀行の誕生

〈貸方〉(1694.6.217.2 株式応募:£120万(資本金)

〈借方〉7.2711.27 払込:£72万 うち£12万は債務証書(大半は不良債権)

この段階で銀行が所有する本来のお金(貴金属)は、£60万(未払込£48万)のみ

2段階:業務の開始

〈貸方〉8.211.28 約束(捺印)手形発行:£120

〈借方〉11/28 政府向け貸付:£120

3段階:結果 

収益:£7.7万 株式配当:6


《多額の不良資産を抱えていても、システムさえ回ればちゃっかり収益を稼ぐことができるのだ。・・・ここに近現代の銀行業、そして西洋文明の詐欺的本質が余すところなく凝縮されている。》143p

 

そもそもイングランド銀行設立の目的は戦費の調達であった。それまでは戦費は議会の承認がなければ拠出できなかった。イングランド銀行はその歯止めを取っ払った。さらになしくずしに恒久化したイングランド銀行は国家の金を預かるようになって、国家の出納代行者の座につく。(この経緯については次回後述)

 

1797年.jpg

1797年のイングランド銀行の複式簿記

〈貸方〉銀行券:£1,218万 預金:£830

〈借方〉現金(貴金属)保有高:£655

兌換可能金額:655÷1218+830=0.3232%)


《信用創造を支える銀行券や預金が幻想であっても実体として認識され続けることができるのは、現実的にはそんなこと(一斉兌換)は起こり得ないという考えが前提となっているからである。》162p

 

しかし、1797年、ナポレオン戦争の影響により、イングランド銀行の現金(貴金属)保有が£130万を割り込んだ結果兌換停止となる。


《「紙」と「金」の兌換は、あくまで平常時においてのみ成立するルールであり、戦時のような異常時には兌換を法律で禁止することを白日の下に曝した。》164p

 

しかも「一時的」のはずが、1821年まで続く。(つづく)


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めい

《現在の多くの出来事は、欧米経済の金融化というハドソンの説明と切り離して理解することは不可能だ。》という結論が導かれています。熟読玩味に値します。下記要所抜き出してみました。

   *   *   *

《(超アメリカ帝国主義における)債権者の狙いは、債務返済支払いとして、ある国の経済的剰余を丸ごと獲得することである》
《アメリカの債権者とIMFは、債務国に、それで利子を支払うため、更なる金を貸し出すようになった。これにより諸国の外国債務は複利で増えることになった。ハドソンは、債務諸国は債務を返済することはできるまい》と予言し、それはメキシコにおいて現実化した。
《経済理論は、実際は、劣等人種から金をまきあげるための道具である》《経済理論は、世界経済が金持ちと貧乏人へ両極化することへの隠れ蓑として機能している》
《搾取の主要手段が、金融体制による、利子支払いでの価値抽出であることに気がつかない。》
《欧米経済が略奪的な形で大衆の利益を犠牲にし、金融部門が儲かるよう金融化している》

   *   *   *   *   *
2016年2月 3日 (水)
欧米は経済的破滅への道を歩んでいる
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2016/02/post-7030.html
Paul Craig Roberts
2016年2月1日

