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mespesadoさんによる1億人のための経済講座(3) [mespesadoさんによる1億人のための経済講]

(3)です。「経済成長のしくみ」が明かされます。何度も何度も読む価値があります。読むごとに漠然と抱いていた疑問がときほぐされ、整理されてくるのがわかります。

*   *   *   *   *

819:mespesado : 2017/12/17 (Sun) 12:36:08 host:*.itscom.jp
>>683
 さて、かなり間があいてしまった浜矩子氏のアベノミクス批判本に対する書評ですが、前回までは、アマゾン・レビューにおける浜氏に批判的なレビューを取り上げましたので、今度は浜氏に賛同する方のレビューを取り上げることにし、一番最初の >>332 から再引用しておきましょう:

> 日本の経済は成熟期を迎えており、低成長時代に入っている。そのこと
> 自体は悪いことではない。地球の資源には限りがあり、環境問題や地球
> 温暖化も重要な課題となってきている昨今である。むしろ、全世界的に
> 持続可能な社会を模索する段階に入ってきたと言える。もはや成長は必
> 要なく、真に豊かな社会とはどのような社会なのかを経済的側面からだ
> けではなく考えていかなければばならない段階にきたと言える。

 ここでレビュアーは「もはや成長は必要なく」と主張しています。これ、最近は主として左派系論客がよく主張していることですが、それの是非を考える前に、ここでいう「成長」とは何ぞや、ということから考えてみることにしましょう。
 この「成長」という言葉はかなりいろんな場面で使われる言葉で、まず私なんかが最初に思いつく用例は、「人間の」成長ってヤツですね。これには実は2通りの意味が含まれていて、一つは物理的な成長、つまり身長が伸びるとか体重が増えるなどの意味、今ひとつは精神的成長という意味で、言葉の発達とか知能の発達などを意味します。言い換えると、「量」か「質」か、という違いですね。
 さて、では本論である「経済」の世界で「成長」というと何を意味するのでしょうか?
 経済学と言うのは、一言で言うと、「オカネに関する学問」です。経済活動として行われる種々の活動や成果などを、すべてオカネの尺度に換算してオカネの言葉で種々の現象を説明したり予測したりするのが経済学だ、と言っても過言ではないでしょう。
 すると、オカネには「質」の問題なんて関係ありませんから、要するに経済学では「成長」というのは「量的な成長」のことを意味します。「質」は関係ありません。
 さて、次に考えるべきは、「もはや成長は必要なく」の主語は何か、という問題です。つまり経済成長が「誰にとって」必要か、必要でないか、ということを考えなければなりません。ここで「誰」というのは、もちろん特定の誰かさんという意味ではなくて、もっと大きな概念、つまり「生産者」のことか、「消費者」のことか、という意味です。
 この「必要性の有無」が「誰のことか」ということをきちんと考慮に入れなければならなくなったのは、実は低成長時代に突入したからです。高度成長期には、供給力が不足していた時代ですから、生産側の成長、つまりオカネの尺度である「企業利益の増大」というのは(低成長下のような人件費抑圧なんて風潮はありませんでしたから)そのまま「製品の増産」とイコールであり、それはそのまま消費者にとって「購入できる商品の増加」と「賃金の増加」という二つの「成長」に直結していたからです。
 ところが低成長になると、いや、実際は「低成長になった理由が」と言うべきですが、高度成長であらゆる消費財が増産され、それがシステムとして定着した結果、消費者の需要は満ち足りてしまって、もうこれ以上「量的成長」は望まない、ぶっちゃけて言えば「おなかいっぱい」になってしまったわけです。
 一方の生産者の方はどうか?もともと資本主義の仕組みというのは「量的成長」を前提としたものです。なぜかというと、消費者は現在の消費を賄うために、最低限その消費量をオカネに換算した額以上を生産活動を通じて稼がなくてはいけません。ところがその稼ぎは、自分が勤める職業組織が「他人に生産物を売った売り上げ」の中から支払われるものです。しかし、この「他人に生産物を売った売り上げ」とは消費者が消費のために支払った額の総額に他なりません。つまり、

① 「消費者が支払うオカネ」<「消費者が稼ぐオカネ」
② 「消費者が稼ぐオカネ」<「消費者が生産者として稼ぐオカネ」
③ 「消費者が生産活動で稼ぐオカネ」=「消費者が支払うオカネ」

という関係が成り立ちます。ここで①と②が等号“=”ではなく不等号“<”なのは、①の場合、消費者が貯金に回すオカネや国等に支払う税金などの分だけ消費に使えるオカネが減るからです。同様に②の場合は、生産者も税金や株主配当や内部留保に回す分だけ従業員に支払う給与が減るからです。
 しかし、連立不等式 ①、②、③ において、③の左辺に②の右辺を代入し、②の左辺に①の右辺を代入すると、

