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白井聡著『永続敗戦論』を読んで(1)自覚なきシニシズム [神やぶれたまはず]

重く読んだ。


《「政府は、核兵器を持たず、作らず、持ちこまさずの非核三原則を遵守するとともに、沖縄返還時に適切なる手段をもって、核が沖縄に存在しないこと、ならびに返還後も核を持ち込ませないことを明らかにする措置をとるべきである。(1971年の国会決議)」


「唯一の被爆国として、いかなる核実験にも反対の立場を堅持する我が国は、地下核実験を含めた包括的核実験禁止を訴えるため、今後とも一層の外交的努力を続けること。(1976年の国会決議)」


こうした決議を(しばしば全会一致で)繰り返しながら、沖縄核密約を米国と取り交わし、あまつさえ、核武装について西ドイツに話を持ち掛けることまでしていたのが、この国の政権であった。してみれば、非核三原則や「唯一の被爆国」であることの強調が一体何のためになされてきたのかは、ほとんど考えるまでもなく理解できる。ここには真剣なものなど何ひとつ存在しない。彼らが唯一真剣に取り組んでいたのは、国民を騙すことだけであった。そして、シニシズムを自明の社会原理としてしまった国民の側も、進んで騙されてきた。》(p.158-159


「真剣なものなど何ひとつ存在しない。」戦後日本を象徴する言葉のように受け止めた。騙しあい、騙されあいつつ、ものは豊富で便利な世の中になっているんだからそれでいい、このままで。「敗けてよかった」と戦争をくぐり抜けた大人たちが言っていたのを子ども心に聞いている。そうして成った「シニシズムを自明の社会原理とし」た戦後日本という世の中。それが当たり前になってしまっているので、自らがシニシズムの中にあることが自覚できない。真面目であればなおのこと。


決して他人事ではないと思いつつ、左右のふたりを思い起こした。


左は井上ひさし氏。小松(川西町)で観た『きらめく星座』の舞台だった。名古屋章演ずる帝国陸軍軍人源次郎、劇全体からして「愚かで忌まわしき軍国主義の時代、真面目で心やさしき故に時代に順応する哀れで滑稽な人間像」という役回りのはずだった。井上ひさし氏にが身を置く左(サヨク)にあっては、先の戦争に対しても天皇に対してもシニカルであることが正しいことなのだ。しかし、作者の意図に反して私も含めて観客が共感したのは名古屋章の方だった。「生まれてはじめて陛下にたいして嘘をついてしまった・・。」渾身の悔恨の演技に引き込まれてしまい、かえって作者の主張が白々しくなってしまったのだ。さらにその7年後しみじみ日本・乃木大将』の舞台(長井市)で同じ様なことが起きた。舞台も大詰め、半ば茶化して演じられる明治天皇からの御言葉をいただいた乃木大将、万感の思いをこめて「天皇陛下万歳!」と叫んだとき、あろうことか期せずして、観客席の一部から万歳への共感の拍手が沸き起こつたのである。その拍手は、それまで舞台上で積み上げられた、作者の意図する乃木大将像を全く無化してしまったといってもいい拍手だった。しかもその拍手が決して場内に異和を感じさせた風もなく、むしろ安堵の波紋が広がっていったように思えた。それまでの舞台に言いようのない苛立たしさを感じさせられていたことも確かなのである。日本の軍旗が踏み付けられ、雑巾がわりに使われ、逆さに立てられるのを眼のあたりにすることの、劇という虚構上のこととはいえ、言いようのない不快感を一掃する「天皇陛下万歳!」だったのだと思う。

 

井上氏のシニカルさがシニカルさとして通用する都会の舞台だったらこういうことはなかったと思う。しかしわれわれの土地ではそうはいかなかった。観客は源次郎(名古屋章)の「生真面目さ」に感動してしまい、乃木大将の「天皇陛下万歳!」にほっとする。ここにわれわれの土地の健全さを私は思ったのだが、また一方、茶化されかかっていた源次郎の「生真面目さ」だが、それを茶化しきれずに逆に感動的になってしまうところに、井上ひさし氏の「生真面目さ」を見たようにも思えたことだった。井上氏のかかえる頭(シニカルさ)と心(生真面目さ)のダブルスタンダードのせいなのだろうか。

 

