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mespesadoさんによる1億人のための経済講座Ⅲ(9)「労働」について② 労働環境そもそも論  [mespesadoさんによる1億人のための経済講]

夕べ途中からでしたが、NHKの「シリーズ 大江戸 第1集 世界最大!! サムライが築いた“水の都”」を見ました。低地から高地に水を流す土木技術、100万人の命を支える上水道の完備、軟弱な土地を堅固にする石垣構築のための命がけの石材海上運搬、重機もない時代に100万都市を築いた労働の過酷さを思い気が遠くなりました。そして、戦国の世のそれこそ命懸けの時代をくぐり抜けた武士社会がそれを可能にしたとの解釈に納得しました。思えば、私自身の仕事を振り返っても40年前と今とでは別次元です。一ヶ月ほど前、桜の開花が予想以上に早く進んだおかげで、金曜の朝注文を受けた5.4m大幟3本を翌日午前中に納品という仕事を引き受けて、江戸期そのままの手法から始めた私にしかわからない(今があたりまえの息子にはわからない)感慨をもったところでした。(染色技法の推移について書いたことがあります。「3Dプリンター革命」)そんなことを頭に浮かべながら読んだmespesadoさんの「労働」についての議論、これまでとはまったくちがう新しい労働観に気持ちを切り替えねば、とあらためて思わされました。「昔に比べたら今の仕事はユートピア」と言ったところで、それは息子にはまったく通じなくて反発されるだけです。NHKの「シリーズ大江戸」、次回は「驚異の成長!! あきんどが花開かせた“商都”」とのことで、インフラが整備されたところでどう生きてゆくか、いよいよ明るい時代を迎えた世界の今、どう気持ちをシフトしてゆけばいいのか、そのヒントが得られるかもしれません。

*   *   *   *   *

762:mespesado : 2018/04/29 (Sun) 11:16:20 host:*.itscom.jp
>>752
 さて、今回の労働基準法改正の法案の中身は以下の pdf資料に説明されている通りです↓

「労働基準法等の一部を改正する法律案」について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-
Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000176290.pdf


 今回の労働基準法の改正は、明石さんの書き方だと、いかにも政府が「残業代ゼロ法案」という「労働者いじめ」の法案「だけ」を提出しているかのような印象を持ってしまいますが、実際はそうではなく、「働き方改革」関連法案として、経営側にとって都合の良い法案だけでなく、労働者にとって都合の良い法案も含む、合計8つの改正法案をまとめたものであることは、次の記事で知ることができます↓

https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_seisaku-kouseiroudou20180405j-03-w680

 すなわち、「働き方改革」関連法案というのは、労働者側にメリットがある6つの法案

 ① 残業時間の上限規制
 ② 有給取得の義務化
 ③ 勤務間インターバル制度
 ④ 割増賃金率の猶予措置廃止
 ⑤ 産業医の機能強化
 ⑥ 同一労働同一賃金

と、経営側にメリットがある2つの法案

 ⑦ 高度プロフェッショナル制度の創設
 ⑧ 裁量労働制の対象範囲拡大

の抱き合わせとして提出されるものであり、俗に「残業代ゼロ」法案と呼ばれているのは、この最後の⑦と⑧のことに他なりません。このうちの①~⑥の存在には触れないで、⑦と⑧だけに言及するのは印象操作と言われても仕方がありません。
 さて、この本が出版されたあとで、衆知の通り、例の厚生労働省の労働時間データに誤りが見つかった問題を受けて、⑧の裁量労働制の対象業務拡大は法案から削除されることになりました。そして、その際、現行の裁量労働制についても長時間労働を助長しているとの批判が多いため、労働者の健康確保に向け、企業に勤務時間の把握を義務付けることが法案に盛り込まれることになりました。
 このような法案の抱き合わせになっていることを踏まえると、厚生労働省が労働時間について不適切なデータを出して国会で突っ込まれた理由もわかるような気がします。なぜなら厚生労働省が積極的に推進する法案は①~⑥の法案であり、⑦と⑧は経団連と、省庁で言えば、企業を管轄する経産省が積極的なだけで、厚生労働省にとって推進するインセンティブのない法案のはずですから、そんな自分達の「意に反する」法案の必要性を示す資料など出そうと思っても出せない。しかしそれでも裏付ける根拠資料を出せと言われたら、データを無理やりこじつけて解釈しないと出せないことになるのは当然と言えば当然です。結果、その無理が国会で追及されて、最後は法案から取り下げられることになったわけですね。
 さて、ここで、そもそも何で「働き方改革」関連法案などというものが提出されたのか、という経緯について見ていくことにしましょう。


