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安西正鷹『お金の秘密』を読む(4)われわれはどうやって「いかがわしさ」に馴れさせられたか(後) [30年後]

1819年、兌換再開について検討する英国議会の秘密委員会であるピール委員会が設立される。この委員会では銀行券と金とをどう関連させるかについて、物価高騰やインフレを阻止するためにはどうすればよいかをめぐって議論された。議論には二つの対立があった。


ひとつは、リカードに代表される「通貨学派(マネタリズム)」で、「銀行券の過剰な発行がインフレーションを引き起こすとして、発券銀行が金準備を超えて銀行券を発行することを規制するべきである」と考え、兌換復活を主張。もうひとつはトーマス・トゥック等の「銀行学派」で、「銀行券が金準備を超えて過剰に発行された場合、インフレ懸念が発生すると預金者は銀行券の償還(金地金への交換)をすすんで行おうとするため、通貨発行高の問題は自然と解決される」と考え、兌換不要を主張。


通貨学派は、ひたすら「お金」に注目、国の政策もお金をどうコントロールするかにかかっている。この発想が、自由貿易主義すなわちグローバリズムにつながる。


《(リカードの考えは)英国の帝国主義を経済的側面から支えただけでなく、現代のグローバル資本主義の礎を築いた。大英帝国は宗教と軍隊をあたかも砕氷船のように駆使して、世界中の国家を切り崩し、自由貿易による経済的収奪でとどめを刺して植民地に零落させた。》169p


一方の銀行学派(反マネタリズム)の根底にあるのは、世の中はお金だけが基準となって動いているものではないという考え。「お金は人間の欲望を経由して初めて商品の価値に影響を与えることができる」(167p)。お金では割り切れない「互恵」の関係もある。お金に換算できないその土地その土地の独自性も重視しなければならない。農業における自給への注目も重要である。お金に還元できない要素が絡み合い歯止めとなってインフレは防がれる。「すでに人間の欲望が十分に満たされている状態でお金の供給を増やしても、そのお金が商品の購入に向かうとは限らない。余分なお金は預金として銀行に還流してくる」(167p)はずと考える。


ピール委員会の結論は、マネタリズムの主張が通り、銀行券の金貨による兌換復活の方向をとることとなった。1821年、世界初の貨幣制度としての金本位制の確立へとつながってゆく。その中心となったピール卿は、18341835年、18411846年の二回、首相となってマネタリズム的政策を敢行する。「穀物法」の廃止と「銀行条例」の制定である。

 

前者は、農業保護のための「穀物法」を廃止することで、農村から都市への人口流出を図った。これは、安価な労働力供給による労働者賃金を引き下げるという資本家の要求に応えたものであったし、後者の「1844年の銀行条例(ピール条例)」は、「近代金融史における一大エポックをもたらした」(171p)といわれるように、今に至るお金の歴史を考える上で極めて重要な流れをつくった。その意味するところは次の3点。


1. それまでは、お金の発行には貴金属の歯止めがあった。「人々の欲望がいかに高まっても、それを満たすだけのお金の生産が追いつかない限り、人々の欲望は一定程度に抑えられていた。」(172p)のだが、いくらでも増刷可能な銀行券はその安全弁を取り外すことになる。当初はインフレからの経済破綻、社会混乱への懸念から、その発行にはおのずと公共的自制がはたらくはずであった。しかしピール条例によって、利益追求を至上目的とする民間組織のイングランド銀行に通貨発行量を決める権限が恒久的に与えられることになった。


2. イングランド銀行以外の地方銀行による銀行券の発行が禁じられるようになる。つまり、中央銀行としてのイングランド銀行に銀行券発行の権限が独占されることになった。このことについて著者は言う。《銀行券の発行権独占は、長期計画のもとに、ゲットー(ユダヤ人隔離居住区)を飛び出したユダヤ人が同族間の人脈と情報網をフル活用して実現したのである。》178p)イングランド銀行は、ネイサン・ロスチャイルドによって乗っ取られたとも言う。


3. 反マネタリズム(銀行学派)的な考え方では、銀行券はあくまで商業上の必要から発行されるものであり、「銀行には商業が要求する以上の紙幣を発行する動機がない。」(180p)それに対してマネタリズム(通貨学派)は、「銀行券の金兌換が義務づけられていない場合、銀行は保有する金以上に銀行券を発行する誘惑に駆られる。」したがって歯止めとして金兌換が必要と考える。結局マネタリズムの主張が通って、ただし貴金属の準備率を33%として£1400万過剰発行の制限が設けられ、その結果物価は長期にわたって低く抑えられ、インフレ防止はの目的が達成された一方、経済は長期にわたって低迷することになった。

 

こうしてイングランド銀行は、通貨(銀行券)発行の独占的権限を恒久的に獲得する一方、通貨の過剰発行が長期にわたって抑えられた結果、《稀少価値のある有限な資源である金と中央銀行券が等価だという印象を、人々に刷り込むことに成功したのである。》185p)つまり、イングランド銀行を支配する者は、貴金属と全く同じ価値と考えられるお金を思いのままに発行できることになったのだ。
ロスチャイルド財閥の祖マイヤー・アムシェル・ロスチャイルドが1790年に言った言葉、「私に一国の通貨の発行権と管理権を与えよ。そうすれば、誰が法律を作ろうと、そんなことはどうでも良い。」まさにその形がととのったといえる。

 

3つのお金の相関図.jpg

ピール条例によって、稀少価値を持つ貴金属と単なる紙切れである銀行券が、同等の価値であるように思い込ませることに成功した。銀行券は第二のお金となったのである。さらに・・・、著者は言う。

 

《ところが、ピール条例をめぐる論争に隠れて死角となっていたのが、第三のお金である預金の存在だった。》186p《貴金属や銀行券のお金が実体のあるお金なら、預金は影または泡(バブル)のような幻想のお金だ。》187p

 

銀行が帳簿に数字を記入するだけで、その数字は貴金属や銀行券と同等の価値とみなされ通用する。「信用創造」である。著者の結論はこうである。

 

《ピール条例をめぐる議論では、貴金属と銀行券にのみ人々の関心を向けさせた。これは貴金属と預金、または銀行券と預金の関係に焦点が当たって論点とならないよう、巧みに仕組まれた罠であった。/彼らは、稀少価値のある金とイングランド銀行券が等価だという印象を人々に刷り込むことに成功した。銀行券と中央銀行の権威を高めることが彼らの狙いだったのである。》(188p)

 

日本銀行券の10倍以上存在する日本銀行券ではないお金

http://blog.livedoor.jp/inflation_target/archives/3398955.html

[サル以下のリフレ派でもわかる]銀行のバランスシート入門

http://blog.livedoor.jp/inflation_target/archives/5887093.html


(つづく)



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