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mespesadoさんによる1億人のための経済談義(75) [mespesadoさんによる1億人のための経済講]

mespesadoさんの議論に何度も「目からウロコが落ちる」体験をしてきましたが、今回はなぜか「溜飲が下がる」という言葉が浮かんできました。堺のおっさん曰く皆の衆、メッさんの>>594>>595も10回は熟読することをお薦めします。特に、中途半端な理解で財政出動を政策として掲げている政治家のみなさんも。》

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594:mespesado:2019/06/02 (Sun) 09:22:14

>>587
 さて、今回書き込むのは、講演会での内容の“その後”の部分です。
 MMTが日本でも有名になり始めてから、緊縮派は理屈で対抗できないことから、とうとう「印象操作」を始めました。その代表、というか、ほとんどこれしかない、という「反論」# 政府はオカネを刷っていいというが、それではハイパーインフレになる。というものです。これはどういうことかというと、政府が国債を発行しまくって財政出動を行うが、やがてこの発行しまくった国債が償還を迎えるときに、もしそれに対する償還金を(たとえば財政ファイナンスの形で)オカネを刷って返したら、その段階で世の中のオカネが増えすぎてハイパーインフレになるかもしれないじゃないか、というわけです。
 つまり今はいいかもしれないが、国債償還日という「将来」のある時点でオカネが増えすぎてハイパーインフレになってお金の価値が下落するから、それは未来の人から実質的にオカネを奪うことになる。つまり、彼らがよく言う「将来の世代にツケを回すな」論ですね(ただしMMTが登場する前は、このキャッチフレーズは、将来国債の償還時に徴税して集めたオカネで償還金を払わなくちゃいけないから重税で将来世代が困窮するゾ、という意味だったんですけどね)。
 これに対してMMT論者は「だからオカネを刷るのはハイパーインフレにならない範囲で、と制約条件を付けているじゃないか」と言うのですが、反MMT論者は「徴税にしろ予算枠の縮小にしろ機動的に対応できない可能性がある」と反論し、それに対してMMT論者が「いや、金融引き締めは機動的に対応できる。金融緩和は“紐を押す”のと同じで効果が出ないが、金融引き締めは“紐を引っ張る”のと同じですぐに効果が出る」と言って再反論するわけですね。そしてそもそも私や、最近の中野さんも可能性として示唆したように、「日本の生産供給力は強力だから、オカネを刷ったってそもそもインフレにならない」という考えもあります。
 ただ、こういった議論は、確かにMMT側の方が説得力があるのは確かなんですが、実は反MMT派の # とその直後に補足したような考え方は、そもそも根本のところに重大な錯覚があるんですね。それを今から説明します。
 私はしばしばラフに「オカネ」という表現を使いますが、このオカネには「マネタリーベース(MB)」と「マネーストック(MS)」という2種類の概念があり、前者のMBというのは、紙幣や硬貨といった「現金」と、それに準じるものとして、政府や金融機関が日銀に開設している「日銀当座預金」の残高との合算額を言います。この日銀当座預金をなぜ現金に準じるものとみなすかと言うと、これは要するに日銀による「現金の預かり証」のようなものですから、準備預金として法定された額さえ残しておけば、いつでも引き出して現金に換金することができるので、銀行の預金口座と違って「取り付け騒ぎ」が原理的に起こり得ないことから、これを現金と同様に扱うわけです。
 次に後者のMSの方ですが、これは何種類か流儀による定義の違いが若干あるのですが、基本的には「現金通貨+預金通貨」のことです。ただし、このMSの定義の方に限って「銀行が保有している現金(と日銀当座預金)は除外」します。
 ここで預金通貨とは、預金通帳に記載された数字のことです。そして「銀行が保有している現金を除外する」とはこういうことです。つまり誰かが現金100万円を持って銀行に預けたとします。このとき、預金通帳にはこの預けた100万円がプラスされ、預金通貨が同額増えます。ところが預けた現金100万円は、別にこの世から消滅するわけではなく、預金者から銀行に移るだけです。つまり、もし銀行が保有している現金を除外しないと、預金しただけでMSが100万円から200万円に増えてしまうことになります。今では預金口座から直接決済することが当たり前になっていて、買い物ですらデビットカードのように現金決済と同じように決済できるのですから預金通貨は現金通貨とほとんど同じ役割を果たしていて、みな預金口座は現金の「代わり」だと思っています。なのに現金を預金通貨に換えた「だけ」でオカネが増えてしまうというのでは、経済統計などを考える際に現実離れしてしまうことから、そのようなことがないように、銀行保有の現金はMSにはカウントしないことにしているわけです。そして、私が「オカネ」とラフに呼んでいるのは、ほとんどの場合、このMSのことを指しています。
 さて、世の中のオカネがその国の供給能力に比べて増えすぎるとインフレになり、減り過ぎるとデフレになる、と言われますが、このときの「オカネ」とはMSのことです。なぜなら市中を「流通」している、つまり実際に取引に使われているオカネの多寡が貨幣価値を決めているわけですから、インフレやデフレを論じるときは、MSの多寡を検討の対象にしなければ意味がないからです。
 ここでで最初の # とその直後の補足の話に戻ります。発行された国債の持ち主の大半は、銀行と日銀です。このうち日銀の保有分は借り換えにして塩漬けにしてしまえばよいので、考える必要があるのは銀行保有分です。
 すると、この国債が償還を迎えると、償還金が国から持ち主に払われますが、その持ち主は銀行なので、これが現金で払われようが、日銀当座預金の振替の形で払われようが、銀行のMBが増えるだけで、先ほどの定義によれば、このオカネはMBには含まれますが、MSには含まれません!つまり、世の中に流通する、インフレやデフレに影響を与えるMSは、この国債の償還金の支払いによって増えも減りもしないのです!ですから当然ハイパーインフレも起きるわけがありません!
 え?、と思うかもしれませんが、よ~く考えてください。実はMSが増えているのは国債の償還時点ではなくて、国債の発行時点なのです。だって、国債の発行時に財政出動をして公共事業落札企業に国は政府小切手で支払いをし、この小切手を処理した時点で、この企業の銀行口座の数字というMSが増えたわけですから。
 つまりです。仮に「オカネ(=MS)が増えすぎてハイパーインフレになる!」というのであれば、そのハイパーインフレは国債発行時に、もっと詳しく言えば、財政出動時点で生じるはずなのです!ところが、今の累積赤字は過去に発行してきた国債、つまり過去にしてきた財政出動が原因で生じたものですから、この「累積赤字」がハイパーインフレを起こすとしたら、それらの償還時点ではなくて、それらの国債を発行していた過去にハイパーインフレが生じていなければならないはずなのです!
 でもどうですか?今ハイパーインフレになってますか?ハイパーインフレどころかデフレじゃないですか。つまり、反MMT論者の言う「国債による累積赤字をオカネを刷って返すとハイパーインフレになる」論は、実は全くの誤解に基づくデタラメだったことが判明したのです!
 そして、念のために付け加えるならば、今後の国債発行と財政出動について言えば、もしハイパーインフレが懸念される経済環境になったら、その時点で国債発行や財政出動をストップすればいいのであって、これなら機動的に対応できますよね。だって、リアルタイムで経済環境を見ながら予算の実行を手控えりゃいいんですから。
 というわけで、不思議なことに、誰も指摘していないですが、「オカネの発行でハイパーインフレになる」論は、その根本のところで誤解に基づく謬説であった、というお話でした。