5分で分かる「働き方改革」とは?取り組みの背景と目的を解説
https://bowgl.com/2017/09/07/work-style-reformation/

というサイトにその経緯とも言える内容がコンパクトに解説されています。それによると、少子高齢化が進む中でも「50年後も人口1億人を維持し、職場・家庭・地域で誰しもが活躍できる社会」を目指し、これを「一億総活躍社会を実現するための改革」と称して推進しよう、というわけです。
 要するに、少子化で労働人口が減少していくから、労働力不足をどうやったら補えるか、という観点から

 ○ 働き手を増やす(労働市場に参加していない女性や高齢者)
 ○ 出生率を上げて将来の働き手を増やす
 ○ 労働生産性を上げる

という3本の柱に取り組もう、という施策であるということです。
 そして一方で、日本の労働環境については次のような課題があることが認識されてきています:

 ● (過労死、各種ハラスメントと共に、国連からも是正勧告が出されて
   いる)長時間労働の改善
 ● (給与面等での非正規の待遇改善による)非正規と正社員の格差是正
 ● (65歳を超えてもまだ働きたいという)高齢者の就労促進 

 これらを「働き方改革」関連法案の①~⑧と見比べると、労働者側に有利な法改正が黒丸(●)に、経営側に有利な法改正が白丸(○)にそれぞれ対応していることがわかります(注:なぜ「経営者側に」ではなくて「経営側に」と書いたのかという理由は後で明らかにします)。
 なお、リンク先の記事にもあるように、経営側の視点からの課題と労働者側の観点からの課題は必ずしも対立する項目と言うわけではありません。例えば2番目の●である正規/非正規間の賃金格差が放置されていると、供給過多の今日では、企業は売り上げの伸び悩みから収益を高めるため労働者の賃金を節約するために賃金の安い非正規を増やして対応しようとしますが、その結果、所得の低い非正規の人は節約に走り、消費は伸びず、企業の売り上げは低迷し、結果として企業は自分で自分の首を絞めることになります。
 また、3番目の●の労働意欲のある高齢者の就労を助けることは、1番目の○の「働き手を増やす」ことに繋がります。
 さて、一口に「労働環境の改善」と言っても、資本主義社会の変化の歴史的経緯(特に日本のそれは劇的に変化しました)と洋の東西における労働観の違いを考慮に入れなければ意味のある議論にはなりません。次回はこの観点をふまえた労働環境についての話をしたいと思います。   (続く)

767:mespesado : 2018/04/29 (Sun) 13:28:53 host:*.itscom.jp
>>762
 サヨク思想における「労働者の権利」というものがどのようなものであるかを示す、恰好のやりとりがツイッターで行われているのを見たので取り上げておきます。まず、ちだいさんという人が次のように呟きました:

ちだい(選挙ウォッチャー)@chidaisan
> どうしてネトウヨって、弱者に対して全然優しくないんだろう。例えば、
> 最低賃金を1500円にしてほしいという人たちがいて、どうして「それじ
> ゃ経営が成り立たない」と経営者側の論理に立つんだろう。オマエ、バ
> イト側じゃん! どうしてバイト側の分際でギャラを高くしようという人
> を叩いちゃうんだよ!

 これに対するリプがこちら:

ひとがたち @hitogatati
> 経営成り立たなくさせたら、時給がゼロになるからでしょ?
> 「民主主義とは、一人一人が王様の知識と覚悟が必要な制度」ですから
> ね。経営者側からの視点も持つのは基本中の基本だと思いますね。

抹茶ン @macha2828
> だって、安倍さんは経営者に景気が良くなったから労働者の賃金を上げ
> ろって掛け合っているじゃん。だから、安倍さんを支持するネトウヨは
> 弱者に優しいよ。労働組合は何しているの?労組の支援を受けている野
> 党は何しているの?これが現実です。

> 残業代の未払いはブラック企業と言われて追い込まれてますよね。残業
> 代を支払わされてますよね。民主党政権時代にこんなことあった?低賃
> 金?ベア獲得してますが。耳を塞いでいるのはどちらさん?

虚空戦士Z @S23SHO
> ではあなたが企業して、時給を1500円でも2000円でもしてあげると良い
> でしょう。
> ろくに仕事をしない人にもちゃんと払ってあげて下さいね。
> その結果、人件費で経営が成り立たなくなっても賃下げはいけませんよ。

ビットクリーチャー @Bitcreature
> 最低賃金を1500円にしたら、1500円以上の付加価値を生産できないスキ
> ルの低い労働者は、解雇されて賃金ゼロになるんだよ。わかった?

