mespesadoさんによる経済談義(104)【シリーズ:検証!消費税⑪ 】 [mespesadoさんによる1億人のための経済講]
《事業者が支払う「消費税」ですが、事業者にとって、この消費税の「担税者」が客なのか事業者自身なのか、つまり「間接税」なのか「直接税」なのか、などという「神学論争」は関係ありません。どうでもよいことです。事業者にとって関心があるのは、消費税の「納税義務者」つまり実際に税金を支払うのが事業者自身である、という事実だけです。なので、この支払う消費税は、利益から差し引かれる単なる数値でしかありません。》【シリーズ:検証!消費税⑤】
* * * * *
867:mespesado:2019/07/04 (Thu) 07:20:50
>>855
【シリーズ:検証!消費税⑪】
今回は、米国が当初反論していた「直接税」「間接税」の神学論争についてです。
さて、フランスが導入した「付加価値税」ですが、これは
(年間売上額) × α* - (年間仕入額) × α*
という計算で計算されるのでした。ここで α* は、いわゆる「税込み価格」に対する消費税率で、「課税標準」に対する税率 α によって
α* = α ÷ ( 1 + α )
で計算されるのでした。ところで、この付加価値税は、何で「付加価値」税と名付けたのかというと、上の税の計算式は
{ (年間売上額) - (年間仕入額) } × α*
と書くことができ、この { } の中身が、税金を納める事業所が原材料から最終製品に至る製造プロセスの中で担当した部分を金額換算したもの、すなわちその事業所によって「付加」された「価値」であり、その「付加価値」に対する税金だ、という趣旨によるものです。これは、課税の対象が最終製品の価格に対して掛かってくるものであり、製造にかかわった各事業所は、それぞれの事業所が付加した価値に対する税金を「消費者に代行して」支払うことにした、という趣旨によって名付けられたものであり、税率も、α*ではなく α で表示しているのは「あくまで消費者が税金を負担している」ということを主張するためです。つまり消費者が「課税標準」に対する税金をプラスして支払っている、という名目が必要だからです。
ところが件の湖東さんの講演では、この付加価値の部分が
(年間売上額) - (年間仕入額) = (利益) + (従業員給与)
という形で表すことができるため、「付加価値税」は実は
{ (利益) + (従業員給与) } × α*
と表現することもでき、これは更に
(利益) × α* + (従業員給与) × α*
と書けることに注目します。
すると、左の方の (利益) × α* というのは、事業所の利益に対する課税ですから、いわゆる「法人税」に他なりません。
では右の方の (従業員給与) × α* の方は何でしょうか?
日本ではあまり馴染みがありませんが、フランスの税金についてはどうでしょう?このことについて、>>844 の最後に参考のために挙げたサイト:
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11056198_po_201803ma.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
諸外国の付加価値税(2018年版)
の45頁に説明があります。
> (ⅱ)付加価値税の導入と標準税率の推移
>
> (a)導入時(1968 年)
> フランスの現代的な付加価値税(Taxe sur la Valeur Ajoutée)は、
> 1968 年 1 月 1 日から導入された。
>
>【中略】
>
> (b)フラン危機やインフレ等に対応するための税率の調整(1968 ~
> 1982 年)
> 標準税率(表 20)は、1968 年の導入時には旧付加価値税の 25% から
> 20% に引き下げられたが、同年、貿易赤字の拡大に起因するフラン危機
> に対処するため、給与税(企業に対する課税)の縮減と付加価値税の標
> 準税率引上げが行われた。1973 年にはインフレ対策、1977 年にはイン
> フレ対策と税率構造の簡素化のため、標準税率が引き下げられた。
この (b) のところで、>>844 で説明したインフレ(スタグフレーション)対策として1973年と1968年に標準税率が引き下げられたことが述べられていますが、注目すべきはその直前にある
> 給与税(企業に対する課税)の縮減
という部分です。何と、フランスでは伝統的に事業者が従業員に対して支払う「給与」に対して課税するという税制が存在しているのです。
つまり、先ほど付加価値税が実は
(利益) × α* + (従業員給与) × α*
という形に書き直すことができる、と述べ、左の方は「法人税」に他ならない、と述べましたが、実は右の方も「給与税」に他ならないわけです!そういうことだとすると、この形の税金なら、フランスが既に導入していた税体系の中に含まれているのですから、何もあえて「付加価値税」などという新しい税金など導入せずに、法人税と給与税を α* だけ増税する、といえば済むはずです。なのに、なぜ新しく「付加価値税」などというものを創設する必要があったのでしょう?
