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元陸軍中将・遠藤三郎(毎日新聞 山形版)(3) 人体実験、克明に記録 [遠藤三郎]

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吉田曠二氏の2冊の著元陸軍中将遠藤三郎の肖像―「満洲事変」・上海事変・ノモンハン事件・重慶戦略爆撃』(すずさわ書店2012)と『将軍遠藤三郎とアジア太平洋戦争』(ゆまに書房 2015)、なんとかがんばって買って手元にある。共に8,640円だったが、前著は売り切れて古書価格が2倍になっている。遠藤三郎という人への関心の高まりを思ってうれしい。ほとんど積読状態だったがこの機にあらためてて開いてみた。前著のプロローグと後著のエピローグの一部に目を通す。 

《 遠藤三郎は昭和の日本陸軍の名参謀であり、また名将のひとりであった。

 だから彼は一旦戦争がはじまると、東京の参謀本部で、作戦参謀として優れた頭脳を駆使して、日本車を勝利に導くための作戦計画を立案し、指揮官としては戦場でも勇ましく戦い、中国大陸や南方の島々で戦争の勝利に.貢献しようとした。しかし名将であり優秀な参謀でありながらも、彼は戦争が嫌いなタイプの珍しい軍人であった。

 生来、性格がやさしく、しかも強いものには屈服しない不屈の精神をもつ遠藤は常に自分の意見を持って、上司と渡りあい、そのために一時は左遷される憂き目にも遭遇した.そのような勇気と不屈の性格をもつ彼は、第二次世界大戦が終結すると、軍人生活にそれほど未練はなかったらしい。一九四五年八月十五日の敗戦で日本車が武装解除されると、組織に属さない自由人として生きる道を選び、埼玉県狭山の原生林に入植して開拓農民となった。しかも彼は農民として鍬をもって働きながら、自分が陸軍の指導者の一人として戦ったあの戦争の愚かさを反省し、不屈の闘志をもって非武装平和運動に邁進した。何かこの人をして陸軍の将軍から.一ハ〇度転換した平和運動の闘士に変貌させたのか?その理由について彼は生涯に書きのこした九十三冊の膨大な日記と多数の書簡の中に克明に記録している。その思想的な転換は一時的な思い付きの豹変ではなかった。そのことは少年期から最晩年まで書き継がれた遠藤日記などを繙けばわかる。日記に書き込まれた文字は遠藤の心の記録であり、戦争という時代の嵐に翻弄されながらも、自分を見失うことのなかった人間の戦いの記録でもあった。

 それだから彼は日本の敗戦と同時に次のような歌を口ずさむことができたのだろう。

  非武装は戦に負けしためならず、地球生物自然保護なり。

  武器捨てて裸の日本今の世に恐るる外国一つだもなし。

 この二つの歌には非武装中立の日本の将来と地球生物自然保護という今日的なエコロジーの思想か強く滲みでている。戦後自由人となった遠藤は非武装日本の未来にゆるぎない自信をもち、世界人類の幸せのために戦争のない地球的な人類社会を創造しようと、呼びかけたのである。

 その平和の叫び声は、近代日本の膨脹時代に誕生し、戦争と戦争の狭間でその影響をうけて成長した軍人=戦争体験者の叫びとして一層の重量感が感じられる。》(元陸軍中将遠藤三郎の肖像』11-12p)

↑この文で前著のプロローグが始まり、後著のエピローグは次の文↓で終る。

(7)作家・潭地久枝さんの回想

 戦後の遠藤はその不滅の非戦平和=[軍備亡国」の思想をこの世に残して天国に旅立った。彼の死後、その非戦・平和思想はその門下生たちによって受け継がれ、今もなお多くの人々の心に生きている。

 在りし日の遠藤を記念して、日中友好元軍人の会の有志たちか「遠藤語録」を刊行しようと提言したのも、遠藤の非職・平和思想を永久に伝え、広めようという願いからであった。その本は『軍備は国を滅ぼす一遠藤語録』と題して、一九九三年八月十五日(敗戦記念日)に同会から刊行された。それはまさに晩年、平和の伝道者となって活動した遠藤の思想を網羅した非戦平和のバイブルであった。

 その本のカバー表紙(裏)に在りし日の遠藤のメッセージと、晩年の遠藤に親しみ、その教えを受けた作家の澤地久枝さんの遠藤紹介文が掲載されている。

 その一文を見るとまず遠藤は次のように語っている。

 「『敗軍の将は兵を語らず』の歳言もあります。今さらわたくしの自慢話や弁解かましいことを公けにする意思は毛頭ありませんか、戦争任務に全力投球してきただけに、その体験と真摯な学習とから得た教訓は尊いものと自負しております。なかんずく『軍備国防は全廃すべきである』という結論は教訓中の結晶であり、消え行く老兵の遺言としても後々までも残すべきものと信じています  遠藤三郎」

