佐々泉太郎著『病棟婦長命令第三号』を読む [田島賢亮]
もう一年になるが、田島賢亮先生の御子息から著書の贈呈を受けていた。田島先生についての文章を載せていただいた「芸文なんよう」を差し上げてのことだった。なかなか読めずにいたのだが、昨年暮れに『みかづき』を読んで以来ちょっと小説づいており、その勢いで読み終えてアマゾンにレビューした。佐々泉太郎(筆名)著『病棟婦長命令第三号』。
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著者は田島賢亮先生の子息で医師。
この夫婦どうなるんだろうと、わが身に寄せつついささかハラハラもしながら読んでいたのだが、ノラ猫が起点となって思いがけない展開となる。
《嫌がるノラを毎朝光江と二人で押さえ付け排尿させた。猫嫌いの光江が手伝ってくれるのだ。魁は、魁と向かい合い膝に載せた座布団にノラの頭側半分を押さえつけてくれる光江の額を見ることになるが、嫌々手伝っているという様子ではない。終わると茶を淹れて持ってくる。こんな時、魁は結婚していて妻がいるということを実感する。若かった頃のいろいろのことが遙かに遠ざかって、僕は光江と二人きりの空間にいる。自分の人生はこれでいいんだ。僕にとって、人生ってこんなものなんだ。》このあと、それまで関わり合った、それぞれ印象深く描かれた何人かの女性の名前とともに《みんな「山の彼方の空遠く」だなあ・・・》(276p)。それぞれの関わりはたしかに「純愛」というにふさわしい。
ひとりの良心的医師のビルドゥングスロマン(自己形成小説)だが、亡くなった妻に《「・・・君は一番美しかったよ、一番好きだったよ」》(337p)と涙を流しながら言えるようになるまでの物語でもある。
手元にあるけどまだ読んでないという知人に、「夫婦のためにとてもいい小説だから」とぜひ読むことを薦めたところです。
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拝啓
SH様(田島氏の従弟/私の同級生)宅にてお目にかかったままご無沙汰いたしており恐縮です。
昨日、S様を通して「芸文なんよう」落掌いたし、早速拝読いたしました。
亡父を称揚する寄稿文を遺影と共に載せていただき有り難うございました。亡父も泉下で恐縮しつつ喜んでおることでしょう。
晩年のお姿しか存じ上げなかった芳武茂介先生の端麗な風貌に見入りました。父の死後五年目で母が逝ったのでしたが、その葬儀においで下さり、「みな、いなくなったなあ」と呟いてお帰りになる後ろ姿がたいへん淋しげだったことを昨日のことのように思い出しました。三十年前のことです。
小田仁二郎氏について、太宰治氏と比較しながらのご解説、感じ入りました。昨今の有名小説家の多くが大宰を愛読していると言っています。岸田秀氏の評価を興味深く拝見しました。私も類似した感想を抱いていましたので。菅野俊雄様や、大竹俊雄様がご活躍になった宮内文化懇話会、その名称を耳にしなくなって久しくなります。その後新たに南陽市芸術文化協会という、堂々たる会が結成され、新文化会館が完成とのこと、置賜地方の文化躍進、前途洋々、この上なく嬉しく御同慶のいたりです。
高岡様のいっそうのご清祥とご健康を祈って止みません。なお、拙著を同封でお送りいたします。ご笑覧ください。
敬具平成二十八手二月二十五日
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