595:mespesado:2019/06/02 (Sun) 11:06:53

>>594
 この話、あまりにも唖然とする話なので、本当かよ、と半信半疑になる方もおられるかもしれませんが、実は日銀の「ある操作」によって既に正しいことが実証済みなんです。
 その「ある操作」とは、アベノミクスで行われた「異次元の緩和」です。これは、市場に存在している国債を、日銀がどんどん購入して銀行の開設する日銀当座預金に購入代金をバンバン振り込む、という量的緩和のことですが、これは、市場に存在する国債を償還時に国が引き上げて償還金を払うかわりに、償還前ではありますが、日銀が買い上げて購入代金を払う、というだけの違いですから、市場に与える効果はほとんど同じことです。
 で、その結果はどうなったかというと、この国債の購入代金は、本来ならインフレにするために銀行による企業貸付け(これはMSの増要素になる)を増やすきっかけになるはずでしたが、そもそも企業に資金需要が無いためこの購入代金は銀行にブタ積みになったままで、MSは全く増えていません。つまり、論より証拠、この「異次元の緩和」政策の失敗が、>>594 の理屈の正しさを証拠で裏付けているわけです。
 まあ、これを逆に見ると、>>594 の理屈が「異次元緩和は実は効果が無い」ことの理論的な証明になっちゃっている、という解釈もできるわけですけどね。つまりリフレ派の理論は間違えであることと、リフレ派の連中が必死になってMMTを攻撃する理由も同時に判明してしまった、というわけです。

