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『徹底検証 神社本庁』(藤生 彰)を読む [イハトビラキ]

徹底憲章神社本庁.jpg『徹底検証 神社本庁』(藤生 彰)の目次紹介に葦津珍彦(うずひこ)の名があったので求めた。

終戦直後、「GHQの考えは、神社は宗教としてのみ存続可能」と知った神社界側から、「神社教」案が出たことがあった。この「神社教」案は、仏教教団の規則をまねた管長制のピラミッド型組織が目指され、教義決定権のほか、官国幣社の大中小社・別格社以外の宮司の任免権は管長がもつというものであった。この案に真っ向から反対したのが葦津たちであった。《神社界はいま危機に直面しているのであって、職業的神職の官僚主義を一掃しなければならないのに、神社教案はこの方針に逆行し、宗団の中枢部を私有独占しようとするものであり、神社永遠の将来のために、断じて反対せざるをえない》として、《一、神社神道には、固定的成文的な教義や定義のないことが大切な特色である。皮相浅薄な教義を成文的に規定するがごときは、惟神(かむながら)の大道に対する冒瀆である。/ニ、神社の本質は、あくまでも全国民的なものでなければならぬ。神社が自ら仏教、キリスト教などの宗派、一分派と同様に、宗団的存在と化し、他宗派の国民と対立することは、神社の本義に反する。/三、本来、それぞれに独立せる神社である。それは伊勢の神宮の分所でもなく、中央本山の末寺でもない。強権的・中央集権的組織を非なりとし、自由なる連盟組織を主張するゆえんである》と主張した。神道本来のあり方として至極もっともである。

ここで著者は、「神社教」案批判の根底にある葦津の基本戦略に気づかされる。島薗進「国家神道と日本人』(岩波新書 2010)に拠ってである。《葦津らは、国家神道を狭く解釈し、皇室祭祀が戦前の日本社会に大きな影響力を及ぼしたことには触れようとしない。「そこには皇室祭祀・皇室神直を宗教、神道としては捉えないという断固たる戦略が見て取れる」というのである。》《皇室祭祀・皇室神道がもし「宗教」であれぱ、戦後の新憲法が政教分離(信教の自由を保障するため、宗教と政治を分離させる仕組み)を原則とする以上、その制約下に置かれることになる。ところが、皇室の祭祀・神道が「宗教」でないとすれば、国民全体を包み込む公的制度としての意義をもちうることになるだろう。葦津の基本戦略はここにあると、島薗は考える。》葦津が引いたこのレールは今も踏襲されていると著者はいう。

葦津は、それまでの「国家神道」そのものが、本来神道ではなく、いびつに矮小化されたものであると考えていた。そんな中での発想だから「神道教」などと言い出すことになる。葦津の神道観にはさらに奥行きがある。《古典によれば、古代人は禊祓によって、身を淨め、鎮魂につとめ、神々に接して、神意をきくのにつとめたのではなかったか。それこそが古神道の根幹なのではなかったか。》《神懸りの神の啓示によって、一大事を決するのが古神道だった。だが奈良平安のころから段々とそれが乏しくなり、近世にはそれがなくなったとすれば、古神道の本質は、すでに十世紀も前に亡び去ってしまっているのではないか。神の意思のままに信じ、その信によって大事を決するのが神道ではないか。それなのに、神懸りなどはないものと決めて、神前では、人知のみによって思想しつづけ、ただ人間の側から神々に対して一方通行で祈っているとすれば、 それは、ただ独りよがりの合理的人間主義で、本来の神道ではあるまい。》《古神道にとって、この神懸りの神秘は、必須の大切なものだったはずである。その 神懸りが権威を失った近世の神道は、古神道の生命を失って形骸を存するのみとも云い得るのではあるまいか。それは、神道でなくしてただの人間道なのではあるまいか。》(葦津珍彦「古神道と近世国学神道」『神国の民の心』 島津書房 昭61所収)葦津の根幹たる古神道に拠って立つ、合理的人間主義への批判である。そもそも葦津のこの批判は賀茂真淵・本居宣長らによる近世国学に向けられたものであり、日本において江戸期すでに神は死んでいたともいえる深い根を持つ批判である。「葦津なくして今日の神社界はない」と言われる(83p)というが、今日の神社界、葦津を想うならばその根幹にまで思いを致すべきである。

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めい

神社本庁激震!“こんぴらさん”が離脱、「本庁は天皇陛下に不敬極まる」https://news.yahoo.co.jp/articles/61acc31c85c82a692557ac857a8fa515594d9a51
by めい (2020-06-13 05:52) 

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