その答はハッキリしています。上の式は、あくまで「国内向けに製品を販売している事業所」の場合です。これが輸出業者であれば、輸出に対する付加価値税は免税になるので、最初の式が
(年間売上額) × α* - (年間仕入額) × α*
ではなく、
- (年間仕入額) × α*
となります。これはまた、
(年間売上額) × α* - (年間仕入額) × α* - (年間売上額) × α*
あるいは
{ (年間売上額) - (年間仕入額) } × α* - (年間売上額) × α*
と書くことができて、更に
{ (利益) + (従業員給与) } × α* - (年間売上額) × α*
と書くことができて、更に
(利益) × α* + (従業員給与) × α* - (年間売上額) × α*
と書くことができます。
つまり、「法人税」プラス「給与税」という体系で同じ税金を課した場合に比べて、3番目の項が新たに追加され、この (年間売上額) × α* の分がまるまる控除されている、という形になるわけです!
つまり、フランスは、「付加価値税」という新しい税金を導入して、しかも税率を α でなく α* で定義するという小細工を加えることによって、輸出業者だけ (年間売上額) × α* という額の免税措置を行った、ということなのです。もちろんこんなことはフランス税務当局からは公式には発表されることもなくいわけですが、こうして消費者への間接税であるという大義名分で、既存の税体系では不可能だった「輸出業者への優遇免税」を滑り込ませることに成功した、という背景がわかってきたわけです。 (続く)
>>855
【シリーズ:検証!消費税⑪】
今回は、米国が当初反論していた「直接税」「間接税」の神学論争についてです。
さて、フランスが導入した「付加価値税」ですが、これは
(年間売上額) × α* - (年間仕入額) × α*
という計算で計算されるのでした。ここで α* は、いわゆる「税込み価格」に対する消費税率で、「課税標準」に対する税率 α によって
α* = α ÷ ( 1 + α )
で計算されるのでした。ところで、この付加価値税は、何で「付加価値」税と名付けたのかというと、上の税の計算式は
{ (年間売上額) - (年間仕入額) } × α*
と書くことができ、この { } の中身が、税金を納める事業所が原材料から最終製品に至る製造プロセスの中で担当した部分を金額換算したもの、すなわちその事業所によって「付加」された「価値」であり、その「付加価値」に対する税金だ、という趣旨によるものです。これは、課税の対象が最終製品の価格に対して掛かってくるものであり、製造にかかわった各事業所は、それぞれの事業所が付加した価値に対する税金を「消費者に代行して」支払うことにした、という趣旨によって名付けられたものであり、税率も、α*ではなく α で表示しているのは「あくまで消費者が税金を負担している」ということを主張するためです。つまり消費者が「課税標準」に対する税金をプラスして支払っている、という名目が必要だからです。
ところが件の湖東さんの講演では、この付加価値の部分が
(年間売上額) - (年間仕入額) = (利益) + (従業員給与)
という形で表すことができるため、「付加価値税」は実は
{ (利益) + (従業員給与) } × α*
と表現することもでき、これは更に
(利益) × α* + (従業員給与) × α*
と書けることに注目します。
すると、左の方の (利益) × α* というのは、事業所の利益に対する課税ですから、いわゆる「法人税」に他なりません。
では右の方の (従業員給与) × α* の方は何でしょうか?