 「消費者が支払うオカネ」<「消費者が支払うオカネ」

となって「矛盾」してしまうわけですね。ですからこの矛盾を回避しようとすれば、「タイムラグ」を利用するしかないわけです。つまり、②と③はリアルタイムですが、①は、勤め人の場合給料は企業が稼いだ後に支払われることを参考に単純なモデル化して考えれば

①’「今月消費者が支払うオカネ」<「先月消費者が稼ぐオカネ」

となりますから、②と③はすべてに「先月」という接頭辞を付ければ、

②’「先月消費者が稼ぐオカネ」<「先月消費者が生産者として稼ぐオカネ」
③’「先月消費者が生産活動で稼ぐオカネ」=「先月消費者が支払うオカネ」

となりますから、先ほどのような③’の左辺を②’の右辺に、②’の左辺を①’の右辺に代入した結果は
 「今月消費者が支払うオカネ」<「先月消費者が支払うオカネ」となって、今度は矛盾しません。ですが、これでは縮小経済になってしまって、どんどん消費活動(だけでなく生産活動も)萎縮していってしまいます。そしてこれは「財政赤字を避けようとする」民主党政権下の緊縮財政時には現実に起こったことなのです。
(続く)
820:mespesado : 2017/12/17 (Sun) 14:06:01 host:*.itscom.jp
>>819
 ところで高度成長期には緊縮財政になんかなってなかったはず。つまり高度成長期には

 「今月消費者が支払うオカネ」<「先月消費者が支払うオカネ」

なんて不等式は成り立っていなかったはず。どういうこと?と疑問に思う人もいるでしょう。
 もっとも、日本には「貿易黒字」すなわち外国人にモノを売って儲けている要素がありますから、>>819 の③は、貿易の効果を考慮すると

③”「消費者が生産活動で稼ぐオカネ」=「消費者が支払うオカネ」+「貿易での儲け」
となるので、連立不等式 ①、②、③”において、③”の左辺に②の右辺を代入し、②の左辺に①の右辺を代入すると、

 「消費者が支払うオカネ」<「消費者が支払うオカネ」+「貿易での儲け」

となって、今度は「矛盾」しません。矛盾はしませんが…。貿易収支というのはゼロサムの世界ですから、世界中の国がこれをやるには世界中の国が貿易黒字にならなければならず、それは不可能です。だからこそ、日本の行き過ぎた貿易黒字は世界(特に米国)から非難され、通産省(今の経産省)を通じて、日本は貿易黒字の縮小を目指すために「輸入奨励策」を推進したのです。
 それでは貿易収支というファクターを考慮に入れない場合、高度成長期にはこの不等式の矛盾をどうやって回避していたのでしょうか?
 答は「企業の借金」です。企業は生産量の拡大のために設備投資をし、そのために膨大な借金をしました。しかし、そうして借りたお金は、設備投資のための機材を購入した相手の会社に「支払われて」おり、その支払われたオカネの一部は、その相手の会社の従業員に給与として支払われています。
 一方で、企業が借りたオカネはやがては返さなければいけません。なので、企業の借金(議論の単純化のために借金の期間は一か月とします)を考慮した場合、次のような不等式が成り立ちます:

(1) 「今月消費者が支払うオカネ」<「先月消費者が稼ぐオカネ」
(2) 「先月消費者が稼ぐオカネ」+「先月の企業の返済金」<「先月企業が稼ぐオカネ」+「先月の企業の借金」
(3) 「先月企業が稼ぐオカネ」=「先月消費者が支払うオカネ」

 この(2)の左辺に(1)を、(2)の右辺に(3)を使うと、

 「今月消費者が支払うオカネ」+「先月の企業の返済金」<「先月消費者が支払うオカネ」+「先月の企業の借金」

という関係が成り立つことになります。そこで、この不等式を次のように書き直します:

※ 「今月消費者が支払うオカネ」-「先月消費者が支払うオカネ」<「先月の企業の借金」-「先月の企業の返済金」

 さて、「先月の企業の返済金」というのは「先々月の企業の借金とその利息」ということですから、もしモノがどんどん売れるから設備投資をどんどん拡大するので借金の額もどんどん増えます。つまり、「先月の企業の借金」の方が「先月の企業の返済金」すなわち「先々月の借金に利息を加えたもの」より大きくなるので、※の式の右辺はプラスになります。従って、その左辺の「今月消費者が支払うオカネ」-「先月消費者が支払うオカネ」の方も、その差額の範囲内ではあるけれどもプラスになることが可能となります。すなわち

