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齋藤茂吉と宮内(1) [宮内よもやま歴史絵巻]

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わが家から見た、茂吉が泊まった蔵座敷のある黒江宅の蔵


斎藤茂吉は黒江太郎との縁で2回宮内を訪れている。


以下《 》内、黒江太郎「童馬先生随聞」(『窿應の生涯と茂吉』昭和47年白玉書房所収)より。


《齋藤茂吉先生は置賜の歌會に行ってみたい希望のことを、昭和22年の四月中ごろに板垣家子夫氏から内報を受けた。先生はかねがね私の家に行きたいと申されたことがあったが、まるで夢のやうな話がいよいよ實行に移されたので、まったく戸惑ひするほど感激した。》

 

宮内アララギ短歌会の発足が昭和218月、91日に宝積坊で第一回歌会。参加者7名。発起人の黒江と宮内女学校の国語教師原知一以外は女性。


茂吉の日記にこうある。

《五月十七日、土曜、ハレ、クモリ、(黒江は快晴だったという)・・・(上山駅で)一時五分汽車が来タノデソレニ乗り、赤湯デ降リタ。結城哀草果、西村モ同車デアッタ。徒歩ニテ宮内町ノ黒江太郎方二著イタ。○ソノ夜、女流ノ骨折ニテ鯉ヲ主二シタイロイロノ料理ガ出タ、酒、ぶだう酒、○黒江氏の蔵ニ臥、入浴》

 

この時の会話の様子が黒江によって記録されている。

《先生は目をつむって、『いい歌作ったす。「道のべに‪蓖麻(ヒマ)の花咲きたりしこと何か罪深き感じのごとく」、どうだ、「何か罪ふかき感じのごとく」はいいだらう。zそれからこんな歌も作った。「少年の心は清く何事もいやいやながら為ることぞなき」、何事もだぞ。「いやいやながら」はいいだろう。こんなあたりまへの事だって、苦労して苦労して作ったものだ。苦労した歌はいい。』と仰言った。『おれは天下の茂吉だからな。』、先生は一段と身をそらして、恰も殿さまのやうに両肱を左右に張って見得をきった。》


その晩の献立表が残っているという。鯉の甘煮(うまに)、鯉のアライ、茶碗ムシ、煮染、豆腐の木の芽田楽、ウドの胡麻アヘ、アケビの萠(もえ)浸し、蕗の煮ツケ、トコロテン、ナメコの吸物、蕨汁・・・。「当時とすれば贅をつくし」とあるが、私たちには子供の頃からなじんでいたものばかりだ。そしてこのご馳走は「すべて女子会員の手になったものだった。」その女子会員は高橋美子、菅野てる子、瀧澤シズカの3名。

18日蓬萊院で歌会。38名が参会。昼食はその場で打った蕎麦。「先生は大へん賞美され、三杯も召上った。」

その晩の食事も3人の女子会員による。「鯉の甘煮。山芋のトロロ、イワダラの胡麻アヘ、蕨ヒタシ、ナメコ吸物、蕨汁の簡単な料理で酒を少し飲み、十時すぎまで話をして床につかれた。」

19日、黒江宅を辞し、リヤカーで赤湯御殿守旅館へ向かう。途中から原先生の勤務する宮内高等女学校の生徒4人がリヤカーを挽くのを手伝った。茂吉先生大喜びだったという。

   *   *   *   *   *

その年の9月23日、黒江に茂吉からの葉書が届く。「心中釋然とするところあり○廿三日上り二番にて参上し一泊願って廿四日に帰りたし」。あわてて宮内駅に着くと、「もうすでに汽車は駅に入っていて、褐色のレインコートを着てカンカン帽子をかむった先生は板垣家子夫氏をしたがへ、一団の乗客にまじって駅を出るところであった。」

茂吉の日記。
《九月二十三日、火曜、晴レ 宮内町行、九月二十三日秋季皇霊祭
○二番列車(七時四十分)ニテ宮内二行ク、板垣家子夫同道、進駐軍乗タノデ、オクレ、赤湯ニテ十一時ニ乗換へ十二時過ギニ宮内黒江太郎方ニツイタ。午食うどん、(女流、高橋料理)午後熊野神社参拝○入浴、夕食鋤焼、酒○黒江君の流言ヲ調査シテ、安心シタ 色紙二葉(女流ニ與フ)》

黒江はこの日の事を記録していう。
《午食が終ってから高橋美子をひとり呼び寄せて、かれこれ一時間半ほど密談がつづいた。私は退去を命ぜられた。話が終って先生は少し昂奮されて居る様子に見受けた。これから某君のところに行くといってきかない先生をほとほと持てあましたが、先生に逆らふなと板垣さんが耳打ちしてくれたので、私もしたがって町に出た。家子夫さんはうまく先生を誘って熊野神社に参拝することになった。》

《夜になって勢ひよく雨が降りだした。料理を受持った高橋美子、菅野てる子の両名に感謝されて、短冊を書きたいと仰言ったが、この年の春に短冊をいただいたから、どうぞ色紙を書いて下さいとお頼みした。先生は快くふたりのために最上川の歌を色紙に書いて與へた。・・・(先生は)特に高橋美子に感謝をされた。高橋美子さんには私も随分世話になったが、それからまもなく近くの豪農に嫁し、音信も途絶えてしまった。》 


この高橋美子女史に関わる、私のシンクロニシティ体験を書かねばならない。(つづく)


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