CatNA @CatNewsAgency
> 常に弱者や労働者の味方をするとどうなるかというと、賃金上昇や福利
> 厚生の負担に耐えかねて、会社や国家が破綻するのですよ。ネトウヨと
> 呼ばれる人の中には、低賃金労働者も沢山いるでしょうが、全体の利益
> を考えた場合、バカの一つ覚えのように弱者の味方ばかりできないとい
> う発想ができる人達ですね

 これらを見れば分かるように、ちだいさんの視点には「労働者自身」の利害の観点しかなく、その「賃金」がどこから出ているのかという観点からの考察がありません。ですからこの「論争」だけについて言えば、圧倒的にリプを付けた反論者の方に理があります。
 ですが、ここで話を終わりにすると、「なぜ、ちだいさんはそんな理不尽なことを呟いたのか?」という問題と、「本当に、根幹のところで反論者の言っていることは正論なのか?」という2つの問題に蓋をすることになってしまいます。
 まず前者の「なぜ、ちだいさんはそんな理不尽なことを呟いたのか?」という問題ですが、実は「昔」はちだいさんのような主張は正論だったのです。その「昔」とは「高度成長期」のことです。
 高度成長期というのは、私が何度も説明したように、便利な家電など「文明の利器」が出現し始めた、「供給不足ではあるが、その供給不足が急速に解消している時代」のことに他なりません。この時代は企業はモノを作れば飛ぶように売れたので、会社の業績は右肩上がりが当たり前。ですから企業は今年は必ず去年より儲かる。だから関心事は、その得られた利益を経営者側(株主を含む)と労働者側でどのように分配するか、という問題だけでした。なので、このような時代に、もし労働者が賃金に関して「経営者の味方」をして賃上げに反対でもしようものなら、それは経営者側の分け前を増やすことを意味しますから、「お前は誰の味方なんだ!肉屋を支持する豚か!」と他の労働者に罵倒されてもおかしくありません。
 ところがこれに対して、高度成長が終わり、供給不足が解消した今日の日本では、消費のパイは増えず、基本的に各企業で限られたパイの奪い合いになりますから、企業の収益は右肩上がりどころか、今年益が出ても来年は赤字に転落するかもしれない、だから企業は倒産しないように、賃金などのコストを極力渋り、内部留保を蓄えようとする、大変「世知辛い世の中」になってしまったわけです。こんな環境下では、労働者は賃上げ以前の問題として自分が勤める会社の存続の方が大事で、賃上げのコスト増で会社が倒産してしまったら失業して収入がゼロになってしまうわけですから、まず経営を安定させることで経営側と利害が一致するのは当然です。
 さて、このような理解の下で改めてちだいさんのツイートを読むと、考え方が「高度成長期」のときの労働者のまんまであることがわかります。これはまた、リベラル(サヨク)の考え方が高度成長期のまま時代の変化に取り残され、今の経済環境に適合しなくなってしまったことに気付かないでいる典型と言えるでしょう。そして高度成長期のことを知らない若い世代にとっては、そのような昔の正論のような発想がどこから出てくるのかがわからず、「ばかじゃないの?」という反応しか返せないわけです。
 次は後者の「本当に、根幹のところで反論者の言っていることは正論なのか?」という問題に移ります。
 上で、「今(低成長期)の方が昔(高度成長期)より世知辛い」と書きました。これが、もし日本の生産力がガタガタになった結果、生産量が昔より少なくなったから、というのであれば、世知辛いのも止むを得ないとして素直に受け入れることができます。
 でも現実はどうか?逆じゃないですか!今は昔と違って機械化と技術が大幅に進み、生活は便利になった上に、生産はロボットが担っていますから、一つの消費財を製造するのにかかる「人間の」負荷は信じられないくらい軽減されています。つまり「肉体的苦役」から大幅に解放されているわけです。だったら今の方が昔よりはるかに楽に生活できるはずです。それなのに、昔に比べると、普通のサービスだけでは儲からないのであれもこれもということで過当競争になり、必然的に労働は強化され、例えばコンビニやファーストフードの従業員は、アルバイトなのにあれもこれも一人で処理しなければならないなど、昔よりなぜか忙しくなっています
 なぜこんな不思議なことになっているのでしょうか?
 それは、昔の供給不足の時代「働かざるもの食うべからず」という倫理が経済の仕組みにすっかり組み込まれてしまっているからに他なりません。昔はとにかく生産の多くは人力に依存しており、そのため供給力は不足していましたから、生産を増やすには、とにかく多くの人に生産行為に参加してもらわなければなりません。しかもサボる人がいたら生産が滞りますから、長時間の残業もいとわずきちんと仕事をすることが社会規範として強く求められました。それを単なる紙に書いた規範に留めておいても人は動きませんから、「一生懸命に仕事をした人だけに生活する権利を与える」ようなムチの部分も必要で、これが「良い生活をしたかったらまじめに働け」という倫理に基づく制度となって定着したわけです。つまり、労働者を

