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『スマート・テロワール』(3) 「水田の畑地への完全転換」で開ける夢の世界 [置賜自給圏構想]

昨年9月のコメ概算金をめぐるニュースは、農家でなくてもショッキングでした。


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コメ概算金低調、農家から悲鳴 「言葉ない」「離農も」   20140913日 07:56


 JA全農山形が決めた2014年産「はえぬき」の概算金は8500円と前年の11千円を大きく下回り過去最低となった。日本一のブランド米を目指している「つや姫」も前年より1200円安い12500円で、他の主要銘柄も8千円台の厳しい数字が並んだ。県内の稲作農家からは12日、「予想以上の低さ」「このままでは農家をやめざるを得ない」と悲鳴が上がった。


 15ヘクタールで「つや姫」「はえぬき」などを栽培する川西町尾長島の小形耕一さん(59)は「言葉がない」と肩を落とした。国は主食用米の過剰傾向を受け、飼料用米の生産を促すが「飼料用米の受け皿がしっかり示されない現状では取り組めない」と話す。


 「低くなるとは聞いていたが予想以上だった」と話すのは村山市湯野沢の石川賢也さん(43)。来年以降も低い価格が続くようであれば「農家をやめざるを得ないだろう」と漏らし、行政の補助拡充を期待する。


 「あきたこまち」や「ひとめぼれ」を作る新庄市十日町の高橋保広さん(67)は「『農家をやめろ』という意味に捉えた。このままでは赤字で農家は皆途方に暮れる」と憤る。「政府は環太平洋連携協定(TPP)交渉妥結を目指し、米国や豪州に対抗できる大規模化を進めようとしているが、これでは大農家ほど経営が厳しくなる」と訴える。


 12ヘクタールで「つや姫」「はえぬき」などを作付けしている鶴岡市谷地興屋の草島孝男さん(68)は「リタイアする農家の農地を引き受けるなど来年以降の作付けを見直さなければいけない」と不安を隠さない。新規就農者への影響も懸念し「国は未来を担う若手や頑張っている農家への支援を手厚くしてほしい」と語った。


長沢JA山形中央会長、需給安定対策を吉村知事に要請


 2014年産米の販売環境が極めて厳しい状況を受け、JA山形中央会の長沢豊会長は12日、吉村美栄子知事にコメの需給安定対策を要請した。


 来年の再生産に必要な資金の融資制度創設に加え、政府に対し▽過剰米の緊急対策▽政府備蓄米の柔軟な買い入れ、売り渡しなどで豊凶による需給変動を補正する仕組みの構築▽米価変動に対応できる経営安定対策―の実施を働き掛けるよう求めた。


 吉村知事は「県として必要な対策や国への働き掛けをしていきたい」と返答。その上で、JA全農山形がこの日決めた各銘柄の概算金に触れ「販売が堅調な『つや姫』は下げなくてもいいのではないのか」などと繰り返し、全農山形の運営委員会長を務める長沢会長に「パックライスなど付加価値の高い加工品の製造・販売にもしっかりと取り組んでほしい」と注文した。


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松尾さんは、吉村知事の「つや姫」宣伝への挺身ぶりを「同士討ち」との言葉で一刀両断しました。他の銘柄を減らすだけ、農家全体にとってはなんにもなってないというのです。「スマート・テロワール」のいちばんの眼目は「瑞穂の国」幻想からの脱却です。明治維新で文明開化と言いつつ、封建時代のままコメにこだわり、《畑や森林の活用、自然との共生といった点において西欧の合理的な考えは顧みられず、日本の農村はまだ文明開化にいたっていないのではないか。》(222p)そのあげくの農業内部の潰しあい。まず現実を見て下さい。ということで示されるのが下のグラフです。グラフを見るまでもなく実感でわかることですが。 