マイケル・ハドソンは世界最高の経済学者だ。実際、彼は世界でたった一人の経済学者だと言って良いと思う。それ以外のほとんど全員、経済学者ではなく、金融業界の権益のための宣伝係ネオリベラルだ。
もし読者がマイケル・ハドソンのことをお聞きになったことがなければ、それは単に「マトリックス」の威力を示しているにすぎない。ハドソンは、いくつかノーベル経済学賞を受賞していて当然なのだが、彼は一つも受賞することはあるまい。
ハドソンは意図して経済学者になったわけではない。著名な経済学部があるシカゴ大学で、ハドソンは音楽と文化史を学んだ。彼はニューヨーク市に出て、出版社で働いた。ジョルジ・ルカーチとレオン・トロツキーの著作とアーカイブの権利担当になるよう命じられた際、自分でやってゆけると思ったのだが、出版社は二十世紀に大きな影響を与えたこの二人のユダヤ人マルクス主義者の著作に関心を持ってはいなかった。
知人がハドソンに紹介してくれたゼネラル・エレクトリックの元エコノミストが、経済制度をめぐる資金の流れを教え、債務が経済より大きくなると、どのように危機が進展するかを説明してくれた。これにはまったハドソンは、ニューヨーク大学の経済学大学院課程に入学し、貯蓄がいかにして新たな抵当権付き住宅ローンへと変わるのかを計算する金融部門の仕事についた。
ハドソンは、博士号課程よりも、実務経験で、経済について、はるかに多くを学んだ。ウオール街で、銀行貸し出しが、どのように土地価格をつり上げ、それによって、金融部門への利子支払いをつり上げるかを彼は学んだ。銀行が貸し出せば貸し出すほど、不動産価格はあがり、銀行が益々多く貸すのを奨励することになる。抵当権支払いが上がれば、家計所得のより多くと、不動産賃貸価格のより多くが金融部門に支払われる。不均衡が大きくなりすぎると、バブルが破裂する。その重要性にもかかわらず、地代と資産評価の分析は、経済学の博士課程の一部ではなかった。
ハドソンの次の仕事は、チェース・マンハッタンで、各国がどれだけの債務返済をアメリカの銀行に支払う余裕があるのかを計算するのに、彼は南米諸国の輸出収入を使った。住宅ローンの貸し手が、物件からの賃貸料所得を、利子支払いに向けられる金の流れと見なしているのと同様に、国際銀行が外国の輸出収入を、外国ローンに対する利子支払いに使える収入と見なしていることを、ハドソンは学んだ。債権者の狙いは、債務返済支払いとして、ある国の経済的剰余を丸ごと獲得することであることをハドソンは学んだ。
まもなくアメリカの債権者とIMFは、債務国に、それで利子を支払うため、更なる金を貸し出すようになった。これにより諸国の外国債務は複利で増えることになった。ハドソンは、債務諸国は債務を返済することはできるまいと予言し、歓迎されざる予言だったが、メキシコが支払えないことを発表して、本当であったことが確認された。この危機は、アメリカ財務長官にちなんで名付けられた“ブラディー・ボンド”によって解決されたが、ハドソンが予言した通り、2008年にアメリカ住宅ローン危機がおきた際、アメリカ人住宅所有者に対してはなにもなされなかった。超巨大銀行でなければ、アメリカ経済政策の焦点にはなれないのだ。
チェース・マンハッタンは、次はハドソンに、アメリカ石油業界の収支を分析するための計算式を開発させた。ここでハドソンは、公式統計と現実との間の違いに関する別の教訓を学んだ。“振替価格操作”によって、石油会社は、ゼロ利潤の幻想を作り出すことで、税金支払いをまんまと免れていた。税金回避ができる場所にある石油会社子会社が、石油を生産者から、安い価格で購入する。利益に対して税金がかからない、こうした都合の良い国の場所から、利益が出ないように嵩上げした価格で、欧米の精油業者に石油が販売される。利益は非課税管轄圏にある石油会社子会社が計上する。(税務当局は、課税を逃れるための振替価格の利用に対し、ある程度厳しく取り締まるようになっている。)
ハドソンの次の課題は、スイスの秘密銀行制度に流れる犯罪で得た金額を推計することだった。チェースのための彼最後のこの研究で、ワシントンの外国における軍事活動によるドル流出を相殺するべく、ドルを維持するため (犯罪人によるドル需要を増やすことで)麻薬密売人から手持ちドルを惹きつける目的で、アメリカ国務省による指令のもとで、チェースや他の巨大銀行が、カリブ海諸国に銀行を設立したことをハドソンは発見した。もしドルがアメリカから流出しても、需要がドルの膨大な供給を吸収するほど十分に増えないと、ドルの為替レートは下がり、アメリカの権力基盤を脅かすことになる。犯罪人連中が違法なドルを預けることができるオフショア銀行を作ることによって、アメリカ政府は、ドルの為替価値を維持しているのだ。
ハドソンは、アメリカ・ドルの価値に対する圧力の源であるアメリカ国際収支赤字は、性格的に丸々軍事的なものであるのを発見した。海外におけるアメリカ軍作戦の、アメリカ国際収支に対する悪影響を相殺するために、アメリカ財務省と国務省は、違法な利益のためのカリブのタックス・ヘイヴンを支持している。言い換えれば、もしアメリカ・ドルを支えるのに、犯罪行為が利用できるのであれば、アメリカ政府は、犯罪行為を全面的に支持するのだ。