右は伊藤哲夫日本政策研究センター所長。「新しい歴史教科書をつくる会」の運動で共に活動してきた同志だった。最後にお会いしたのは8年前。その時のことをこう書いた

《(平成18年)119日に伊藤哲夫日本政策研究センター所長が来られるとのことで、久しぶりにビジョンの会例会に参加してきた。・・・伊藤所長の話の中で、中国、北朝鮮を批判するに「自由と人権」を持ち出されることに違和を感じて質問した。「もっと別の言葉はないのだろうか」と。伊藤氏も自覚しておられるようで、「しかし、『自由』と『人権』という言葉は国際的には力を持つ」と答えられた。私には、アメリカによる占領下の「ウォー・ギルト・インフォーメーション・プログラム」を批判し、その流れでサヨクの持ち出す「人権」に異議を唱えつつ、中国、北朝鮮を「自由と人権」の視点で批判するというダブルスタンダード、結局アメリカの言い分に巻き込まれている今の日本の「保守」の姿が見えてくる。日本本来の保守の立場とは、そうではないはずなのだ。としたら、「日本本来の保守の立場」とは何なのか。「もっと別の言葉」を本気で探したいと思った。

伊藤氏のダブルスタンダードも自覚なきシニシズムに思える。歴史教科書運動に取組む最中「仮にわれわれの教科書が採択なったとして、その時起こる現場の混乱が心配だ。」と私が言った時、「それは問題ない」と軽く受け流されたのが、今もずっと重く記憶に残っている。伊藤氏が「渡米して何人かの要人に会ってきた。」と語られたことがある。その時は聞き過ごしてしまったが、その要人が誰であったかもずっと気になっている。ウィキペディアには「安倍晋三のブレーンである五人組の一人として知られている」とある。安倍首相の危うさに伊藤所長の影が重なる。

 

真面目な左右の二人に宿る自覚なきシニシズム。真剣であればあるほど本来の真剣さから遠のいてしまっている危うさ。『永続敗戦論』を読んで、二人に「戦後」の体現を見た。そして二人に共通するダブルスタンダード、この著のキーワードだ。(つづく)


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めい

いよいよ「第二の敗戦」か。

   *   *   *   *   *

気鋭の学者の予言通り 安倍対米外交で「2度目の敗戦」(日刊ゲンダイ)
http://www.asyura2.com/17/senkyo219/msg/754.html
投稿者 赤かぶ 日時 2017 年 1 月 28 日 19:20:20: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU 

気鋭の学者の予言通り 安倍対米外交で「2度目の敗戦」
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/198455
2017年1月28日 日刊ゲンダイ 文字お越し
  
 なにからなにまで的中していて、怖いくらいだ。

「米国第一主義」を掲げるトランプ大統領に対し、安倍首相はどう対応するのか。日本の国益のために少しは気概をみせて戦うのか、それとも完全に屈服するのか――。昨年末、京都精華大専任講師の白井聡氏(社会思想)が、日刊ゲンダイのインタビュー(12月24日付)で予言した通りの展開になっている。白井氏は、著書「永続敗戦論――戦後日本の核心」で石橋湛山賞を受賞した39歳の気鋭の学者である。白井氏は、こう予言していた。

〈トランプ体制では米国への従属がますます露骨になるでしょう。例えばTPP。本丸の米国に梯子を外され、極めて滑稽なのですが、ではTPPがなくなってよかったと言えるかというと、そうならない。おそらく米国は2国間FTA(自由貿易協定)で、日本国民の有形無形の富を吸い上げる姿勢をより鮮明にしてくる。今の政府はそれを押し返せやしないし、その意思もない。むしろ無理な要求でも全てのんでいくことが国益になると思っている節すらある〉

 予言通り、トランプ大統領はTPPなどの多国間協定の代わりに「2国間協定」を結んでいくことを正式に表明。ロイター通信は26日、2月10日に予定されている日米首脳会談で「早期合意」を求める方針だと報じている。

 安倍首相も、あれだけ執着していたTPP締結を簡単に捨て、国会で「アメリカとの2国間交渉を排除するのかと言われればそうではない」「日米FTAがないわけではない」と答弁しはじめている。内閣官房にある「TPP対策本部」も、日米交渉に備えて改組する予定で、トランプの要求に屈して「日米FTA」を結ぶつもりだ。

 いったい、国民の反対を押し切って強行採決した「TPP法案」は、何だったのかという話だが、気持ち悪いくらい、白井氏の予言通りになっているのだ。

■日米FTAを結んだらオシマイ

 しかし、「日米FTA」を結んだら、それこそ予言通り、日本の富は根こそぎアメリカに奪われてしまう。なにしろトランプは、理屈も常識も通じないチンピラのようなものだ。メキシコには、「国境に壁を築く。そのカネを払え」などと一方的にインネンをつけている。

「トランプ大統領は、あらゆる国に対して、力ずくでアメリカに有利な“2国間協定”を結ばせるつもりです。“日米FTA”を締結したら、日本が大損害を被るのは確実です。まず、自動車がターゲットにされるのは間違いない。日本との自動車貿易を“不公平だ”とやり玉に挙げています。さらに、TPPで関税引き下げに合意した牛肉や豚肉など農産物の関税撤廃も求めてくるでしょう。要警戒なのは、日米FTAに“為替条項”をねじ込んでくる可能性があることです。『2国間交渉では為替操作を厳しく制限する』と口にしている。日本は、自動車などの個別品目だけでなく、円高までのまされかねない。日米FTAを結んだら、日本経済は一気に冷え込む恐れがあります」(経済評論家・斎藤満氏)