コメ消費量の推移.jpg

ではどうするかということが下の文章です。あくまで水田の畑地への完全転換でなければならず、田畑輪換ではだめです。

《私は過剰な水田を畑地や草地へと転換することを熱烈に推奨します。/また、収穫した作物の加工場ができることで、市場経済によって分断された農村コミュニティを改めて紡ぎ直すことになります。市場経済を支えているのは競争原理に基づく個人プレーです。けれども、これによって農村コミュニティが解体してしまっては元も子もありません。ばらばらばらになった個人をつなぎあわせてコミュニティを創出することが、村の力になります。その主役は消費者である地域住民です。彼らが食の安全と健康を確認できる地元産に期待を寄せ、農家と加工業者が地域住民の期待に懸命に応えられる仕組みをつくるのです。そうすれば為替レートにも商品相場にも影響されない自給圏ができます。消費者と供給者が双方から手を伸ばすスマート・テロワールが形成されます。それは四つの食料生産システム(畑作・畜産・水田・水産)を包含できます。/もちろん自給圏で全量自給することは求めません。カロリー消費量の50%を自給目標とし、30%を国内他産地の原料に依存し、残りの20%を輸入品でまかなう。こうした自由な交易が村の発展につながります。/地域内の生産物を消費の中心に置けば地域に誇りが生まれます。東日本大震災の後に出てきた「絆」という言葉は、このようにして二十一世紀のトレンドになります。同時に電力の自給と重なり、地域内で理想的な循環型社会が形成されることになります。》55-56p


たしかに夢が湧いてきます。松尾さんがわれわれに出された宿題のひとつは、まずもって、30年後この置賜がどうなっているか、思いっきり自由に楽しく夢を描いてみて下さい、ということでした。

 


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めい

「農林水産省は、食料自給率(カロリーベース)の目標を現行の50%から45%に引き下げる」ことについてのあいば達也さんの議論です。

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官僚の得意技・霞が関文学 そして誇大癖なリーダーとの共演(世相を斬る あいば達也)
http://www.asyura2.com/15/senkyo181/msg/517.html
投稿者 笑坊 日時 2015 年 3 月 15 日 18:08:37: EaaOcpw/cGfrA
     

http://blog.goo.ne.jp/aibatatuya/e/7c5be07c1c32372c109766e94ac8cc55
2015年03月15日

一時、筆者は安倍首相が、アホで右翼的言動が多い人だが、性格はイイと聞き及んでいた。結構長いこと、そういう印象で眺めていたが、どうも生まれつき嘘つきのようである。それも、真っ赤な嘘だと誰もが感じても、恥じることなく、その嘘の中で暮らしている。つまり、子供の頃から自己弁護、自己正当性を強弁する育ち方をしたようである。俗に云う虚言癖の傾向もみられるので、半ば病気なのかもしれない。

虚言癖とは、ついつい嘘をついたりする精神系の病気の症状の総称のようなものだ。統合失調症、妄想性パーソナリティ障害、反社会性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害、演技性パーソナリティ障害などの症状が出るのだそうである。全体を通じて、虚栄心や自惚れが強く、自分を実際より大きく見せようと腐心して育ち、大人になっても、その傾向が継続する。多くの場合、小さな行いでも、大きな行いをしたことにする。或いは、小さなことを行おうとしていても、大きなことをするように吹聴し、仲間の間での尊敬を得ようと、ついつい思ったて、デカいことを言う。精神医学では、コンプレックスの変形だとみなされる。

そういう意味では、気の毒と云うことで同情心も湧くわけだが、この症状を放置し、思い通りに、その虚言を追認するような環境が続くと、周りの人間に害が及び、延いては、その周辺にまで害が及んでいくと云う。一般的には、ヒステリーの症状も見せるが、そのヒステリー症状は、肉体的にどこかが壊れることで、精神的部分のヒステリー症状が消えるのだそうである。現在、同氏は、肉体的症状が出ない薬で、そのヒステリー症状を抑え込んでいるわけだが、その分、反社会性及び自己愛性パーソナリティ障害が国会における答弁などに出ているように見えてくる。まあ、素人診断なので、当たっているとは断言できない。

