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mespesadoさんによる1億人のための経済談義(28) 日本のPB理論の見極め [mespesadoさんによる1億人のための経済講]

途中の数式はスルーですが、朝起きてすぐ頭の冴えているうちにmesさんの議論をたどるのは、私にとってほんとうにありがたい頭の体操です。《例え有名な学者の言うことだからといって、決してその結論を鵜呑みにせず、自分の頭で改めて考えることが必要だ》。そのためのいい訓練です。

*   *   *   *   *

377:嘘と欲 :2018/08/03 (Fri) 05:58:07
host:*.bbtec.net

メッツさん PB理論を守っている国はあるのですか。たとえばダメリカ、台湾、ドイツ、イギリスオーストラリア、ニュージーランド等 それから違う体制のロシア 中国等も出来ればご説明お待ちいたします。

386:mespesado :2018/08/04 (Sat) 20:42:04
host:*.itscom.jp

>>377 嘘と欲さん
> PB理論を守っている国はあるのですか

 返事が遅くなってすみません。堺のおっさんさんが >>379 で述べておられるように、日本のPB理論というのは極めて特殊なものです。
 そもそも生産供給力が事実上青天井な日本では「PB健全化」そのものが何の意味もないので、こんな制約条件を考えること自体がナンセンスなのですが、国によってはPB健全化が必要になってくることもあるのでややこしいのです。
 例えば欧州。彼らは通貨統合のために「マーストリヒト基準」というものを欧州連合に参加するための条件として設定しました(マーストリヒト条約)。これは、具体的には「財政赤字が対GDP比で3%、債務残高が対GDP比で60%を超えない」という条件のことです。
 欧州連合がなぜこんな「PB健全化条件」を欧州連合加盟希望国に課したかというと、通貨統合後は各国は「自国の通貨発行権を失う」からです。つまり通貨統合前は、たとえ国債による国の借金があっても、自由に自国通貨を刷ることができたので、どんな経済環境にあってもオカネを刷れば国債の償還金は支払うことができたため国債がデフォルトすることは無かったのに対し、通貨統合後は自国通貨を勝手に刷ることができなくなるので、経済状況が悪ければ国債の償還金が払えずに実際に破綻してしまうようになったわけですね。ですから、そんな経済環境の国を欧州連合に参加させたら大変だから、経済環境が「悪くない」ことの担保を取るために、PBが健全であることを制約条件として課したわけです。その結果、

世界の基礎的財政収支対GDP比 国別ランキング・推移
https://www.globalnote.jp/post-12144.html

を見ればわかるように、欧州連合加盟国の対GDP財政赤字のワーストワンである世界第112位のルーマニアでも -1.69% と、3%以内の条件をクリアーしています。
 ちなみに、このランキングでは日本は149位で -3.74%と、マーストリヒト基準を満たしていませんから、ただでさえ「死刑の廃止が条件」のところで条件が満たされないだけでなく、マーストリヒト基準で見ても日本はは欧州連合に加盟できないということになりますね。もちろん仮に日本が欧州連合に加盟したら、日本の製造業の強さから、(相手国が通貨安で対抗することができなくなるので)ドイツ以上に対欧州で貿易黒字が積み上がり、たちまち「財政黒字」に転換して「財政規律が守られる」ことになるでしょう。しかし、このような「財政黒字」は他の欧州各国の財政赤字とバーターで得られる黒字ですから、いわば「弱い者いじめ」で得られた黒字ということになり、日本という供給王国の矜持としていかがなものか、と言わざるを得ません。        (続く)

393:mespesado :2018/08/05 (Sun) 08:07:50
host:*.itscom.jp

>>386
 更に、PBの定義そのものについても次のような指摘があります:

【藤井聡】
『日本のプライマリー・バランス規律は、外国よりも甘い』という出鱈目
https://38news.jp/economy/10324

> この財政規律を巡っては、これまでに様々な議論が重ねられてきていま
> すが、その一つの視点が「国際比較」の視点。この点について、例えば
> つい先日公表された財務省主計局が公表した資料(4頁目)では、

