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『純粋機械化経済』を読む [大学紛争]

純粋機械化経済Scan 41.jpg井上智洋著『純粋機械化経済』について書く。
だいぶ時間をかけて読み終えたのが7月29日だった。「於 満州」とある。488pの厚い本なのにわざわざ中国まで持っていっても読み終えたかった毎日10分、朝の読書の本だった。6/20に注文しているので、読むのに1ヶ月以上ぐらいかけている。読みながら、読み終えたら何か書かねばならない本と思っていた。いろんな切り口が考えられた。最終章「AI時代の国家の役割」の第1節は「1968年革命」の見出しで始まり、最後は《D&G(ドゥールズ&ガダリ)の意図を明暸に言い表すことはできないが、 彼らは少なくともフランス革命やロシア革命のよう黙示録的な革命(体制を転覆させるような革命)を目指していたわけではない。/彼らの思い描いた革命に心のアナーキズムとか脳内革命といった以上の含意があるとすれば、それは資本主義を極限まで推し進めることで実現するような革命だ。その点、彼らは賢明である。というのも、資本主義のオルタナティブはなく実現し得る革命はそれしかないからだ。/AI(人工知能)とBI(ベーシックインカム)によって、 資本主義を極限まで推し進め、純粋機域化経済を実現させれば、脱労働社会を作り上げることができる。それこそが 最大限に自由と平等を両立し、あらゆる人々が幸福に生きられる社会ではないだろうか。・・・/私たちはなすベきことではなく、したいことをするようになる。仕事をしたいから仕事をする、勉強したいから勉強する、遊びたいから遊ぶ。1968年、当時の学生たちは、「~すべし」と命令する父権的な強迫観念から解き放たれたかったのではないだろうか。/68年革命は「何のリハーサルだったのか」という問いに対して、私はさしあたりハッカーたちが引き起こす情報革命のリハーサルだと答えた。さしあたりではなく最終的にはどうなのかというと、それは脱労働社会を到来させるAIとBIによる革命のリハーサルだ。》(474-475p)でこの大著は締められる。私にとってはまさに「大学紛争をどう評価するか」についての明瞭な答えを出してくれた本だった。「大学紛争」が始まったのが1968年、もう半世紀が過ぎている。1975年生まれ44歳の著者が、我々の体験の意味を解き明かしてくれた。感慨深い。「父権的な強迫観念から解放」とは要するに、「根源的思考への志向」であり、それはすなわち「自己感覚を拠りどころとする」ということだった。さらにそれはアナーキズムに通ずる。《現代のアナーキズムは、⑴ドゥールズ&ガダリの思想 ⑵カリフォルニアン・イデオロギー ⑶リバタリアニズム という三つの要素を持っており、いずれも中枢=国家に対して否定的だ。》(418p)とりわけ「1968年革命」の精神は、「創造的破壊」ということで「カリフォルニアン・イデオロギー」へと通じてゆく。一時は「ヒッピー」に象徴される「カリフォルニアン・イデオロギー」の中から、マッキントッシュやウィンドウズやアイフォンが生まれ出る。《「21世紀を発明した人々が、スティーブのように、サンダル履きでマリファナを吸う西海岸のヒッピーだったのは、彼らが世間と違う見方をする人々だからだ。東海岸や英国、ドイツ、日本などのように階級を重んじる社会では、他人と違う見方をするのは難しい。まだ存在しない世界を思い描くには、60年代に生まれた無政府的な考え方が最高だったのだーーーボノ」》(435p)

では、日本ではどうだったのだろうか。
8年前の民主党政権の時代、こう書いていた。あの時代を日本の戦後史に明確に位置付けた論を私はまだ知らない。ややもすると、とりわけあの時代「闘争」として体験した人たちにとっては、青春の思い出のように美化され郷愁の対象になってしまったりしているのではないだろうか。菅、仙谷といったいま権力の中枢にある方々にとってあの時代はどう自分の中で「総括」されて今に至っているのだろう。「精神年齢は70年代のままかもしれません。」の指摘が当を得ているように思えてならない。》(昭和40年代(1960年代末)大学紛争の時代を生きて)
私の大学で突然「スト権確立」したのは、私が3回生の後期、1969年の1月20日だった。26日教養部封鎖。私は「部外者」に身を置いて、ひたすら寮でじっとしていた。私にとっては、高橋和巳から吉本隆明へのちょうど移行期だった。「結局は片想い」だった人がいたりして、自分にとことん沈潜できた時期だった。今思うと贅沢な時間だった。あの時間のおかげ、と今は言える。この著、「あの時の意味」についてあらためていろいろ思わせてくれた。しかし「世界レベル」ではそうだったとしても、日本においてあの時代の「成果」は、というと何を挙げることができるのだろうか。ひょっとして、我々はダメでも、我々の子供の世代が案外引き継いでくれているのかもしれない。この著者、ちょうどその世代だ。

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