 「今月消費者が支払うオカネ」>「先月消費者が支払うオカネ」

となっていることが可能になるわけです。この事実こそが、高度成長期に消費者が給料もアップしながら右肩上がりの消費生活を送ることができた理由です。
(続く)
822:mespesado : 2017/12/17 (Sun) 19:19:58 host:*.itscom.jp
>>820
 さて、今までの議論は、政府による「金融緩和」の効果は一切考えてきませんでした。「財政健全化」を信奉する人は、ですからこの「金融緩和」という方法を取らずに、“魔の不等式”である

 「今月消費者が支払うオカネ」<「先月消費者が支払うオカネ」

という“デフレスパイラル”を解消しようとするので、どうしても「貿易黒字」を狙うか「企業に借金を増やし続けてもらう」かどちらかを進めるしかありません。このことを前稿と前々稿で解説してきました。そしてこのうち前者は国際的には最早許されない以上、後者の政策、すなわち企業にもっと借金してもらうしかありません。
 そこで、政府は企業がオカネを借りやすくするために金利を下げるべく、「低金利政策」を実施します。しかし金利には「ゼロ」という下限があるのでこの政策には限度があります。で、実際に金利は事実上ゼロになっています。しかし、それにもかかわらず、企業は一向にオカネを借りてくれません。
 でも、これって企業の立場からしたらアタリマエですね。モノの売り上げは増えないから設備投資が要らないからそもそも借金する必要がないし、それに「内部留保が積みあがっている」のですから、老朽化した設備の一新くらいだったら自前で調達できます。そういうわけで、企業に借金してもらう(しかも借金額を毎年増やす)などということは期待するほうが無理というものです。
 そういうわけで、「財政健全化」論者の中には「成長なんか要らない。それで“魔の不等式”が成り立ってしまう(デフレスパイラル)ならそれでよいではないか。賃金も下がるかわりに物価も下がるんだから、相殺されて、生活が苦しくなることもないだろう?」などと開き直る人が出てくるわけです。しかしこれは暴論です。
 なぜなら、確かにすべての人が一斉に同じ率で収入が減っていくならいいです。でも実際はそうはなりません。誰でも自分の所得が増えるのは大歓迎ですが、減るのは容認できないものです。ですからデフレ環境の下では、まず体力がある人や組織では所得を減らそうとしません。ということは、体力がない人や組織がそのあおりを受けて、平均以上に所得を減らすことになります。収入が減るだけならまだしも、職にありつけずに失業も増えてしまうという、もっと悲惨な状況になります。つまりデフレスパイラルというのは、「貧しい人ほど酷なシステム」なのです。
 インフレ環境の場合はその逆になりますが、所得が増える場合は平均より低くしか増えなくてもあまり文句は出ないので、金持ちに傾斜配分で所得が増えても、所得が少しでも増えればみんなハッピーだったので、所得はその増減について対称ではないのです。
 以上をまとめると、低成長下では、「財政健全化」を前提にする限り、まともな経済政策は存在しないことがわかるのです。
 再びここで件の浜氏に賛同する方のレビュアーのレビューの続きを引用しましょう。

> 真の経済成長に結びつかずバブルを生むだけの金融政策。時代錯誤の財
> 政出動。ギンギラギンの成長戦略。

 ここで「時代錯誤の財政出動」と言っていることから、このレビュアー氏は「金融緩和」には反対なのでしょう。つまりこれは「財政健全化」を前提にしているということですから、以上説明してきたことにより、このレビュアー氏は「できもしないことを主張している」と言われても仕方がないことがわかるのです。
(続く)

 

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めい

飯山氏によるmespesado氏評価。

   *   *   *   *   *

823:飯山一郎 : 2017/12/17 (Sun) 22:34:08 host:*.dion.ne.jp
 
mespesado氏の経済論は,読めば読むほど成るほど納得です.
おかげ様で(今までの私流の)経済学を初歩の初歩から考えなおすことが出来ました.
とくに,プライマリーバランス云々を言う財政健全化論者の主張が,いかがわしいことが良く分かりました.

それで,日本経済の現況なんですが…
完全失業率が,民進党政権下では5.6%が,今は2.8%
完全失業者数が,400万人→200万人以下
企業倒産件数が,1600件/月→600件/月以下,などなど雇用環境は著しく改善されました.

それどころか大変な人手不足が景気の足を引っ張る懸念が高まっています.
そこで,人手不足を解消するロボットやAIへの投資が伸びているワケですが…,時間がかかる.

アベノミクスも,公共インフラ投資や規制緩和など総合的な経済政策を進展させたいのでしょうが…
雇用関係の指数が良すぎるので,「ためらい」がある.

それで,ワシが知りたいのは…,来年の景気,とくに雇用と景気の関係です.

mespesadoさんは,来年の日本経済の動向については,どのように考えておられますか?
御講義のほど,よろしくお願いします.

by めい (2017-12-19 05:59) 

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