現在の経済学でいうと、経済理論では何もわからない。貿易の流れも直接投資も、為替レートを決定する上で重要ではない。重要なのは“誤差脱漏”つまり、ハドソンが発見した麻薬密売人や政府幹部自国が輸出収入を横領して不正に得た現金に対する婉曲表現だ。
アメリカ人にとっての問題は、二大政党がアメリカ国民のニーズを重荷として、そして、軍安保複合体、ウオール街や巨大銀行の利益や、ワシントンの世界覇権の障害と見なしていることだ。ワシントンにある政府は、アメリカ国民ではなく、強力な既得権益集団を代表している。これが一体なぜ21世紀に、帝国とその受益者のニーズの邪魔にならないところに国民をおいやることができによう、国民の憲法上の保護に対する攻撃が続いているのかという理由だ。
経済理論は、実際は、劣等人種から金をまきあげるための道具であることを、ハドソンは学んだ。国際貿易理論は、国々は、債権者に支払うために、国内賃金を引き下げさえすることで、膨大な債務を返済できると結論づけている。これが現在ギリシャに適用されている政策で、債務国に押しつけられるIMFの構造調整や緊縮政策の基本で、本質的に、国家資源を、外国の貸し手に引き渡す略奪の一形態だ。
貨幣理論は、資産価格不動産や株などのインフレではなく、賃金と消費者価格だけにしかかかわらないことを、ハドソンは学んだ。経済理論は、世界経済が金持ちと貧乏人へ両極化することへの隠れ蓑として機能していると彼は考えている。グローバリズムのお約束は作り話だ。左翼やマルクス主義経済学者でさえ、賃金面の搾取だけを考えていて、搾取の主要手段が、金融体制による、利子支払いでの価値抽出であることに気がつかない。
経済理論が、債務が搾取手段であるのを無視しているので、ハドソンは初期の文明が債務増大にいかに対処したかという歴史を研究した。彼の研究が余りに画期的だったので、ハーバード大学は彼をピーボディー博物館のバビロニア経済史主任研究員に任命した。
一方、彼は金融会社からも引っ張りだこだ。彼は長年アルゼンチン、ブラジルとメキシコ、債券の極端に高い金利を支払うことができるかどうかを計算するよう雇われていた。ハドソンの研究を基に、スカッダー・ファンドは、1990年、世界で二番目に高い利益率を実現した。
ハドソンは現代の問題を調査するうちに経済思想史を研究するに至った。彼は18世紀と、19世紀の経済学者たちが、金融部門の利益により奉仕できるようこれを無視している現在のネオリベラル経済学者より、債務が債務を負う側を無力化してしまう力を基本的に遥かに良く理解していることを見いだした。
欧米経済が略奪的な形で大衆の利益を犠牲にし、金融部門が儲かるよう金融化していることをハドソンは示している。それが、一体なぜ経済が、もはや一般庶民のためにならないのか。 金融はもはや生産的ではないのだ。金融は経済の寄生虫となってしまった。ハドソンは、この話を新刊「Killing the Host(宿主を殺す)」(2015年)で説明している。
読者の方々から、一体どうすれば経済学を学べるかというご質問を頂くことがよくある。長時間、ハドソンの書物を読むというのが私のお答えだ。まず、どういうことが書かれているのかという概要を把握するために、一度か二度通読する。次に、章ごとに、じっくり学ぶのだ。彼の本が理解できれば、どのノーベル賞を受賞したどの経済学者よりも、経済学を良く理解しておられることになる。
このコラムは、彼の本の「はじめに」と見なして頂きたい。私は状況と時間がゆるす限り、この本について、更に書くつもりだ。私の関心事について言えば、現在の多くの出来事は、欧米経済の金融化というハドソンの説明と切り離して理解することは不可能だ。実際、大半のロシアと中国のと経済学者も、皆ネオリベラル経済学教育を受けているので、両国とも、欧米と同じような衰亡の道を辿りかねない。
ハドソンの金融化に関する分析と、私の雇用の海外移転による悪影響の分析を総合されれば、現在の欧米世界の経済的進路が、破滅への道であることをご理解頂けよう。
Paul Craig Robertsは元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリプス・ハワード・ニュー ズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼 の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOSTが購入可能。
記事原文のurl:http://www.paulcraigroberts.org/2016/02/01/the-west-is-traveling-the-road-to-economic-ruin-paul-craig-roberts/

by めい (2016-02-03 07:22) 

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