 「労働すること」=「給料を得て生活ができること」

という等式で結んでしまったわけです。
 ところが供給過多の時代になったにもかかわらず、この等式をそのままにしておいたらどうなるでしょうか?
 機械による生産で供給過多になっているのですから、生産のための義務的な「労働」の必要量は、昔に比べてはるかに少なくなっています。なので、上の等式の左辺は昔より減少し、その結果、右辺である「生活のための給料」も減少してしまい、その結果、満足な消費ができなくなってしまったわけですね。これ、モノの生産は全員に配っても余りあるのに、肝心の消費者の方がオカネが無くて満足に手に入らない…。世の中にこんな理不尽なパラドクスがあるでしょうか。
 最初のちだいさんの呟きに反論している人たちは、悲しいかな、昔の「消費も右肩上がりで増やすことができた」ウキウキ時代を知らず、最初から世知辛い時代しか知りません。だから、「供給過多なのに何で消費できないのか」という理不尽にも気付きにくいのではないでしょうか。そろそろこういった「経済の仕組みそのものが時代遅れになっている」という視点で世の中を見ないと、小手先の労働条件の改善だけでは埒が明かないことにそろそろ人類(特に経済活動の最先端にいる日本人)は気付いてもよい頃になったのではないかな、と思います。次回はその新たな経済の仕組みに対するヒントとなる「労働観」の問題について考察してみたいと思います。 (続く)
781:mespesado : 2018/04/29 (Sun) 23:42:07 host:*.itscom.jp
>>767
 世の中の経済の仕組みを今のままにしておいたら、やがて制度が崩壊するということについて、AI技術の進展による「シンギュラリティー」の問題が発生する、ということはよく言われていることです。これは、職業のうち肉体労働や単純な機械的作業は既に機械に置き換えられてきたけれど、今後はAI技術の進展により、頭脳労働の多くが機械に取って代わられるようになると、段々人間の労働者は要らなくなるので大量の失業者が発生する、という予言のことですが、私は以前に、頭脳労働の場であるオフィスにおいて、一人一台のパソコンが配備される時代になったのに人手が必要なくなることはなかったのだから、同様に、AIの進歩で人手が要らなくなることはないだろう、と述べました。ただし、その場合に労働者の所得については何も言及していませんでしたが、今より所得格差が広がってしまう可能性は充分あります。
 というのは、AI技術を使いこなす仕事と言うのは、AIを手なずけて企画立案したり、時のAIがまだ実現不可能な高度に知的な仕事ができる知力のとても高い人が大変重宝される一方で、単純作業にもかかわらずAIの導入が進まない「人海戦術」の仕事は常に残り、その業種に従事する人は安い賃金でこき使われる、というような二極化が進むという恐れがあります。そうなると、確かに失業は増えないかもしれないが、収入面で格差が今より更に拡大するという可能性が充分ありうるのです。
 一方で、技術の進歩は究極まで進みますから、すべての日常品や家電製品は究極まで生産過剰になり、全員に行き渡るだけ生産することは物理的にはいとも容易くなるでしょう。
 こういった世の中では、職業による給与「だけ」で生活費をまかなう、という経済の仕組みでは人々は幸福になれないでしょう。なぜなら、大多数の「安い賃金でこき使われる」人々は、自分の安い給与だけでは全員に行き渡るほど大量に生産された消費財を十分に手に入れることが不可能になって来るからです。これに対して経営側に属す「裕福な」人々も、大多数の消費者が給与が不十分なため生活費を切り詰めるために節約している中で生産活動を行うのですから、売り上げは今以上に伸びず、収益は不安定になり、倒産を避けるために、将来に不安を抱えながら、今以上に内部留保の拡充に努めることになりますから、世の中上から下まで不安に苛まれて全然幸福感の無い世の中になってしまうでしょう。つまり、