> 『主要先進国が掲げている財政健全化目標と比較すると、日本の目標は
> 緩やかな水準となっている』

> と明記されています。

> その根拠として挙げられているのは、「日本だけ利払い費を考慮外とし
> ている」という点です。

> ・・・・しかし、本年3月1日の参議院予算委員会で、この説明が、

> 『出鱈目な説明』

> だと、指摘されています。

> “主要諸外国の財政規律は景気変動を加味する構造的なもの。だから、不
> 況/デフレ時でも、財政規律を守りながらの大規模財出が可能。一方、日
> 本の財政規律(PB目標)は「不況時の税収減」を無視するので、デフレ
> 時には諸外国より厳しい。”

> いずれにせよ、不景気、さらには「デフレ」の影響を加味した「構造的」
> な財政収支に基づいて財政が運営されているのが先進諸国における国際
> 標準である一方、日本一国だけが、PBという「非構造的」な財政規律
> に「がんじがらめ」にされてしまっているのです(ちなみに、同じPB
> でも、構造的PBという概念もあります)。

> その結果、諸外国では、「不況・デフレで税収が減ったから」という事
> を気にせずに思い切った財政支出ができるのに日本だけは、「不況・デ
> フレで税収が減ったから」という理由で、政府支出をカットせざるを得
> なくなっています。

 つまり、もし仮に「財政規律が必要だ」という立場に立ったとしても、日本「だけ」が、国家の財政を個人の家計と同一視するというナンセンスな根拠のもとで「財政政策」を縛っている、というわけです。
                              (続く)

396:mespesado :2018/08/05 (Sun) 11:00:52
host:*.itscom.jp

>>393
 「PB黒字化」については、もう一つ、計量経済学的な見地からこれを正当化しようとする立場があります:

【藤井聡】財政規律のための「ドーマー条件」の性質について
https://38news.jp/archives/04878

> 債務対GDP比(名目)を財政再建目標としたとき、それが「増えていか
> ない事」 (発散しないこと)が、大切となります。

> この点について、日本の政府では、数式に基づく「ドーマー条件」と呼
> ばれるにものに基づいて、PBを黒字化すべきだという事になっています。

> そして多くのエコノミストは、その「ドーマー条件」を持ち出しつつ、

> 「だから、PBの黒字化が必要だ」

> と主張しておられます。

 ここで言う「ドーマー条件」というのが数式で表現された条件なのですが、その数式が具体的にどういうものなのかを解説する前に、上記に続く藤井氏の主張を引き続き引用しておきましょう:

> ドーマー条件についての分析そのものは、否定しようの無い分析であり、
> 筆者もまた、それを否定するものではありません。しかし、その分析か
> ら「PBの黒字化が必要だ」という結論を導きだす論理プロセスそのもの
> は、著しく不当である、としか言い得ぬものであります。

> なぜなら、ドーマー条件に基づいて素直に解釈すれば、債務対GDP比
> (名目)の発散を防ぐためには、「PBを黒字化」することでも良いし、
> 名目GDPを成長させてもよい、という「2つの異なった結論」を導き出
> すことができるからです。