 また澤地久枝さんは次のように遠藤を回想した。

 「遠藤さんは私の師匠である」「遠藤さんとの縁に恵まれたことは、私を「帝国陸軍」について開眼させ、国境のない世界、完全な兵器廃絶の世界を信じる追へと導いてくれた。元将軍にして骨太な平和主義者。フランス留学で身につけたエスプリとマナーを終生保った人、こういう人が同時代人として存在したことを若い世代に伝えていきたい」。

 作家の渾地さんは、戦後、満洲から帰国後、中央公論社の編集記者となり、先輩作家の五味川純平の長編『戦争と人間』(三一書房 一九六五-一九八二年)の資料助手として、日本の近代史に親しみ、その後、独立して有名な文人になった女性であった。その代表作『妻たちの二・二六事件』(中央公論社 一九七二年)を執筆以来、狭山市の遠藤家を訪れて、遠藤からさまざまな戦争体験を聞かされ、歴史的事実を教えられたという。晩年の遠藤もまた若い澤地さんがたずねて来ることを心待ちにしていたのだろう。厚地さんがミッドウェー海戦について調査したいと希望を述べると、遠藤から「何でも私に聞きなさい。わたしは大本営の海軍参謀も兼務していたから」といって励まされたという。やがてその作品か『沿海よ眠れ』と題して漸次出版され、遠藤は死の病床で、その本を手離さずに読みふけっていたという(遠藤十三郎氏の談話)。その話はやがて湯地さんに伝えられ「孤独なたたかいを終えたわたしへのこの上ない慰めだった」と澤地さんが懐かしんでおられる(「忘れえぬ笑顔」『軍備は国を亡ぼす』序一一ページ)

 若き日の澤地さんは膨大な遠藤日誌を最初に詳しく閲読した作家でもあった。その遠藤日誌は読みづらい部分もあり、澤地さんは元からよくない目がさらに悪くなったと、どこかに書かれていたことを記憶している。しかし遠藤の残した戦中・戦後日誌はこれからも、貴重な歴史遺産として、多くの知識人たちの目にふれて、激励されることだろう。

 遠藤は死してなお、天国から平和の伝道者として、われわれを叱咤激励してくれる。

 そんな骨太い将軍であったから、私も遠藤日誌の解読に精進し、遠藤の足跡を求めて中国の上海・ハルビンを拠点に遠藤が築城工事にかかかわった北満地下要塞や上海郊外・重慶、さらには中国共産党の革命根拠地保安や延安にまで、戦争と革命の遺跡を追跡する旅を継続し、自宅では長年にわたり何度も各章にわたって部分的に加筆しながらこの原稿を脱稿できたのである。》(『将軍遠藤三郎とアジア太平洋戦争 』487-488p)

↓毎日新聞の連載3回目(12月7日掲載分)、関東軍第731部隊との関わりについても言及される。重い気持ちで読まされた。 

*   *   *   *   *

戦後71年・やまがた

元陸軍中将・遠藤三郎 関東軍作戦参謀に着任 人体実験、克明に記録 /山形

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 元陸軍中将・遠藤三郎を約20年研究している近現代史研究家、吉田曠二(ひろじ)さん(79)=大津市=は2001年3月、中国・揚子江河口にある七了口村を探した。1932年の上海事変で、遠藤が作戦を立案し陸軍第11師団が上陸に成功した地点だ。

 吉田さんが探し出した元村民で、取材当時76歳の王阿二さんは「日本軍が人々を殺害した恐怖の場面を覚えている。父も兄も畑に隠れていたが見つけられて殺された」と話した。83歳の顧宝興さんも「日本軍が家屋に火を放ち、40~50人の農民を殺害した」と証言した。

 遠藤が戦後の74年に出版した自伝「日中十五年戦争と私」では、農家の火災と中国人数人の死体を確認して上海に向かったと記した程度だった。遠藤の日記にはない元住民の証言に驚いた吉田さんは「上級の軍人が見る戦場の姿はほんの一部だ」と指摘する。

 日本は32年3月に満州国を建国。同8月、遠藤は関東軍作戦参謀として着任し、前任の石原莞爾から極秘に研究を進めていた細菌戦の引き継ぎを受けた。後に関東軍第731部隊となる関東軍防疫班だ。33年11月、ハルビンと吉林の間にある寒村で死刑囚への人体実験を目撃し、克明に日記に記録した。

 ホスゲンによる5分間のガス室試験のものは肺炎を起し重体(中略)青酸15ミリグラム注射のものは約20分間にて意識を失いたり

 他にも2万ボルトの電流を流すなど、目の前で繰り返された衝撃を「床につきしも安眠し得ず」と記した。

 その後、39年のノモンハン事件で関東軍が旧ソ連軍に敗北したことから遠藤は細菌兵器の実用化に期待を示した。だが、部隊長の石井四郎からは味方への防御法が確立していないと断られたことを日記に書いた。遠藤は戦後、軍備全廃を訴えたが、理由の一つに細菌兵器に関わった反省があったとされる。吉田さんによると、遠藤は晩年、「軍人に優秀な武器を持たせるな。持たせたら軍人はそれを使いたくなる」と語ったという。【佐藤良一】=随時掲載



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つきこ

 
by つきこ (2016-12-15 16:27) 

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