 ①「従業員に対する給与」を「企業の売り上げ」だけに頼る。
 ②「消費者の生活費」を「労働の対価たる給与」だけに頼る。

という2つのルールを当たり前の前提にしている現在の経済モデルでは、世の中が維持できなくなる、ということです。
 ここで更に注意しておかなければならないことは、いわゆる「貧富の差」を是正するための「累進課税」と「社会福祉」による「所得の再配分」の仕組みが、このような世の中を是正する方法としては機能しない、という事実です。
 なぜなら、貧しい人たちだけでなく、富んだ人たちまでもが将来に不安をかかえていて、上から下までオカネに余裕が無いのですから、そんな中で富める者から税金を取り立てれば、その分を補うかのように、更に内部留保を溜め込もうとするので、従業員にまわすオカネを益々渋らなければならなくなるからです。

 さて、ここで一番最初のいわゆる「残業ゼロ法案」の話に立ち返ることにしましょう。
 そもそも「残業」って何のためにするのでしょうか?
 これには実は二つの理由があります。

 (1) 残業代を稼ぐため
 (2) 自分が受け持っている仕事をきちんと成し遂げるのに、時間内では終わらないから

というものでしょう。このうち (1) の方は、要するに生活費のために「仕方なく」不本意で仕事をしているケースであり、残業そのものを規制しても真の解決にはならず、先ほどの②の問題を解決しなければ真の解決には繋がらないでしょう。
 一方 (2) の方は、オカネのためというよりは日本の労働者には特に「与えられた仕事は責任を持って遂行しなければならない」という強い職業倫理があるからだと思います。翻って、西洋の職業倫理では、労働者は経営者と自分の労働力を売るという契約を結んでその契約を履行するという契約社会ですから、時間内に仕事をしているのに終わらなければ、経営者は労働者の能力不足に責を負わせて解雇するか、逆に無理な仕事をさせたからという理由で経営側が責任を取るかどちらかで、労働者が契約に無い「残業」を嬉々としてする構図にはならないわけで、ここに日本と西洋における職業倫理の違いが現れていると思います。日本でサービス残業がはびこるのも、この日本人特有の職業倫理が主たる原因でしょう。
 他方で、企業サイドはなぜ従業員に「残業させる」必要があるのでしょうか。それは、

 (a) 人手不足なのに、追加で人を雇う余裕が無い(一時的に人手が足りな
   いケースでも、それ以外のシーズンで人手が過剰になるのがもったい
   ないということだから同じ)。
 (b) 特定の業務がそのスキルを持つ限られた従業員に集中し、他の従業員
   では代替が利かない。

のいずれかの理由でしょう。このうち (a) の方は、要するに企業がコスト増を防ぐために、雇用をできるだけ絞ろうとするからであり、先ほどの①の問題を解決しなければ真の解決には繋がらないでしょう。なお、私が前々稿( >>762 )で「経営者側」という言い方をせず「経営側」という表現をしたのは、高度成長期のように「労働者」と富の配分を争う「経営者」個人の利害ではなく、会社の存続を維持するためという「経営の立場」という意味で「経営側」という表現を使ったわけです。
 一方 (b) の方は、もしその仕事が世の中にとって必要な仕事であればあるほど「余人をもって変えがたい」仕事なのですから、本人もそのような立場にある自覚もあって、強く「やりがい」を持っているケースも多いと思います。その場合は、むしろ一般の労働者に対する労働基準法で一律に縛るのは企業にとっても個人にとっても得策ではなく、労働基準法の例外的な措置を取る方がお互いに幸せだというケースも出てくると考えられます。つまり、このケースこそ「高度プロフェッショナル制度の創設」の趣旨に適っていると思われるのです。
 以上を纏めます。
 労働条件の問題には資本主義が円熟した社会における、上記①と②の制度の無理から生じる問題と、日本人の職業倫理や専門家としてのプライドを守りたいという意識から来る問題の2つがあって、単に労働基準法を経営者に厳しくすれば解決するような単純なものではない。むしろ専門的な仕事には労働基準法の杓子定規な適用から解放した方が双方にとって都合が良いこともある。ただし経営側に、著者の明石さんが懸念するような、労基法の緩和を悪用しようとするインセンティブがあるとすれば、それは、上記①、②の「制度疲労」に起因するものであり、これらを無理に解消しようとして労働基準法を厳しくし過ぎれば、コスト増で経営が困難になるので逆効果になる。従って、①や②の制度疲労は、労働基準法の改正ではなく別の方法で解決すべきマター(例えば個人や企業に対するベーシックインカム的な補助など)である、ということになります。          (続く)


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