 これは藤井氏の主張のとおりなのですが、実際にそれを説明しておきましょう。引用先にもあるように、ドーマーの条件式というのは次の2つの式:
 ① D(n+1) = D(n) { 1 + r(n) } + PB(n)
 ② Y(n+1) = Y(n) { 1 + g(n) }
から導かれるある条件式のことです(若干表記法等を変えてあります)。
 ただし、D(n) は第n年の累積債務、r(n) は第n年の金利、PB(n) は第n年の財政赤字額、Y(n) は第n年の名目GDP、g(n) は第n年の名目GDP成長率を表します。これらを変形すると、累積債務の対名目GDP比率は次のよ
うになります:
 ③ D(n+1)/Y(n+1) = D(n)/Y(n) × {1+r(n)}/{1+g(n)} + PB(n)/Y(n+1)
 ここで、計算を簡単にするために、毎年の金利 r 、名目GDP成長率 g 、財政赤字額 PB は一定であると仮定すると、③は
 ③' D(n+1)/Y(n+1) = D(n)/Y(n) × (1+r)/(1+g) + PB/Y(n+1)
という式になりますが、g が一定と仮定しているので、②から
 ④ Y(n+1) = Y(n)(1+g) = Y(n-1)(1+g)^2 = … = Y(0)(1+g)^(n+1)
が得られます。ただしここで一般に (1+g)^m は 1+g のm乗を表します。
これは、更に n+1 を k と書き直すと
 ④' Y(k) = Y(0)(1+g)^k
という簡単な式になります。
 そこで、③'式において、金利rと名目GDP成長率gが同じなら、③'は更
に次のようになります:
 ③" D(n+1)/Y(n+1) = D(n)/Y(n) + PB/Y(n+1)
 これはいわゆる漸化式というもので、右辺の D(n)/Y(n) を D(n-1)Y(n-1)を使って書き直して…ということを続けることによって、第n年の累積債務の対名目GDP比率は、
 ⑤ D(n)/Y(n) = D(0)/Y(0) + PB/Y(1) + PB/Y(2) + … + PB/Y(n)
と求めることができます。ここで右辺各項の分母の Y(1), Y(2), … , Y(n) に
④式の右辺を代入すれば、
 ⑥ D(n)/Y(n) = D(0)/Y(0) + PB/Y(0) × { 1/(1+g) + … + 1/(1+g)^n}
という式になります。この右辺の中カッコ { } の中にはn個の項がありますから、ちょっと目にはnが大きくなると限りなくデカくなり、「発散する」ように見えます。実際、名目GDP成長率gがゼロであれば { } の中身はnになりますから、実際に「発散」します。だからそれを防ぐには、{ } が掛かっているそもそもの項である PB/Y(0) の部分がゼロになっていなければ発散を防ぐことができない。だから PB = 0 でなければならない、というのが、上記引用部分で藤井氏が

> その分析から「PBの黒字化が必要だ」という結論を導きだす

と述べている部分の意味です。ところが上記⑥の { } の中身、実はgがゼロではなく正の値を取れば、実は発散せずにある値に収束します。これは数学でいう等比級数の収束条件というヤツで、実際にgが正であれば、{ } の中身は 1/g という値に収束することが証明できます。これが、藤井氏の言うところの

> ドーマー条件に基づいて素直に解釈すれば、債務対GDP比(名目)の発
> 散を防ぐためには、「PBを黒字化」することでも良いし、名目GDPを成
> 長させてもよい、という「2つの異なった結論」を導き出すことができ
> るからです。

という部分の意味です。
 さて、数式の解釈は以上のとおりです。ですが、こういった議論は、より根本のところに問題があることに気づかなかったでしょうか?
 そうです。「累積債務の対名目GDP比率が仮に発散したとして、何が問題なの?」ということです。この件については、実は私が >>368 で紹介した

NEWSWEEKの記事:
世界が反緊縮を必要とする理由
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180801-00010004-newsweek-bus_all&p=5

が最も端的に解説してくれています:

> これまでのところ、その担い手が右派か左派かにはかかわらず、人々に
> 苦難を強いてきたのはほぼ常に緊縮であり、人々の救いとなってきたの
> は反緊縮であった。しかしながら、これはあくまでも反緊縮側の見方で
> ある。緊縮の側からすれば、そのような評価はまったく受け入れ難いも
> のであろう。というのは、「緊縮は確かに苦しいが、財政破綻やハイパ
> ーインフレといった将来における惨禍を防ぐためには現在の緊縮を甘受
> するしかない」というのが、藤井裕久元財務大臣に代表される緊縮論者
> たちの強固な信念だからである。

緊縮論者のこうした考え方は、確かに一定の歴史的な根拠を持っている。
> 多くの国がこれまで財政破綻や悪性の高インフレに見舞われてきたが、
> その背後にはほぼ常に、放漫な財政政策や過度な金融緩和政策があった。