598:mespesado:2019/06/02 (Sun) 15:24:14

>>595
 ちょっと補足です。
 この日銀による買いオペ。今の時期はデフレだから影響がなかっただけで、インフレ時期にもし買いオペをやったら影響が出るんじゃないか?
 でも大丈夫です。影響は出ません。もともとインフレだと景気が過熱状態だから企業貸し付けも活発で信用創造も活発な時期ということになりますが、ここで買いオペ、つまり日銀が銀行の手持ちの国債を買って購入代金を銀行開設の日銀当座預金に振り込むとどうなるか。その分「銀行は手持ちの現金が増えるから、銀行は待ってましたとばかり企業貸付を増やす」のか?
 別に増やしません。だって、銀行は日銀当座預金に溜まったオカネを下ろしてその現金を企業に貸し付けているわけではなく、単に銀行の持つ預金口座に金額を書き込むだけ(万年筆マネー)だからです。
 これは国債が償還を迎えて国による償還金の支払いが生じた場合でも同じです。
 もちろん、銀行には準備預金制度と言って、預金額の一定割合(支払準備率)を日銀当座預金に残しておかなければならないという縛りがあります。この制度が意味するところは、日銀当座預金の残高が増えればそれに応じて貸金額を増やすことができる(逆ならばその逆)ということです。ですから日銀当座預金の残高が増えると、企業貸し付け(これは企業の預金残高を増やすという形で行われる)を増やすことができますから、信用創造を増やす方向に働き、オカネが増えるのでインフレを後押しする働きがあります。でも日銀はこの動向に対する歯止めをかけることができます。それは支払準備率そのものを引き上げてしまうことです。このようにして日銀は、準備預金制度を使って企業貸し付けが増えすぎるのを抑えることができます。
 以上のカラクリは国債の償還で銀行にオカネが振り込まれた場合に対しても同じ効果をもたらしますから、日銀はこの支払準備率の変更によって企業貸し付けに量的な歯止めをかけることはいつでもできるわけです。(これに対して逆に企業貸し付けが不振なデフレ時に逆に支払準備率を下げたって、資金需要が無いので企業貸し付けは増やせません。例の「紐を引っ張れば手繰り寄せることはできるが、紐を緩めても遠ざけることはできない」の例えどおりです。)
 ちなみに勘違いする人がいけないので自己資本比率についても一言言っておくと、これは「預金という負債」ではない資本(自己資本)の資本全体に占める率が8%以上なければならない、という縛りですから、既に資本の一部であった手持ち国債が現金や日銀当座預金に変わったからと言って、別に自己資本比率自体が変化するわけではないので、企業貸し付けを増やす、もしくは減らすインセンティブには全くなりません。
 以上、銀行を巡るカラクリや規制には普段あまり馴染みのない様々な制度があって、しかも実際には預金貨幣で決済している部分を現金貨幣で決済しているという勘違いがもとになった様々な誤解がありますから、念のために補足しておきました。

599:mespesado:2019/06/02 (Sun) 21:21:16

>>594 >>595 >>598
 ここで論じた国債の発行と償還とハイパーインフレ問題。
 ど~~してもしっくり来ない、という人のための直感的な説明です。
 まず、国債の発行も財政出動も、それから国債の償還も、すべて現金で行ったとしましょう。そしてイメージしやすいように、国債の額面は1億円であるとします。
 この場合は大方の直感的な常識どおり、国債の販売で市中から調達したオカネを再び財政出動で市中に“撒く”わけですからオカネの増減はありません。
 一方、償還時には、国は1億円のオカネを刷って国債保有者に払いますから、ここでオカネは1億円増えます。
 さて、以上は「現金」だけを考えた場合の話であり、実際は預金貨幣を通じて決済が行われるので、これに信用創造の効果が加わります。
 すなわち国債発行時は国が1億円の借金をしたので1億円が増え、逆に国債償還時には借金を返したので1億円が減ります。
 すると、この現金の要素と信用創造による効果を足し合わせたものが実際のオカネ(=マネーストック)ですから、国債発行時に1億円増え、国債償還時には現金と信用創造部分のプラスマイナス1億円が相殺されて、オカネの増減はナシ、となります。
 いかかでしょう。これなら腑に落ちませんか?


【追記 1.6.14】

691:mespesado:2019/06/14 (Fri) 00:39:42

 ちょっと前に、国債が償還を迎えるとき、(統合)政府がオカネを刷って償還金を支払ってもオカネは増えない!ということをいろいろな方法で説明してきましたが、いずれもリクツの上ではそうだが…、と納得できない人はいるかと思います。そこで、今回はもっとダイレクトな「論より証拠」なヤツで説明してみます。
 ある銀行Aの預金者のBさんが、A銀行の預金口座にある1000万円を下ろしに来ました。するとA銀行は、昨日償還日を迎えた額面1000万円の国債があったので、これ幸いと、政府に償還金の支払いを請求したところ、政府は急遽1000万円を刷って償還金を支払ってきました。そこでA銀行は、この現金1000万円を預金者Bさんにそっくりそのまま渡して、無事1000万円を支払うことができました。
 さて、このプロセスの前には、Bさんの預金が1000万円ありました。ところが、このプロセスの最中に政府が確かに1000万円を刷って銀行に渡したにもかかわらず、プロセス終了後は、Bさんはプロセス前と同じ金額の1000万円を現金で持っているだけ(通帳残高はゼロ)で、銀行のお金は増えも減りもしていません。
 以上、論より証拠、政府は国債の償還金を刷って渡したのに、お金は増えも減りもしませんでした。




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めい

【追記】しました。
mespesadoさん、《政府は国債の償還金を刷って渡したのに、お金は増えも減りもしませんでした。》

by めい (2019-06-14 05:15) 

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