 この際、日米首脳会談は見送った方がいいのではないか。安倍首相は早期の会談を切望しているが、トランプと会ってもロクなことにならない。飛んで火に入る夏の虫になるだけだ。

「もともと、日米首脳会談は1月27日が有力視されていました。ところが、いざ日本サイドが日程の確定を求めたら返事がない。最後は、日本側が会談実現を懇願する形になった。ただでさえ、日本は弱い立場なのに、お願いして会うことになったため、首脳会談は譲歩に次ぐ譲歩を強いられる恐れがあります」(霞が関関係者)

 安倍首相は、何のためにアメリカに行くのか。

  
   アメリカについていくだけ(C)日刊ゲンダイ

戦略のカケラもない対米従属

 戦後70年間、ひたすら「対米従属」をつづけてきた日本にとって、トランプ大統領の誕生は、本来、アメリカとの関係を見直す絶好のチャンスだったはずである。

「米国第一主義」を掲げるアメリカが孤立主義に走れば、日本は必然的に「対米自立」へ向かわざるを得なくなる。アメリカに従っていても国益を損なうだけとなったら、なおさらである。

 世界各国のリーダーも、自国の利益を考え、この先、トランプが率いるアメリカとどう関わっていけばいいのか慎重に動いている。

 ところが、安倍首相は、ひたすら「早期の日米会談を実現したい」と、トランプと会うことを切望しているのだから、話にならない。どうすれば、トランプに気に入ってもらえるかということしか頭にないのだから、どうしようもない。

 白井聡氏が日刊ゲンダイのインタビューで、〈おかしいのは、日本では常に議論が逆立ちしていることです。「米国がどうなりそうだから」という話ばかりで、「我々がどうしたいのか」という議論が一切ない。本来、「我々がどうあるべきか」が先でしょう〉と、指摘していたが、その通りだ。

 立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)が言う。

「アメリカがTPPから離脱したなら残り11カ国で締結するとか、中国などアジア16カ国が参加するRCEPの締結を急ぐなど、日本にはいくつも選択肢があるはずです。日欧EPAという選択もあります。なのに、安倍首相はアメリカしか見ていない。歴代の首相も対米従属でしたが、それでも多少は戦略的でした。米軍に軍事を任せて経済に集中しようなどと計算していた。ところが、安倍首相はなにも考えずにアメリカに従っている。アメリカファーストのトランプ政権は国益をムキ出しにしているだけに、日本は骨の髄までむしり取られますよ」

■まったくムダだった50カ国訪問

 安倍首相がつくづく阿呆なのは、「トランプラリー」によって日本の株価が上昇していることに浮かれていることだ。しかし、1万9000円を突破した株価も、トランプ大統領から「円高」をのまされたら、あっという間に暴落するのは目に見えている。早ければ、首脳会談が行われる2月10日に急落するのではないか。

 このまま安倍首相に日本のかじ取りを任せていたら、日本は2度目の敗戦を迎えてしまう。

「トランプ大統領の誕生でハッキリ分かったことは、安倍政権は経済だけでなく外交も行き詰まっているということです。“地球儀俯瞰外交”をウリにしてきた安倍首相は、50以上の国を回ったと自慢していました。もし、50カ国の首脳と深い信頼関係を結べていたら、これほどトランプ大統領にスリ寄る必要もなかったはずです。この5年間、なにをしてきたのか、ということです」(金子勝氏=前出)

 国益と国益がぶつかる外交は、安倍首相のように頭を下げるだけでは、相手にナメられるだけだ。実際、インネンをつけられたメキシコの大統領は、トランプとの首脳会談を直前に蹴り、その結果、国境の壁の建設費については「公の議論は控える」ことでトランプと電話会談で合意している。トランプを黙らせた形だ。

 日本と同じ敗戦国であり、アメリカの同盟国であるドイツも、言うべきことは口にしている。

 予定通り、2月10日に「日米首脳会談」が実施されたら、どんなことが起きるのか。日本が2度目の敗戦を迎える前に、「永続敗戦」を地で行く対米隷属首相を放逐しないと大変なことになる。

関連記事
白井聡氏 「トランプ体制で対米従属はますます露骨に」 気鋭の論客が見通す2017年のゆくえ(日刊ゲンダイ)
http://www.asyura2.com/16/senkyo218/msg/121.html



      
by めい (2017-01-29 08:03) 

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