> 1960年代末から始まったアメリカの高インフレや、1970年代初頭の日本
> の「狂乱物価」が示すように、金融緩和や財政拡張の行き過ぎによる経
> 済的混乱は、少なくとも1980年代前半までは、先進諸国においても決し
> て珍しいものではなかった。つまり、その時代には確かに「財政と金融
> の健全な運営」がマクロ経済政策における正しい指針だったのである。

 つまり、かつては緊縮財政を取らないと本当に強度のインフレになるという事実を何度も目にしてきたので、その経験則から多くの学者が今日でも緊縮財政を取らないとハイパーインフレになってしまう、という信念を抱いている、ということが原因だ、というわけですね。しかもかつて私が松尾匡氏の著書『この経済政策が民主主義を救う』の書評で述べたように、この本に述べられている、2010年頃に起きた次のような「事件」も、その信念に輪をかけたと言えるでしょう:

>  世界中がこんなふうに緊縮路線に転じた背景のひとつに、その年に発
> 表されたハーバード大学のカーメン・ラインハートさんとケネス・ロゴ
> スさんの論文 “ Growth in a Time of Debt ” があります。ここでは、
> の借金の対GDP比が90%を超えると、経済成長率がガクンと下がるとい
> う計量結果が示されていました。これが緊縮路線推進のお墨付きになっ
> ていたのです。

 これを根拠の一つとして当時のギリシャ危機を受けたサミットの合意をもとに欧州や、日本でも当時菅政権でしたが、世界的に緊縮財政に舵を切ることになったのです。しかし上で引用した部分については、後日談:

>  ところがその後2013年になって、「事件」が起きました。トーマ
> ス・ハーンドンさんという大学院生が、この論文の結論はエクセルの集
> 計ミスによるものだと指摘し、著者たちもそれを認めたのです。

による大どんでん返しがあったのです。にもかかわらず、日本の多くの(頭の固い、もしくは財務省御用の)経済学者たちは、相変わらず財政赤字は悪、の一点張りを続けています。彼らは、世の中が「供給不足の時代(=財政黒字の方が健全)」から一転して「供給過多の時代(=財政赤字の方が健全)」に「相転移」したことの重要性に気づいていない、なぜプロの学者ともあろう人たちがどうして?と思ってしまいますが、私が最近いろんな経済学者の本を読んでわかったことは、

★ 経済学者というのは、現在の世の中で実際に生じている経済現象を説明し
★ たり将来を予測する場合、過去の研究者が過去の経験則を分析して得た種
★ 々の「定理」を組み合わせ、当てはめて論じようとする傾向がある。従っ
★ て、過去の経済環境と根本的に異なる経済現象(例えば今日の日本のよう
★ な供給過多時代の到来)が生じたとき、過去の経験則から無理やり説明し
★ ようとして、結果的に誤った結論を導いてしまう

という事実です。いや、それどころか、これは「経済学者」だけの問題ではなく、「憲法学」の分野でも感じていたことです。
 この事実から得られる教訓は、例え有名な学者の言うことだからといって、決してその結論を鵜呑みにせず、自分の頭で改めて考えることが必要だ、ということです。         (おしまい)


【追記 31,1,12】

《要するに、C:「モノの普及率が天井に近づいた」ことが原因となって、A:「国の借金の対GDP比が高い」こととB:「経済成長率が鈍る」ことが共にCの結果として生じた、ということに過ぎない》

*   *   *   *   *

737:mespesado:2019/01/12 (Sat) 23:58:20
 以前、松尾匡著『この経済政策が民主主義を救う』の書評の連載の中で、過去スレ「EG・堺のおっさん等 爺さんが元気なスレ -31-」の #270:http://grnba.bbs.fc2.com/reply/16340424/270/において、

>  ここで著者はとんでもない事実を暴露します。それは、菅政権が増税
> 路線に舵を切った原因の一つである2010年の主要国首脳会議などで、
> ギリシャ問題が大きな議題になり、そのため先進国が一斉に緊縮財政に
> 方針転換したことに菅さんも影響を受けたのですが、この緊縮財政に方
> 針転換した背景には、「国の借金が対GDPで90%を超えると経済成
> 長率が急落する」とするハーバード大学で出た論文が影響を与えたのだ
> そうです。ところが何と、2013年になって、この論文の結論が実は
> エクセルの集計ミスによるものであるということが発覚したというので
> す!

