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追悼 熊野秀彦先生 [神道天行居]

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熊野先生御帰天」の報が昨日入った。430日とのことだった。


いつかこの時が来る、そしてその時が来た。その時とは何なのか。かみしめてみたい。


思えば、昭和の終わり、平成の始まりを、台湾日月潭で熊野先生とともに迎えた。その報告記事を書くことを熊野先生に命ぜられていた。『古道』平成元年三月号に掲載された。


   *   *   *   *   *


日月潭神璽

第五十五周年例祭記

     昭和六十四年一月七目

          

 中華民国日月潭。ほぼ北回帰線上、の中心部に位置する周囲約十六キロの湖である。

 昭和六十四年一月七目。目月潭は日本の五月の空を思わせる快晴の日を迎えていた。事実日中の気温は二十七度を記録したという。

 ふと目覚めた夜中の、日本ではほとんど見ることのできぬ一等星カノーブスとの出会いに異国を実感し、夜の明けるのももどかしく日月潭の日の出を拝すべく戸外へと出た。東岸に山並が迫る地形は朝日を拝するには不都合であることに間もなく気づいたが、その時東北の空に、その日の晴れ渡った空には些か不似合いな厚みのある一叢の雲を見た。その雲は五十八言秘詞によってかえって厚みを増したように思えたのが心に懸かった。それがほぼ七時。日本時間では八時である。

 それから一時間後我々は、宿舎である中信日月潭大飯店の三階、湖を真北から目前に臨む食堂で「昭和天皇崩御」の事実を知らされた。突き上げる思いのうちにだれからともなく合掌。しばしの瞑目。しかし、ひるむ思いは熊野先生の「本日の御神事は.予定通り挙行致します]との毅然たる御言葉によって新たな地平へと引き上げられていった。すなわち、まさに「生涯においてこの様な壮烈悲壮の修法はふたたび無い」そのご神事に向けて、いやが上にも気持ちは高まることになったのである。澄み渡った青空、心地好い陽光、鏡の如き湖面、昭和天皇が現身に替えて用意せられた、今まさに始まらんとする「平成]の世を象徴するかのような、限りなく優しく穏やかなたたずまいのうちに私たちを迎え入れようとしている神秘の湖日月潭。午前九時、準備開始。

 船名は「僑興」。四十人乗りとはいえ決して立派とは言えぬ遊覧船であるが、先師御写真が正面に奉安され、御神饌、御神水等が並べられて狭い船内もさながら一大斎場と化してゆく。十時過ぎ準備が調い、神法衣、白衣に身を固めた道士全員の乗船を待って、熊野先生よりあらためて昭和天皇崩御の事実が知らされ、これからの御神事の更なる重大さに身を一層引き締める。続いて友清鈴世理事長よりの御挨拶文が読み上げられる。


日月潭 文武廟にて.jpg

 第五十五回日月潭神事御例祭斎行に当たり、ひと言御挨拶申し上げます。先づ謹んで本日御参列の皆様に新年の御挨拶を申し上げますと共に、年頭それぞれ御多端の中を、ご遠路にも拘わらず万難を排して今回の神事に御参加頂きました御道心に対し、心から篤く御礼申し上げます。

 計らずも 天皇陛下におかせられては、今暁六時三十三分皇居吹上御所において御崩御の悲報に接しました。まことに痛恨悲傷の極みでございます。恐れ多いことでございますが、皇位には一日の空位も許されず、皇太子様の御践祚により直ちに皇位継承の御事あり、本日のお祭も、新帝陛下による天壌無窮の宝祚の弥栄を祈り奉り、いはとびらきの一日も早からんことを黙祷申し上げるものでございますが、私共と致しましては、生涯においてこの様な痛烈悲壮の修法はふたたび無いものと存じます。

 一方天下至変の中心でございます神道天行居も今後の変革につきましては、全く予想も出来ぬ局面が続いており、本日までただひたすら祈りの日々を過ごして参りました。この重大時節に当たりまして、天行居と致しましては石城山開山初期に於きます重大神事の五十五周年式年祭を、中華民国日月潭神域の現地で斎行できますことは、言葉に尽くせぬ霊的意義を痛感致すものでございます。なお本日の御祭典の中で、同志の皆様のご尽瘁により、関係各神域の御神水の御奉遷が執り行われる由でございますが、まことに意義有ることと嬉びに堪えぬ次第でございます。これら太古神法による天行居大神璽奉斎神域と、その中枢に坐す神山石城山神池御鎮座の葦原神社との御関係を思うとき、特に感慨無量のものがございます。石城山開山者友清歓真より昭和二十四年二月一日現界に初めて発表されました紫府宮神界は、周知のごとく葦原神社に特にゆかりのある大神界でございますが、神仙界最高位に坐す太上老君伊邪那岐大神様、暘谷神仙王八重事代主大神様はじめ大神仙達、八百万の神々たちをともに特に奉祀し奉る葦原神社と、日月潭大神境の御縁りもまた一段と御神縁の深いものがあると存じます。葦原神社の御鎮祀が当時「葦原開顕」と称せられましたのは、東洋地域の平和と発展に象徴される「ヤマトピラキ」を意味致すものであり、先に白頭山天池大神事のみよさしのまにま、大成功裡に霊的使命の完遂を果たしましたソウルオリンピックの開催と、その後の一貫した世界的友好ムードの展開に象徴されますように「葦原開顕」による東洋諸国の平和と共存共栄の確立こそ、やがて「ヤマトヲヒラキテイワトヲヒラク」世界の磐門開きの達成を招来致すものでございます。