このような場合、どうしても窮地に陥ると、役人の作文を読むことになる。その時、霞が関の官僚たちは、その作文の中に自己権益拡大を誘発するシナリオを混入させる。謂わば、時限爆弾のようなもので、文言を読む限り気づきにくい。全体のストーリーの中に、巧妙に埋め込むので、滅多に読んでいる本人も、聞いている人々も、その時限爆弾の仕掛けに気づかない。安保法制にしても、初めの威勢の良さに比べると、“尻すぼみ”な法案になりそうだし、原発輸出もすんなり行われていないし、武器輸出も、ライバルの壁が厚く、些末な数字しか期待できないようである。右翼が歓ぶほど過激に行動できないし、リベラルが心配すほど動けていない。安倍の場合、言葉の強さと比較すると、その実行力はかなり程度の低いものになっている。だから安心しようとは言わないが、官僚たちの時限爆弾の方は、大いに注意した方が良いのだろう。筆者も気づくほど読んではいないのだが…(笑)。

TPP交渉の推移も、秘密主義だから、今ひとつ見えていないが、新聞報道などを読んでいる限り、概ねまとまったとか書いてあるが、どうも雲行きは、相当怪しいようである。日本はアメリカ追随方式だから、最終的に妥協が貰えれば“御の字”な交渉姿勢なので、どうでも良い。しかし、アメリカの議員は、様々な利益集団の代表となるので、容易にウンとは言わない。暗闇の大型協定に、中身も見ないでOKするなどあり得ず、内容の公表を強く要求している。また、米欧間の環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)では、内容の公表に動いているので、TPPだけがブラックボックスは許されないと云う主張が強くなっている。成立の可能性は、オバマの任期問題もからみ、4:6の感じになってきている。

TPPの話を出した序でに、日本の食料自給率に関する報道がなされていた。今では、あまりに安倍政権の政治保守な話ばかりで忘れがちだが、一時は大騒ぎした、食糧安保の問題は、このTPPとも大きく重なることである。ところが、我が国の食料自給率と云う言説には、大いに疑問が多いことは、周知の事実である。衣食住の中で、最も人間の死活問題に直結しているのが「食」である事は言うまでもない。そこで、コラムの締めくくりは、この食料自給率について、勉強しておこうと思う。以下は、農林水産省が発表した件の報道である。政府は、3月末にも新たな自給率目標などを盛り込んだ「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定するそうだから、結構重要だ。

≪ 食料自給率:45%に目標引き下げ…財政難でてこ入れ困難

農林水産省は、食料自給率(カロリーベース)の目標を現行の50%から45%に引き下げる。財政難で大型補助金によるてこ入れが難しい中、2013年度で39%にとどまる自給率を現行目標まで引き上げるのは困難と判断した。 食料自給率は、 国内の食料消費が国産でどのくらい賄えているかを示す指標。1965年度に73%あった自給率は、89年度に50%を切り、2010〜13年度は4年連続で39%だった。背景には、国民の食生活の変化で、自給率の高いコメの消費量が減り、自給率の低い肉類など畜産物の消費が増えていることがある。

 農水省は10年、自給率目標を45%から50%に引き上げた。ほとんどを輸入に頼る小麦の国内生産拡大を自給率向上策の柱に据えたが、目立った成 果はなし。昨年10月には財務省の審議会が「財政負担に依存した国内生産への助成措置のみで自給率を引き上げるのは困難」と批判していた。

 政府は、3月末にも新たな自給率目標などを盛り込んだ「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定する。生産額ベースの自給率をより重視していくこと や、国内農林水産業の潜在的な生産能力を示す「食料自給力」を新たな指標に加えることも打ち出す。自給力では、凶作や輸入の急激な減少などの有事に備えるため、農地面積や農業従業者などを最大限に活用した時の生産量を示すという。「いざという時に生産できれば、自給率が高くなくてもかまわない」との考えとも言え、自給率向上を軸としてきた日本の農政が大きく変わる可能性がある。 ≫(毎日新聞:田口雅士)

