宮内、賑わいの記憶(補遺） 民話「むかさり」

『おみきばばちゃの夜噺』の中の「むかさり」、そのまま載せておきます。

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むかさり

舌、焼がねえよに、ふうふう、吹いてから、少すずつ飲めよ。

こらっ、矩燧、動がすでねえ。甘酒こぼれる。

うめえがったなあ、この甘酒は。

今晩は風呂さも入ったす、甘酒ものんだす、からだぽかぽか

すてえるうつに早ぐ寝んべえ。

何？　昔話？　やれ、やれ。

今聞かせっから待ってろ。

むかす、あったずもなあ。

　ええ娘がいたど。名前はおちよ。

　世話する人がいてな、隣村さ、むかさって（嫁に）行ぐ事になったど。

　むかさる日が近づいて来たど。或る晩のこと、そこのおっかさまがな、おちよ呼んでようく聞かせたど。

　　　ええが、おちよ。むかさっていったら、そこお自分の墓場だと思え。間違っても戻って来たり

　　　すではなんねえぞ。旦那様を敬ってな。糸の針に従うが如く・・・

　　　つまりだな、旦那様の申される事は何でも素直によぐきけ。という事だ。そすてな、そこのご

　　　両親にはよぐお仕え申せ。大切な旦那様を生んで育てて下さったお方だからな。

　　　朝はだれよりも早ぐ起きて、まんず髪いなでつけ手早く身支度して仕事にかかれ。決すて寝乱

　　　れ姿など旦那様にお見せするでねえぞ。そげな事から旦那様に浮気される事もあるもんだ。

　　　それからな、どげにつれえ事あってもにこにこすてろ。仏頂面ほどみぐせい顔はねえもんだ。

　　　そすてな、陰日向なく働け。そげな風に務めさえすれば、だれからでも可愛がられ、きっとい

　　　まに、幸せになれる。

　　　ああ、それからな。嫁というもんは、大口あいて、おまま、たら腹食うでねえぞ。みんなのお

　　　給仕をすながら、軽く二ぜん、早からず、遅からず食ってすまえ。魚などもな、ご両親と旦那

　　　様には特におっきくてええところ差し上げろ。わかったか。

　　　ほだからな、嫁というものは、いっつも腹へってすかたのねえもんだ。

　　　そこでだ。ええか、よおく聞けよ。むかさっていく時な、焼米いっぺい作って待たせっからな、

　　　それをどこか人目につかねえとこさ隠すて置いて、腹へった時に出すて少すずつ食えよ。

　　　わかったか。

　むかさって行く日が来たど。

　　　そんじやなあ、おちよ、からだに気いつけろよ

　　　おとっつあまも、おっかさまもどうかお達者でー

　おちよは、ほろほろ涙こぼすながら両手ついてお辞儀したど。

　　〓蝶よ花よとなあ　育てた娘よう

　　　　今日よりはなあ　人の嫁となるよう

　むかさり唄に送られて、おちよは隣村さむかさっていったど。

　むかさって来たおちよはな、その晩、みんなが寝すずまるのを待って、こっそり起き出すたど。そすてな、焼米の隠す場所、探すたど。ほだけどな、丁度ええ隠す場所、なかったど。

　そこでな、おちよは、そっと戸開けて外さ出てみたど。

おちよの里の方角さ、お月さまが出てござったど。

　　　おとっつあまあ、おかっさまあ

　里の親ば呼んで、またほろほろ、涙こぼすたど。

　すばらくお月さまあ見てたおちよは、ほだほだ、焼米隠さねばと思って庭見廻すたど。

　ほんだ、庭の隅っこならええかんべ。

　おちよはすぐ庭の隅っこ掘って、上手に焼米、隠すてすまったど。

　ところが目印になるもの、何にもねかったど。

　困り果てたおちよはな、糞たれて目印にすたど。

　これで安心。おちよは、またそっと部屋さ戻って眠ってすまったど。

　翌朝、目え覚ますたおちよはたまげた。ひと晩のうちに雪どっさり降って、庭一面、真っ白になっていたど。

　　　ああ、おれの焼米、どこだべえ

　悲すくなって、おちよは思わず詠んだど。

　　　雪降りて印の糞の見えざれば

　　　　　わが焼米はいづこなるらん

　そすたばな、お姑様がすぐ聞きつけて、

　　なんだ、なんだ、今一ぺん、詠んでみろ

　またまたぶったまげてすまったおちよはな、

　　　雪降りて印の松も見えざれば

　　　　わが古里はいづこなるらん

　　　　　　わが古里はいづこなるらん

と詠み直すたど。

　　　うめえ、うめえ

　お姑様はとでも賞めておこやったど。

　そのあとおちよは、里のおっかさまの言葉守って、よく務めたもんで、

みんなから可愛がられて幸せに幸せに暮らすたど。

　とうびんと。