SSブログ

受け継ぎたい山形の“宝物”―日本一の歴史―南陽の菊まつり [菊まつり]

昨晩、思いがけなく、今年と来年合わせて1億円を宮内の菊まつり振興基金として寄託された埼玉在住宮内出身の皆川健次氏にお会いした。同級生の粟野治夫氏、手塚道夫氏、清水勝美氏と親戚にあたる片平功氏とご一緒の席に呼ばれた。「菊と歩む会」設立準備の話を聞かされた。思いがけないところから思いがけない展開があるものだという感慨。
 

半年ほど前書いたものを載せておきます。

*   *   *   *   *

   *   *   *   *   *

受け継ぎたい山形の“宝物”
日本一の歴史―南陽の菊まつり

「菊は宮内あやめは長井ばらの名所は東沢」と花笠音頭にも歌われる南陽宮内の菊まつり。その起源は江戸時代にさかのぼる。今も宮内熊野の夏祭りで獅子冠行事を取仕切る百花園の先祖齊藤善四郎が嘉永二年(一八四九)、赤湯温泉入湯中の上杉の殿様に丹精した菊花を献上して大いに喜ばれ、ご褒美を賜ったとの記録が残る。このことがあって宮内に菊花栽培者がつぎつぎに現れるようになり、大正二年に料亭観月楼を会場に菊花品評会が開かれた。その一年前には料亭山崎屋でささやかな菊人形が飾られており、数年後には料亭宮沢、山正旅館とつづき、世界にその名を轟かせた最高級生糸「羽前エキストラ」を擁する宮内製糸産業の隆盛を背景に当時繁昌を極めた料亭が競い合う形で「菊まつり」が開催され、「菊の宮内」としてその名声は県内外に響くことになった。昭和二年には山形新聞社主催の県下名所投票で山正旅館の菊人形が第一位を獲得したこともある。

戦後の菊まつりの再出発は昭和二十四年、楽しみの何もなかった時代、製糸業隆盛の余韻の残る当時の宮内町、町を挙げての開催だった。そして昭和三十年代は全国的に菊まつりの最盛期、菊人形展を開催した都市は全国で百三十都市、百五十会場にも及んだという。当時熊野参道鳥居の場を会場にした菊人形は、東西広場を地上四メートルの渡り廊下で結ぶという実に壮観なものだった。

NHK大河ドラマ史上最高の視聴率を記録した「独眼竜政宗」を菊人形のテーマとした昭和六十二年がひとつの節目の年だった。置賜人にとっては、越後から会津を経て米沢へ苦渋の歴史を背負う上杉的感覚の上皮を剥いで、室町前期から二百年を越す伊達氏支配の歴史に光があてられ、縄文以来の明るく豊かな置賜を取り戻す分水嶺の年でもあった。しかし菊まつりはこの年を頂点に勢いを取り戻せぬまま平成の時代となり、新たな飛躍への模索の時代がつづいて現在に至っている。

この南陽の菊まつり、南陽より一年早い明治四十三年に始まった大阪枚方の菊人形が一昨年で幕を下ろしたことで、昨年が第九十四回、菊人形では日本一の歴史を誇ることとなった。昨年は従来の会場双松公園が新配水池工事のため、会場を四〇数年ぶりに宮内の街中に下ろし、テーマを大河ドラマから地元の身近な歴史や伝説にしたこともあって久しぶりに入場者数が前年を上回った。

私は昨年、この菊まつりにはじめて最初から関わる機会を得た。そして菊花栽培、菊人形づくりに携わる方たちの仕事振りに直にふれ、飾られた花、人形に備わる品格にあらためて心を揺さぶられた。南陽のレベルがいかほどのものかを確かめてみたくて規模の大きい隣県を訪ね、質においては明らかに凌駕していることを確認した。この伝統をなんとか保持しなければならないと切に思った。

とはいえ、入場料収入のみでの採算は夢のまた夢、市内外に協賛金を募り、前売券をお願いし、市財政の負担を仰ぎ、業者にも奉仕的精神を当てにしつつ経費はぎりぎりまで切り詰めての開催。継続は容易ではない。

思えば、清河八郎や雲井龍雄といった幕末の志士、戊辰の戦役で奥羽列藩の義に殉じたもののふ武士たち、我が県にも多く関わる尊い精神と生命の辛い犠牲を代償に出発した日本の近代が行き着くところ、その間、百年千年単位で積み上げてきたはずの地域に根ざした文化の悉くは、たちまち経済合理性の評価に曝され、怒涛の中に藻屑となって流されてゆく。気を抜けば菊まつりもその例外ではなかったはずなのだ。それをなんとか継続させた結果としての日本一の歴史。そこには先人への敬意と文化の蓄積へのこだわりがあり、それを次代に伝えようとするねばり、経済の合理に屈せぬ義侠があってのことだった。実にそれこそが受け継ぐべき山形の大事な宝物なのではあるまいか。南陽の菊まつりの「日本一」はまさにその勲章なのである。

(山形放送社説七千回記念論文募集応募原稿・平成十九年一月)


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。