実は、この問題を考える時、そもそも論から始めなければならないのも、多くの方がご存知のことである。この件に関しては、「農業経営者」の副編集長・浅川芳裕氏の著書「日本は世界5位の農業大国」に詳しい。だいたいが、自分たちの予算分捕りの為に、食料をカロリーベースで、その自給率を算出すると云う欺瞞な方式を選択したところから話がこんがらがる。国の特定の産業の規模をみる場合、農業の生産額が算出基準になるべきである。

農林水産省は日本が大変な食糧危機状態である「神話」を作るろうとしているだけで、経産省が「原発発電安い神話」を広めているのと同じだが、霞が関の都合で作り上げた「神話」の中で、騙されて生きている方が楽であったり、日々の利益になる社会構造があると云う点が宿痾のようにへばりついているのだろう。仮に、輸入できない状況が続けば、現在、輸入する方が安価である小麦や肥料を国内の物に切り替えれば良いわけで、食糧危機が容易に起きることはない。

市場原理主義的傾向のある人物たちが、この農林水産省の「自給率神話」を悪しざまに貶しているが、そういう意味ではなくとも、日本の食料自給率の話は噴飯ものである。畜産品の国産率は7割近いのに、飼料の穀物が国産ではないから自給率が2割を切るなどと算出されるのだから、まったく意味をなさない。小麦の輸入が止まるのなら、米、大麦、トウモロコシを増産すれば良いことで、特に困らない。問題なのは、自給率そのものよりも、「潜在的自給力」の問題なのだと思う。いざとなれば、高くつこうが、品質にばらつきが出ようが、自給可能な力「自給力」(農地?)を確保しておくことが、最も大切なのだろう。

水の安全性や治水、洪水対策なども含めて、農地や水田が生きた形で維持されている事が重要なのである。つまり、潜在的自給力を溜めておく必要はある。いざとなれば、その土地が田畑になり替わる土地の目安をつけておくことは、食料や水の安全保障確保と云う議論に馴染む。現時点で、その土地が農作物を生産していなければならないと云うものではないだろう。農業の専門家から、簡単に作物を生産できる土地は出来ないと云う大仰な話も聞くが、食うものがない時に食えるものであれば良いわけで、市場性は、その時の食料の需給のバランスで成立するので、深く悩まなくて良い。極端に専門的にならず、作物の作れる場所の確保は食の安全保障上必要であり、その程度の問題だ。ただ、今の政府の市場原理に基づく農業の企業化は、食糧安保とは意味合いが違うようだ。

by めい (2015-03-16 05:16) 

めい

《まじめに農業をやろうと思う農家は、土づくりを通した地力の維持にも正面から向き合う。そういう農家を後押しする政策をどれだけ打てるかに、食料自給力の行方もかかっている。》
《コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を》

農業については全くわかりませんが、参考になる記事のように思えたので貼付けておきます。

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農地が痩せたのはだれのせいか?ここにもあった減反の罪 
本当にオランダの農業に学ぶべきなのか 
http://www.asyura2.com/15/senkyo182/msg/542.html
投稿者 rei 日時 2015 年 4 月 03 日 13:28:08: tW6yLih8JvEfw 

http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150401/279488/?ST=print
農地が痩せたのはだれのせいか?ここにもあった減反の罪

2015年4月3日(金)  吉田 忠則

 日本の食料問題を考えるための指標として、新たに「食料自給力」が注目を集めている。いざというときに、田んぼや畑で食料をどれだけつくれるのかを示す指標だ。だが農地の広さだけ測っても、食料の供給力が分かるわけではない。日本の農地の地力はどうなっているのか。農業・食品産業技術総合研究機構の中央農業総合研究センターで土壌の研究をしている新良力也上席研究員に話を聞いた。

