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「実存感覚」(「光の子ども」原稿) [こども園]

この時期、認定こども園の卒園文集に原稿を依頼されます。今年で13回目。9日が締め切りだったのですが間に合わなくてなんとか10日に出したところです。毎年その時その時いちばん頭(心)にあることを書くようになっています。一年の総まとめのような気がしてかなり頑張って書いてきました。いつもは文集が発行なってからここでの記事にするのですが、このたびはとりわけ書くのに苦労したので、まだ新鮮なうちに記事にしておくことにします。文中、仙台に向かう車の中で感じた体験を書いていますが、何をしに仙台に向かっていたかと言うと、天行居の東北神咒奉唱大会のためでした。このこととそのとき「実存感覚」と名付けた体験は無縁ではないはずです。今、落合陽一さんの『日本再興戦略』を非常に興味深く読んでいるところですが、読みつつ、「こんな世界もあるんだよ」と言っておきたくて急に思い立って記事にしました。

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      「実存感覚」             

 ちょうちょう組のみなさん、そして保護者のみなさん、ご卒園おめでとうございます。新たな成長の段階に向けた大きなステップです。これから進む目の前には、可能性いっぱいの明るい未来が開けています。

 「シンギュラリティ(特異点)」という言葉をしばしば耳にします。グーグル社のカーツワイルという人が言い出し、日本ではソフトバンクの孫正義さんが広めました。倍々ゲームで進化したコンピューターが人間の脳の結合の限界を上回る、科学技術が人間の手を離れて自らより優れた科学技術をつくり出す、その変わり目のことです。「これから10~20年のうちに、過去の人類が何千年ものあいだに経験したよりも多くの歴史的変革が起きる」と言われます。

 自分自身を振り返ってみても、かつてはいろんな書物にあたってようやく手に入れなければならなかった情報が、今では瞬時にして手に入ってしまいます。私が染物の世界に入った時は、時間のかかる多くの工程を経なければならなかった仕事も、デジタル化で驚くほど速くきれいに、しかもどんなデザインでも自由にできるようになりました。数十年前を思うと夢のようです。これからの時代はさらにその勢いは増して進化するのです。それがどんな世界か、いろいろ思いめぐらしても想像もつきません。「AI時代に勝ち残る企業と人の条件」という副題の『シンギュラリティ・ビジネス』という本を興味深く読みました。「夢を描く能力が問われる時代になる!」そう思いました。

 ちょうど「シンギュラリティ」という言葉を知った頃、昨年の六月でした。親しい友人の車の助手席で山形自動車道を仙台に向かっている時のこと、小雨に煙る若葉の景色の中で、ふと懐かしい遠い記憶が甦るような充たされた感覚にとらわれたのです。身体全体を包み込む「たしかに生きている」そういう感覚でした。家にあって目先のバタバタに追われてすっかり感じることのできなくなっていた感覚が、とりとめない友人との会話、しっとりした自然の風景の中でよみがえってきたのです。なにものにも代え難いかけがえのない感覚に思え、「実存感覚」と名付けて記憶に焼き付けました。

 人間は、進化の歴史をもっています。そのことで豊かさ、便利さ、快適さを手に入れることができました。その歴史はさらにこれから信じられないような世界を実現してゆくにちがいありません。その「進化」の歴史に十分適応できる能力を学び備えてゆかねばなりません。その一方で、人間は人間でありつづけます。そういう時の「人間」とはなにか。その答えを「実存を感ずることができる存在」とするとしっくりきました。身を委ねることのできる自然との関わり、信頼できる人との関わり、その中で感じる「生きている」という実感。そこには「進化」の歴史とは別の歴史があります。太古からの人間としての体験の記憶、その人その人の先祖からのDNA、それらをもってこの世に生まれ出て、その人の歴史は始まります。それを支えるのが家族であり、こども園のような施設であり、そして地域です。その環境がいい環境かどうか、そのことによって「実存感覚」の度合いが変わってきます。自分自身、どんなときに「実存感覚」を感ずるかあらためて振り返る、そして、自分のまわりの身近かな人たちがどんな「実存感覚」をもって生きているのか、そっと見つめ直してみたらどうでしょうか。

 ニーチェという哲学者が「神は死んだ」と言いました。ここでニーチェが言おうとしたのは「神さまなんていない」ということではなく、「絶対的視点(=客観的真理)なんてない」ということでした。ひとりひとりの「実存感覚」こそが真理ということです。そこから「実存主義」や「現象学」という哲学の潮流が出てきます。「シンギュラリティ」を目前に、その一方で人間は、「生きていること」のありがたみを、みんなそれぞれ自分の実感として、じっくり噛みしめるべき時代を迎えているのです。

 


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