というエピソードを紹介しました。これは、更に前スレ「先読み上手なオッサンたちの闘論スレ -35-」の #396:http://grnba.bbs.fc2.com/reply/16492748/396/でも、

> >  世界中がこんなふうに緊縮路線に転じた背景のひとつに、その年に
> > 発表されたハーバード大学のカーメン・ラインハートさんとケネス・
> > ロゴスさんの論文 “ Growth in a Time of Debt ” があります。こ
> > こでは、国の借金の対GDP比が90%を超えると、経済成長率がガクン
> > と下がるという計量結果が示されていました。これが緊縮路線推進の
> > お墨付きになっていたのです。

>  これを根拠の一つとして当時のギリシャ危機を受けたサミットの合意
> をもとに欧州や、日本でも当時菅政権でしたが、世界的に緊縮財政に舵
> を切ることになったのです。しかし上で引用した部分については、後日
> 談:

> >  ところがその後2013年になって、「事件」が起きました。トー
> > マス・ハーンドンさんという大学院生が、この論文の結論はエクセル
> > の集計ミスによるものだと指摘し、著者たちもそれを認めたのです。

> による大どんでん返しがあったのです。にもかかわらず、日本の多くの
> (頭の固い、もしくは財務省御用の)経済学者たちは、相変わらず財政
> 赤字は悪だ、の一点張りを続けています。

という形で再度取り上げています。
 さて、今日1月12日、この大学院生のハーンドンさんがラインハートさんとロゴスさんの論文の誤りを見つけた、という話について言及しているツイートがありました:質問者2@shinchanchi

> ラインハート&ロゴフ論文にまともな査読がなかった件
> - Togetter https://togetter.com/li/493014 @togetter_jpより

 そこでリンクを貼ってあるtogetterによると…↓

ラインハート&ロゴフ論文にまともな査読がなかった件
https://togetter.com/li/493014
 もう表題になっているので読まなくてもわかると思いますが、この論文はAmerican Economic Reviewという経済学の一流論文誌の Vol.100(2)573-78に収録されてはいるものの、この雑誌は「一流の査読誌だが、Mayに出る号だけは違う」と言われていて、5月号だけは学会報告論文のVolumeなので、通常の号のような査読がなされていない、ということらしく、件の論文はまさに May 2010 の号に出版されているのだそうです!
 とは言っても、これだけだと具体的にこの論文のどこがおかしかったのかについては触れられていないので、その内容まで立ち入って解説しているサイトがあることがわかりました。2013年、まさに大学院生のハーンドンさんが誤りを見つけたと報告された直後に書かれたブログ記事です:

ラインハート=ロゴフ論文の誤りについて
https://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/38090851.html

 これによると、誤りは3つあり、

>(1)表計算ソフトの集計ミス
>    列の集計をする際に末尾の5つのセルを含めなかったために,5
>   か国のデータが集計に含まれていない。このミスによる経済成長率
>   への影響は0.3ポイント程度。

>(2)データの除外
>   (ニュージーランドを含む)3か国の第2次世界大戦直後のデータ
>  が欠落している。

>(3)平均のとり方
>   ラインハート=ロゴフ論文では国ごとの経済成長率の平均を同じウ
>  ェイトで平均している。ハーンドン氏達は年ごとの経済成長率を同じ
>  ウェイトで平均をとるのが正しい(国ごとのウェイトは90%以上を長
>  く経験した国が大きくなる)が正しいと主張している。

ということであり、(1)は確かに誤りだが、(2)のデータは原論文執筆時には未整備であり、(3)は単なる見解の相違に過ぎない、と考えられるとのことです。そしてブログの著者は次のように結論付けています:

>  まとめると,いま話題になっている数字は,すでに新しい研究で書き
> 替えられているものであり,古い結果にこだわることに学術的な意味は
> ない。いま騒ぎ立てるのは政治的な意図で動いている人か,事情を理解
> できずに騒ぎに振り回されている人である。

 つまり、上記(1)により、確かにエクセルの集計ミスは存在するわけですが、その結果の「数値の誤り」は、どうも「本質的」ではないようです。
 それよりも、この論文の「本質的な問題点」は、この次に書かれている以下の部分にあるようです:

>  なお,ラインハート=ロゴフ論文は高債務と低成長の相関関係を示し
> たが,高債務から低成長への因果関係を立証したものではない。むしろ
>「なぜ財政赤字が発生するのか」
> (http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/30491529.html )でのべ
> たように低成長から高債務への因果関係があるのではないかというのが
> 通説であり,この考え方は戦後の日本にも非常によく当てはまる。

 う~む!この「AとBの間に強い相関関係があるからと言って、AがBの原因になっているとは限らない」という命題は、統計学を学ぶとき、真っ先に注意すべきことがらとして習う部分であり、仮にAとBの間に「因果関係」があるとしても、原因と結果が逆かもしれないわけで、もっと言えば、両者の間には直截の因果関係が無く、別の隠れたCという要因が原因となって、AもBも共にCの結果に過ぎない、という可能性もあるわけです。
 そして、上の引用の中にもあるように、A:「国の借金の対GDP比が高い」こととB:「経済成長率が鈍る」ことについて、同論文では前者が後者の原因だと勝手に結論付けているが、逆に後者Bが前者Aの原因であると考えるべきだ、というのが定説であり、因果関係が逆なのだ、それこそがこの論文の「本質的な問題点」なのだ、と主張しているわけですね。
 さて、この問題に対する私の意見は次のとおりです。確かに前者Aが後者Bの原因だとする原論文の主張には根拠がありません
 しかし因果関係が「逆だ」というのもよくわからない主張です。そうではなく、私がいつも主張しているように、高度成長というのはモノの生産が全消費者に行き渡ると需要が鈍化するので必然的に低成長に変わります。つまり、モノの普及率が天井に近づくと、経済成長は鈍化します。
 一方、モノの普及率が天井に近づくと、売り上げの伸びが鈍化するので設備投資が要らなくなり、従って企業もそのための借金が不要になるので信用創造が減少します。一方、企業の売り上げが減るので起業は将来が不安になり、内部留保を増やして賃金も渋り出します。その結果、労働者も将来の賃金に不安を感じ、消費は控え、貯金に勤しむので、信用創造の減少と内部留保の増加で市場に出回るオカネが増加から減少に転じます。そうなると、今まで信用創造で経済成長で増えるべきオカネを上回っていた分を回収していたために国が「財政黒字」だったものが、市場のオカネが減少し始めたために国がオカネを「刷らなければならない」量が増えて、結果として国の会計は「黒字」から「赤字」に転向します。つまり「国の借金の対GDP比が高く」なっていきます。
 要するに、C:「モノの普及率が天井に近づいた」ことが原因となって、A:「国の借金の対GDP比が高い」こととB:「経済成長率が鈍る」ことが共にCの結果として生じた、ということに過ぎないのではないか、と思われるのです。これならまさに当たり前の現象であり、わざわざ計量経済学として論文にするまでもないことです。これを計量経済の手法を使って「相関関係」の形にして、Cという真の原因を隠して、さもAがBの原因であるかのように論じたこと、それこそが、この論文の真の問題点である、と言えるでしょう。


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めい

mespesadoさんによる《C:「モノの普及率が天井に近づいた」ことが原因となって、A:「国の借金の対GDP比が高い」こととB:「経済成長率が鈍る」ことが共にCの結果として生じた、ということに過ぎない》ことの確認を追記しました。
by めい (2019-01-13 06:18) 

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