ツチヤタカユキ『笑いのカイブツ』 [小田仁二郎]
こういう世界もあるのか、とリテラの記事で知った。アマゾンのレビューに《あふれんばかりの情熱を文章のなかに感じました。心動かされる最高の作品です。》とあって衝動買い。届くや、忙しいのに一気に読まされた。
読みつつなぜか小田仁二郎を思いうかべていた。なんとなく、宿題としてずっと気になっている『にせあぽりや』の世界のような気がしていた。このところ書いてなかったアマゾンレビューを書きたくなって、なぜ小田仁二郎と重なるかをさがしているうち、『塔の澤』に思い至った。このくだりは他のところにもあったし、たしか寂聴さんも書いている。(とりあえず『場所』を注文)
『塔の澤』は、昭和29年下半期直木賞の予選候補作だった。手元に初出の「文学者53」がある。その後活字になったものかどうか。
以下、レビュー。
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《ぎこちなく何度も腰を前に突き出したり、引っ込めたりして、まだセックスが続いているフリ》をする場面で、瀬戸内晴美との初めての不倫の夜の小田仁二郎を思った。《あなたの動きが、ふっと、ぎこちなくなった。あたしをふるわせるものがうすれていく。眼をひらくと、あなたの蒼白ないまにも泣き出しそうな顔。おずおずした眼のひかり。・・・》(小田仁二郎『塔の澤』)思えば共に「カイブツに取り憑かれた男」。小田は自分の作品への評価に対して「わからないとは何であるか。わかろうとしないことである。精神の怠惰にすぎないのではないか」との言葉を残した。『笑いのカイブツ』にはそれと同等の内的必然への揺るぎなき確信、それゆえの世界の拡がりと奥行きを感じる。汲めども尽きぬ泉の感。
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