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AIシンポジウム(4) 心のネットワーク [IT社会]

齊藤元章 発展グラフ.jpg


宗教、哲学から自立して科学が科学として歩み始めたのが600年前、産業革命で工業化社会が始まるのが300年前、脱工業化社会から情報化社会といわれるようになったのが70年前、インターネットで世界中の情報がたちどころにつながるようになったのが30年前、そしてやがて、AI(人工知能)が人知を超える時代が到来する。その技術的特異点がシンギュラリティ。それはいったいどういう時代なのか。『人工知能は資本主義を終焉させるかー経済的特異点と社会的特異点』は、それを明確にイメージさせてくれる。その前提となるのが以下同上プレゼン資料によくまとまっていた。

次世代スーパーコンピューター.jpg

「AIの進展が何をもたらすか」について最もインパクトがあるのが第二部「『社会的特異点』がもたらす人類の未来」の「孤独から解放され、個から全体に目覚める人類」の章。それに先立つ章名を拾うと「エネルギーのフリー化から社会の大変革が始まる」「衣食住もフリーで手に入る時代に」「歴史上初めて人類は お金と労働から解放される」「人間が『不老』を手に入れるのも時間の問題」「個性と多様性の爆発」「社会主義とも共産主義とも異なるユートピア」「人類は 少子化も、不老・不病による人口過多も克服する」。以下「孤独から解放され、個から全体に目覚める人類」から。行き着くところは「世界全体、心のネットワーク」。「AI→BMI(BCI)→BBI」 の図式を頭におくとわかりやすい。