大豆をつくる水田は肥沃度が低い

日本の農地の地力はどうなっていますか。

地力の低下に警鐘を鳴らす新良力也氏(つくば市)
 「我々が調べているのは、水田の地力です。本州以南の地域は水田が大部分を占めている。その地力が広く落ちている可能性があります。とくに注目しているのが、生産調整(減反)の結果、水田で稲以外の作物をつくっている農地の地力です」

 「例えば、富山県では、減反が始まったころ、転作作物として水田で大豆をつくると、10アール当たりで250キロぐらいとれていた。最初は一生懸命つくったので収量が増えた。ところがその後、減り始め、最近では150キロぐらいしかとれなくなった」

 「そこで現場の農家や普及員の間で、『最近とれなくなったよね』『土がやせているんではないか』という声が出始めた。これが、我々が地力を調べ始めたきっかけです。10年くらい前から調査を始めました」

結果はどうでしたか。

 「減反を始めたころの地力を調べて比べることはできません。そこで、稲をつくり続けている水田と、転作で大豆をつくっている水田を比べてみました」

 「土の肥沃度はいろんな要因が左右します。まず窒素、リン酸、カリウムのような栄養分がある。病気が出にくい土壌というのもある。水はけが適度にいいかどうかも影響する。そのなかで、最も重要な栄養分である窒素を調べました」

 「実験室でビーカーに土と水を入れ、一定の時間内にどれだけ窒素、具体的にはアンモニアが出てくるかを調べました。その結果、はっきり分かったのが、稲をつくらず、大豆をつくる年数の多い水田ほど、肥沃度が低いということです。地力の消耗と、過去に何回畑作をやったかが関係しています」

なぜ転作の回数が多い土ほど、地力が低いのですか。

 「有機物が分解され、栄養分として植物に窒素が供給されます。田んぼに水を張っていると、有機物の分解が抑制される。それに対し、水を抜いて転作作物をつくると、水田が畑の状態になるので、分解が速まってしまうんです」

 「有機物は炭素が主体ですが、畑だと酸素がいっぱいあるので、それとくっついて二酸化炭素になる。これが有機物の分解と関係しています」

手間ひまかけて土づくりを

それは、減反による転作とは関係なく、ふつうの畑にも言えるのではないですか。

 「水田を畑にして転作作物をつくっても、ある段階までは、ずっと畑だった場所よりは土が肥沃な可能性はあります。問題はさらに地力が落ちた点にあります。水田はあまり手間をかけずに地力を維持できる。その感覚で、転作作物をつくってはまずいということです」

 「手間の問題は、稲作農家の高齢化と米価の下落も影響してきます。労力と資金面の両方から、地力を維持するための手間をかけにくくなっているのです」

なぜ、地力の低下がそれほど問題になってこなかったのでしょうか。

 「富山県でかつては大豆が250キロとれたと言いましたが、これはすごく収量が多い例です。転作でつくった大豆の収量が、ずっと150キロ程度しかない県もたくさんある」

 「転作作物を一生懸命つくることを、もともと考えてこなかった可能性があります。地力の低下がいままであまり問題になってこなかったのは、そういうことも関係しているのかもしれません。『とれなくてもいいんだ』という感覚だったんでしょうか」

 「しかも、同じ田んぼでずっと大豆をつくり続けるわけではないので、稲と大豆を完全に分けて考えることもできません。例えば、このごろ猛暑がよくありますよね。すると高温障害が起きて、コメの品質が落ちやすくなりますが、それも地力の低下が助長している可能性があるんです」


水田の地力をどう維持するかが今後の課題となる
化学肥料で地力は維持できますか。

 「化学肥料だけを入れても、作物は育ちます。でも、昔の人は『田んぼにも堆肥を入れましょう』と言っていた。長い時間を考えるなら、『有機物を入れて、手間ひまかけて土づくりをしましょう』と言ってきたことは正しいんです」