日本ではあまり馴染みがありませんが、フランスの税金についてはどうでしょう?このことについて、>>844 の最後に参考のために挙げたサイト:
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11056198_po_201803ma.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
諸外国の付加価値税(2018年版)
の45頁に説明があります。
> (ⅱ)付加価値税の導入と標準税率の推移
>
> (a)導入時(1968 年)
> フランスの現代的な付加価値税(Taxe sur la Valeur Ajoutée)は、
> 1968 年 1 月 1 日から導入された。
>
>【中略】
>
> (b)フラン危機やインフレ等に対応するための税率の調整(1968 ~
> 1982 年)
> 標準税率(表 20)は、1968 年の導入時には旧付加価値税の 25% から
> 20% に引き下げられたが、同年、貿易赤字の拡大に起因するフラン危機
> に対処するため、給与税(企業に対する課税)の縮減と付加価値税の標
> 準税率引上げが行われた。1973 年にはインフレ対策、1977 年にはイン
> フレ対策と税率構造の簡素化のため、標準税率が引き下げられた。
この (b) のところで、>>844 で説明したインフレ(スタグフレーション)対策として1973年と1968年に標準税率が引き下げられたことが述べられていますが、注目すべきはその直前にある
> 給与税(企業に対する課税)の縮減
という部分です。何と、フランスでは伝統的に事業者が従業員に対して支払う「給与」に対して課税するという税制が存在しているのです。
つまり、先ほど付加価値税が実は
(利益) × α* + (従業員給与) × α*
という形に書き直すことができる、と述べ、左の方は「法人税」に他ならない、と述べましたが、実は右の方も「給与税」に他ならないわけです!そういうことだとすると、この形の税金なら、フランスが既に導入していた税体系の中に含まれているのですから、何もあえて「付加価値税」などという新しい税金など導入せずに、法人税と給与税を α* だけ増税する、といえば済むはずです。なのに、なぜ新しく「付加価値税」などというものを創設する必要があったのでしょう?
その答はハッキリしています。上の式は、あくまで「国内向けに製品を販売している事業所」の場合です。これが輸出業者であれば、輸出に対する付加価値税は免税になるので、最初の式が
(年間売上額) × α* - (年間仕入額) × α*
ではなく、
- (年間仕入額) × α*
となります。これはまた、
(年間売上額) × α* - (年間仕入額) × α* - (年間売上額) × α*
あるいは
{ (年間売上額) - (年間仕入額) } × α* - (年間売上額) × α*
と書くことができて、更に
{ (利益) + (従業員給与) } × α* - (年間売上額) × α*
と書くことができて、更に
(利益) × α* + (従業員給与) × α* - (年間売上額) × α*
と書くことができます。
つまり、「法人税」プラス「給与税」という体系で同じ税金を課した場合に比べて、3番目の項が新たに追加され、この (年間売上額) × α* の分がまるまる控除されている、という形になるわけです!
つまり、フランスは、「付加価値税」という新しい税金を導入して、しかも税率を α でなく α* で定義するという小細工を加えることによって、輸出業者だけ (年間売上額) × α* という額の免税措置を行った、ということなのです。もちろんこんなことはフランス税務当局からは公式には発表されることもなくいわけですが、こうして消費者への間接税であるという大義名分で、既存の税体系では不可能だった「輸出業者への優遇免税」を滑り込ませることに成功した、という背景がわかってきたわけです。 (続く)
消費税は、仕入税額控除により消費者が絡まない取引だと(原則的に)税収が発生しないので、間接税以外の解釈は不可能だと思われます。企業間取引だけの場合は、消費税が無税の場合と一緒になりますから。
輸出取引も、輸入国で発生した消費税が輸出国まで流れず、税関でとまっている。これは国内においては、企業間取引のみしか発生していない=消費者がいないので、無税になってるのであり、企業負担はなく、国庫負担もなく、ましてや下請けから消費税を吸い上げてるわけでもない。