*   *   *   *   *
斉藤 人間が奴隷制度から解放され、労働やお金から解放され、有限の時間からも解放され、—人ひとりが完全に自立して生活を完結させるようになったとき、あとに何か残るかを考えると、最後に「孤独からの解放」が必要ではないかと思うのです。
 地産地消・個産個消型社会が実現し、個人が完全に自立して生活を完結させるようになっても、人は自分—人では生きていくことかできず、誰かと話をしていたい、つながっていたいと思うものです。ですからボランティアでもいいし、利他的な活動を通じてでもいいから、人は人とのつながりを求めるのであって、人はおそらく孤独な状態では生きていけないと思います。
 その意味で、次に起こってくるのは、私たちがI人の人間もしくは個人として強く持っている意識の変革だと私は考えています。それは具体的にはBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)「BBによって実現されるということになりますね。
井上 BBIはブレイン・ブレイン・インターフェースですね。
斉藤 おっしやる通りです。BMIはBCI(ブレイン・コンピュータ・インターフェース)と同じ意味で使われますが、BMIが実現すると、人間の脳とコン ピュータがまずつながります。そしてさらに、そのコンピュータがハブになって、また別の人とつながることができるようになるわけです。
 実際、この1年で急速に、人とコンピュータはさまざまな形でつながるようになっていて、数多くの実験が行われています。この分野の技術の進歩がもっと加速していくと、間違いなく、人とコンピュータは、リアルタイムにあらゆる感覚や運動系の信号をやり取りできるようになります
 そうすると、地球上のあらゆるコンピュータ同上がインター不ットでつながるのと同様に、コンピュータを介して人と人がつながるようになり、人間の頭脳が巨大なネットワークを構成していくようになります。これがBBIによる人類の革新ということになります。
 BBIが実現すると、素晴らしいことがいくつも起こるのですが、そのIつが言語を介さず個々人の感覚をそのまま共有する、新たなコミュニケーションの登場です。
 人類の進化のうえで、言語は大きな役割を果たしてきました。その言語の良い面でもあり悪い面でもあるのが、抽象化という機能です。たとえば「リんご」とい う単語で日本人は赤いりんごを想像し、他の国の人々は緑色のりんごを想像するかもしれません。また一ロにりんごと言っても、小さいものから大きなものま で、さまざまなものがあるわけですが、「りんご」という単語で、誰もがそれがりんごだということを理解することができるのです。その意味で、抽象化によっ て情報をできるかぎり圧縮し、物事の意味を的確に伝えるうえで、言語は大切な役割を担っていると言えます。
 ところが、たとえば日本語には「青」という言葉で言い表される色が何十種類もあるという特性があるわけですが、実際に見た色を、自分の意識や感覚のなかで 「青」という言葉に変換するとき、じつは「青」という言葉が本来待っている情報や意味の広がりの、かなりの部分がそぎ落とされているのです。
 ということは、私が話す「青」という言葉が井上先生に伝わったとき、井上先生はご自身のこれまでの体験のなかで得た青色のイメージを思い浮かべているわけで、私がイメージしている青色と、先生がイメージする青色は、違う色かもしれないのです。
井上 言語学者のソシュールの用語で言えば、シニフィアン(言葉を表現する文字や音声)を介さず、シニフィエ(言葉の持つ意味そのもの)だけを伝え合えるようになるということですね。
斉藤 そうです。ですからお互いが、言葉による抽象化を経ずに感覚をそのまま共有できるようになるのです。そうなると、従来の言葉を媒介にしたコミュニ ケーションに比べて、伝わる情報量や物事の理解度、感覚、感情などの量も質も劇的に向上すると思います。あるいは、それらを超えた次元の新しい「何か」を共有できるようになることも考えられます。
 その先に登場するのが、私も講演等でよくお話しさせていただいている地球規模のコネクトーム(脳内の神経細胞が接続して構成される神経回路の全体)、すなわち「アーススケール・コネクトーム」です。
  そもそも人間の脳 は、1000億個の神経細胞のそれぞれがお互いに1000から1万の規模で密につながるシナプス結合というものを持っていて、合計で100兆個ものシナプ ス結合からなる神経回路の全体をコネクトームと呼んでいます。興味深いことに、一つひとつの神経細胞は個性豊かで、どれひとつとしてまったく同じ振る舞い をする神経細胞はありません。いま現在、私がこうやって話しているときも、拡の脳内にある1000億個の神経細胞は「多数決」を行っていて、そのなかで意 識や感覚が生まれ、それを言葉として伝えているわけです。
 これと同じようなことが、一人ひとりの脳を結びつけることで、さらに格段にスケールアップした形で実現することになるはずです。
 つまり、われわれの脳を一つの神経細胞と見立てたときに、BBIによって73億人の脳で構成される巨大なコネクトームができるということです。言葉を超えたコミュニケーションにより個々人の感覚をダイレクトに共有するBBIによって、1人が1000人とつながり、その先にまた1000人とつながるという密なネットワークが構成されると、それがいったいどれだけすごいのかが、もはや想像すらできないレベルの巨大な知性が生まれるのではないかと私は確信しているのです。
  われわれが持つ一つひとつの神経細胞が個性豊かであるように、われわれは個々人として、豊かな個性を極大化し、独創性を発揮し、個人の欲求を極限まで追求 するのも、もちろん自由です。ただしその一方で、たとえば巨大な隕石が地球に衝突しそうだとか、大規模な太陽フレア(太陽面爆発)が起こり、地球への影響 は避けられないかもしれないというような人類存亡の危機に陥ったときには、われわれが意識をそこに向けると、人間—人ひとりの
知性がどうのとか、シンギュラリティが到来して機械的な知性が人類の知性を上回るといったレベルをはるかに超える高次の知性が、その喫緊の問題解決のために、英知の限りを尽くすということが可能になっていくでしょう。
井上 人類が一つの知性になるということですね。
斉藤 はい。知性という意味でもそうですが、人聞が歴史上初めて、個々人ではなく人類全体として、何ら孤独を感じることなく、みんなと常につながっている 感覚や意識というものが生まれるのだと思います。そうなると、個人というものの位置づけや価値、意味に加えて、人間の存在そのものが本質的に変化していく でしょう。私はこうしたことを、社会的特異点の最終形として考えています。(つづく)

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