 「有機肥料は徐々に分解するので、植物に供給されるまでに時間がかかる。畑や田んぼに入れても、そんなに簡単には流れません。ところが、化学肥料は水にとけて、さっと流れていってしまう可能性がある」

 「有機物を入れると、土壌に適度な隙間ができて、水が通りやすく、根が入りやすくなります。ところが、土壌に有機物がないと、隙間がなくて土がかちんかちんになる」

「乾田直播」の普及に期待

化学肥料と有機肥料で農家の労力は変わりますか。

 「化学肥料の場合、20キロの肥料に窒素が4キロぐらい入っていて、それが即効的に効く。これに対し、堆肥のなかの窒素の量ははるかに少ない。もしかしたら、10アールで1トンまかなければならないかもしれない。この労力はとても大きい」

 「野菜農家なら、それも可能でしょう。野菜は単価が高く、狭い面積で経営が成り立つからです。でも、稲や麦や大豆は広い面積が必要になる。5年や10年で収量の変化が目立ってこないなら、手間ひまかけて土づくりをする気にはなりにくいかもしれません」

どうすればいいのでしょう。

 「まず田んぼで稲をつくるにしても、転作で大豆をつくるにしても、合計の穀物の生産量を上げることを考えるべきです。そうすると、大豆の収量をもっと増やさないといけない。堆肥を入れるのは労力がかかると言いましたが、例えば、田んぼに緑肥のタネをまいて、すき込むという方法もあります。そうすれば、1トンもの肥料を運ばなくてすむ」

 「これは地力の問題ではありませんが、大豆の収量を落とす原因のひとつに湿害があります。稲を一生懸命つくって、湿ったままの田んぼで大豆をつくるから、収量が上がらない。考えを変えて、大豆もきちんとつくるなら、水はけをよくする土づくりが必要です」

 「乾いた田んぼに稲のタネをまいて、後から水を入れる乾田直播のような技術もあります。これだと、田んぼの土が畑と同じような状態になります。しかも、苗づくりをしなくていいので、圧倒的に労力が少ない。これから担い手に農地が集中していけば、こういう技術が広まっていくと期待しています」

 新良氏の発言は、地力の低下を専門家の立場から論じたもので、農業政策の是非を直接問うのが目的ではない。だが、その内容は今後の農政のあり方を考えるうえで示唆に富むので、補足しておこう。

 まず考えさせられるのが、減反政策が日本の食料供給力に大きく影響してきたという点だ。この連載で以前とりあげた岩手県の盛川農場(2014年7月11日「最強の農業経営のヒミツ」)などは例外で、多くのコメ農家は転作作物を本気でつくってこなかった。


乾田直播で田んぼを畑のように使う盛川農場(岩手県花巻市)
 盛川農場の場合、麦や大豆など転作作物の生産をほかの農家の分まで引き受けて規模を拡大し、生産性を高めてきた。その結果、新良氏も推奨する乾田直播に出会い、コメを畑作と同じような栽培体系でつくることに成功した。

 兼業化が急激に進んだ多くのコメ農家はそうではなかった。田植えと稲刈りを除けばほとんど作業がいらないコメ以外の作物をまじめにつくる意欲を失い、転作作物の生産性の向上を目指さなかった農家も少なくない。

 これは、新良氏が指摘するコメ農家の高齢化と米価の下落が進む以前から起きていたことだ。減反面積はいまや水田の3~4割に達している。その広大な農地で、地力の維持という農業にとって最も大事なことに十分な関心が払われてこなかったのだとしたら、減反の罪はけして軽くない。