これを輸出優遇にみえるのは、視点を一企業に絞るからであり、全体を見れば問題のない制度だとわかります。「it's media」の風刺画のような状態ですね。
by 08 (2019-07-06 10:54)
08 さんへ
一個の製品を追っていくとそうかもしれませんが、課税される企業を別々に見ると、企業に課税しているとみなせるので、この場合は直接税とみなせることになります。
丁度、フランスの給与税が、企業に掛かるから直接税だと位置づけられているけれども、この分を一旦各従業員に企業が支払ったうえで、同額をその従業員に課税していると見做せば、従業員への所得税(の一部)とみなされ、間接税になる、というのと一緒です。
by mespesado (2019-07-07 06:58)
消費税率は10%とします。外国から¥100で輸入して税関に¥10納税(関税は考慮外とする)し、国内消費者に¥165(=150*1.1)で売った場合、この企業が生み出した税引後付加価値は¥50ですが、納税額は¥15(税関に¥10、税務署に¥5)です。
直接税とみなせば、10%以上の納税がなされていますが、別に輸入事業者は損しているわけではありません。
輸入消費税だけが売上先にわたらないので、輸入事業者の納税額が多く、輸出事業者の納税額は少なくなる。ただそれだけの話なのです。
by 08 (2019-07-08 09:01)
税金には「納税額」と「税負担額」があり、前者は法的な根拠がありますが、後者は概念上のものです。
いわゆる「課税前価格」100円で仕入れ、「課税前価格」150円で販売した事業者がいたとして、(a)仕入先が輸入で国内販売した場合、(b)仕入先、販売先共に国内の場合、(c)仕入れ先が国内で輸出した場合、のそれぞれについて、「仕入先(仕入先の仕入先等も含む)」、「当該事業者」、「消費者」それぞれの「納税額」を最初に考えてみます。これは「消費税」を「直接税」とみなすか「間接税」とみなすかは関係なく、次のようになります。
(a)の場合、「仕入先」は0円、「当該事業者」は15円(この中に輸入時に税関に払うべき納税額を含むことに注意)、「消費者」は0円で、合計15円。
(b)の場合、「仕入先」は10円、「当該事業者」は5円、「消費者」は0円で、合計15円。
(c)の場合、「仕入先」は10円、「当該事業者」は-10円、「消費者」は0円で、合計0円。
次に「消費税」を制度の表向きの趣旨に従った「間接税」と見做した場合の「税負担額」を同様に計算すると、
(a)と(b)いずれの場合も、「仕入先」と「当該事業者」は共に0円、「消費者」が15円で、合計15円。
(c)の場合、「仕入先」と「当該事業者」と「消費者」がすべて0円となります。
これに対して「消費税」を「直接税」とみなした場合、これは「税負担額」=「納税額」であるとみなすという意味ですから、この場合に「税負担額」を同様に計算すると、「納税額」と同じ、すなわち
(a)の場合、「仕入先」は0円、「当該事業者」は15円(この中に輸入時に税関に払うべき納税額を含むことに注意)、「消費者」は0円で、合計15円。
(b)の場合、「仕入先」は10円、「当該事業者」は5円、「消費者」は0円で、合計15円。
(c)の場合、「仕入先」は10円、「当該事業者」は-10円、「消費者」は0円で、合計0円。
となります。
すると、「直接税」と見做した場合の「税率」を「当該事業者」の場合についてだけ考えると、
(a)の場合は、「儲け」は165円-100円=65円で納税額が15円ですから、税率は15円÷65円=23%
(b)の場合は、「儲け」は165円-110円=55円で納税額が5円ですから、税率は5円÷55円=9%
(c)の場合は、「儲け」は150円-110円=40円で納税額が-10円ですから、税率は-10円÷40円=-25%
ということになり、輸出業者を優遇し、輸入業者がそのあおりを食っている、ということになります。
何か理不尽な計算に見えるかもしれませんが、いわゆる「税込価格」の方を基準に考えて、これを単なる「販売価格」であるとして企業が自由に決めるものであり、「儲け」はまた「利益」+「従業員給与」と表すこともできる、ということに注意すると、消費税は実態として「法人税」+「給与税」と見做すこともでき、もしそう見做したら、この場合は「直接税」と見做すのが妥当になりますから、輸出業者、国内仕入れ販売業者、輸出業者で税率が違うことになるのは不公平じゃないか、というのが本論で解説したことの趣旨になります。
by mespesado (2019-07-08 16:30)