「地力」維持に臨む農家の後押しを

 2018年には国が各県に主食のコメの生産上限を提示する減反制度が廃止になる。農水省はそこで主食ではなく、家畜が食べる飼料米の生産に誘導しようとする。コメ農家をこれまで以上に補助金づけにし、経営力の向上を阻むこの制度の弊害はくり返し指摘してきたので、ここでは省く。

 政府が3月31日に閣議決定した「食料・農業・農村基本計画」は、日本の食料自給力が危機的な状況にあることを示した。栄養的にみてバランスのいい食事をとろうと思うと、国内だけでまかなうことのできる食料はカロリーベースで7割しかない。

 農地の耕作放棄はなお進行中だ。高齢農家の引退で担い手が不足し、荒れ地がさらに増えるとともに、農業技術が十分に次代に伝わらない懸念もある。しかも、その背後で地力の低下も進んでいるのなら、日本の今後の食料自給力を楽観することはできない。

 答えはシンプルだ。まじめに農業をやろうと思う農家は、土づくりを通した地力の維持にも正面から向き合う。そういう農家を後押しする政策をどれだけ打てるかに、食料自給力の行方もかかっている。その危機感を、農業界も農政も共有していくしかない。

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兼業農家の急減、止まらない高齢化--。再生のために減反廃止、農協改革などの農政転換が図られているが、コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を、日経ビジネスオンライン『ニッポン農業生き残りのヒント』著者が正面から問う。
日本経済新聞出版社刊 2015年1月16日発売

このコラムについて
ニッポン農業生き残りのヒント

TPP(環太平洋経済連携協定)交渉への参加が決まり、日本の農業の将来をめぐる論議がにわかに騒がしくなってきた。高齢化と放棄地の増大でバケツの底が抜けるような崩壊の危機に直面する一方、次代を担う新しい経営者が登場し、企業も参入の機会をうかがっている。農業はこのまま衰退してしまうのか。それとも再生できるのか。リスクとチャンスをともに抱える現場を取材し、生き残りのヒントをさぐる。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43372 
本当にオランダの農業に学ぶべきなのか?大規模施設栽培、ハイテク農業、日本では難しいこれだけの理由
2015.4.3(金) 有坪 民雄
日本は地域によって気候が千差万別。作物栽培はその土地の気候にあった環境制御が求められる(資料写真)
 最近、日本の農業はオランダに学べといった論調が多くなっています。オランダがモデルとして扱われるのは、国土が狭く、農業を行う環境が良くないにもかかわらず農産物の輸出大国として成功しているからです。
 しかも、世界2位の農産物輸出大国ですから、たいしたものです。そうなった要因はいろいろありますが、作物栽培に関しては以下の2点が挙げられます。
(1)選択と集中で花卉(かき)やトマト、パプリカを中心とした大規模な施設栽培の比重が高く、輸出品として競争力を持っている。その反面、食糧自給率は低いままで捨て置かれている。
(2)ハイテク環境制御システムを駆使して施設内の環境を整え、安定的に高品質の作物を生産することが低コストで可能となった。
 農業の危機とは、要するに所得の問題です。農業に携わる者の所得が向上すれば解決するわけです。もともと農業の適地とは言えなかったオランダは、それゆえに作物としてはチューリップなどの花卉やトマトなどに力を入れ、栽培法としては施設栽培に力を入れてきました。そんな国が、食糧自給を最初からあきらめて自分たちの勝負できる土俵で成功したと言うことで、オランダに学べという意見が出てくるのも当然でしょう。
 食糧自給率を無視した農業政策を行えば活路は開けるのではないかと思う人にとって、オランダの成功事例は特に魅力的に見えるので近年話題に上るようになったのだと思われます。

日本でも試されていたハイテク農業
 ところが、こうしたニュースの陰で忘れ去られていることがあります。作物を絞り込んで、ハイテクを駆使した環境制御によって作物を作ろうとしたことは、過去に日本でも何度かあったのです。
 筆者の知る最も古い例は、今から30年前、つくば万博に展示された「ハイポニカ農法」です。1本の苗からトマトが1万7000個なるとして当時大いに話題になりました。オランダのトマトの収量は日本の3倍ほどあるそうですが。ハイポニカの収量はオランダのはるか上を行きます。ハイポニカ農法は今でも行われていますが、今なお普及途上です。
 1997年にはオムロンが農業に参入して、同社お得意のハイテク制御機器を駆使したトマト生産を始めましたが、生産開始から3年も経たないうちに撤退に追い込まれました。
 同じ頃、ユニクロが農業に参入したことも話題になりましたが、こちらに関しては農家もけっこう“お手並み拝見”的に見ていましたし、2年も経たずに撤退した時も別に驚きはなかったと思います。
 しかしオムロンは、ハイテク施設栽培に使用可能な制御機器のメーカーとして真っ先に候補に挙がってもおかしくない会社です。そんな技術力と実績を持つ会社でも失敗するのかと、けっこう驚く人が多かったと記憶しています。
 オランダのやり方に学べと言っても、日本ではとうの昔から行われ、失敗していることも多いのが実情なのです。

オランダと日本の気候風土の違い
 もちろん、ハイテク施設栽培の全てが失敗しているわけではなく、カゴメのような成功例もあります。しかし、そうした成功例を見ていて思うのは、これは相当に強固な財務基盤と根性がないと無理だということです。
 いわゆる植物工場の初期の成功例としては、合併してJFEになる前の川崎製鉄が有名ですが、かなりの期間、赤字経営が続いたと聞いています。カゴメの場合も1999年に、今話題のオランダに学んだハイテク栽培を始めましたが、安定収穫までに5年、黒字化は2012年までかかりました。
 カゴメと言えばおそらく日本で最もトマトを知り尽くしている会社です。そんな会社ですら、10年以上の赤字に堪え忍ばなければならなかったのです(「こだわりの国産トマトで世界と戦う【1】」プレジデントオンライン)。
 そうなった理由は、1つには気候と風土が挙げられると思われます。オランダは緯度的には北海道よりも北にあるものの、海洋性気候で比較的温暖ですが、夏は暑くならず比較的冷涼な気候です。食べる作物としてはテンサイやジャガイモが最も多く生産されていることから分かるように、夏の気温は北海道並み、冬は北海道ほど気温は下がらず、日本の本土並くらいという、季節の寒暖差は少ない国です。
 また「山がない」と言われるほど平地ばかりの国ですので、地域によって気候に大きな差は出にくいと思われます。1つのノウハウが確立できれば、それを全国に拡散するのも容易なのでしょう。
 これに対し、南北に長く、山も多い日本の場合、地域によって気候は千差万別です。施設栽培をするなら、当然その土地の気候にあった環境制御が必要になってくるわけです。制御できるレベルによって、同じトマトでもできるものとできないものがあるだろうくらいのことは、農家なら容易に想像できます。おそらくは、立地している場所によってノウハウは違ってくるでしょう。
 すなわち、作物栽培の部分だけでも、単純にオランダのマネをしようとしても簡単ではないということです。それでもやるなら多額の投資をするだけでなく、10年レベルの赤字に耐え得る財務基盤と、それだけの長期間の赤字垂れ流しを許容する経営者の根性が必要になってくるのです。

伝えられないオランダの農業の現状
 オランダの農業に学ぶところがないとは言いません。大いに学ぶところはあります。しかし近年のオランダ絶賛の論調は、正直なところ「大量生産すればコストが下がって国際競争力がつく」みたいな、単純な思い込みによるものに見えて仕方がありません。
 最後に一言。現在のオランダは、輸出商品の生産過剰による価格の低迷と、スベインやポーランドの台頭で競争力を失いかけていること。そして、次に手がける有力な作物が今のところ見当たらないという状況にあること。これは専門家には知られているようですが、一般メディアで書かれていないのはなぜなのでしょう?

by めい (2015-04-03 18:51) 

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