 ヤマトを開きてイワトを開く、本日の神事の重大性を御銘肝頂きご参加各位の全霊力の全挙を衷心よりご期待申し上げまして、まことに粗辞でございますがお礼の挨拶と致します。

   昭和六十四年一月七目

               神道天行居理事長 友清鈴世


 十時四十三分出航。各自土乃美多麻を湖面に撒きつつ船は大きく右旋回を繰り返して、御神璽が鎮まる湖心へと向かう。緊迫感が身内にいよいよ漲るのを感ずる。

東亜圏主要地点相関図.jpg

 今を去る五十五年前の昭和九年一月七日、先師の命を受けた当時の幹事長総務荒井道雄先生をはじめとする道士の方々によって、山中の湖まで十分な道も無い時代、今では想像もつかぬ御苦労の末、御神璽は湖心最深部へと鎮められた。

 当時台湾は日本碩。奇しくもこの日月潭と神山石城山とを直線で結ぶ距離は、現在日本の最北端宗谷岬と石城山とを結ぶ距離に等しい。或いは又、日月潭と石城山とを結ぶ直線を延長すると十和田湖に到り、日月潭と手箱山を結ぶ線は白馬岳に到る。更には又、日月潭と白馬岳の距離は、日月潭と白頭山天池との距離に等しく、日月潭と伊勢神宮との距離は、中国本土の恒山(北岳)との距離に等しい。その他、石城山から見て日月潭と泰山(東岳)とでつくる角、華山(西岳)から見て白馬岳と日月潭とでつくる角、嵩山(中岳)から見て石城山と日月潭とでつくる角、衡山(南岳)から見て手箱山・伊勢神宮と日月潭とでつくる角、それらがいずれも六十度、又、白馬岳から見て伊勢神宮と手箱山・日月潭とでつくる角、日月潭と白頭山天池とでつくる角がいずれも三十度。更に日月潭から見て嵩山(中岳)と白頭山天池とでつくる角、白頭山天池から見て手箱山と日月潭とでつくる角がそれぞれ四十五度である。(一、七五三万分の一の地図による)

 いったいなぜそうなのか、その神慮のほどは到底計りかねることではあるけれど、しかし少なくともこの日月潭が東亜圏内重要神域との関連においてまさに南の要をなすということは、凡そいかな唯物的頭脳を以ってしても、いやむしろ、唯物的頭脳であれば尚更のこと、一笑には付しかねるのではあるまいか。

 閑話休題。斎主を務められる熊野先生を介した御霊導の下、いよいよ船は湖心に到る。十一時定刻、祭典開始。

 次第は次の通り。

   (略)

 天行居頌歌斎唱は御遠慮申し上げたものの、決死の祭典は、十二時五分柱事無く、厳かな中に終了した。御神饌のすぺてが湖中に捧げられ、船は舳先を岸に向ける。あくまでも穏やかな湖面に浮かぶ御神饌の種々がいかにも当を得ているように感ぜられた。船は十二時十五分、緩やかに岸に着いた。

 午後、大任を無事果たし終えた安堵の思いと、思いがけなくもまさにその朝御帰天された昭和天皇への思いとを交錯させつつ、直会。

 奇霊にも、昭和最後の日という実に歴史的なこの日に日月潭神璽例大祭という重大神事に向けて志を一つにし合えた同志として、その日の直会、更にその後共にした行動の中には格別の深い魂の響き合いがあったように思われることを借越ながら付け加えさせていただきます。

 その日はそれから日月潭を東方より見下ろす位置にあって、この土地の神様、すなわち産土神社にあたり、日本人も含め多くの参拝の人々で賑わう文武廟に参拝。祭典の無事終了を感謝すると共に、御神璽の守護を祈願。異国とはいえ同じアシハラ圏内のことであり、その感応は極めて我々に親しいものであった。

 その夜半、テラスに出て、御神事の斎行でより身近に感じられるように日月潭を眺めていると、文武廟の方角から湖心に向けて微かな光りの線が走っているのを見たように思えた。

熊野先生御夫妻と 台湾にて.jpg

 翌一月八日。平成元年初日である。我々は新元号「平成」を、日月潭から台中に向かう途中、バナナ園に付随した土産店で知った。店先の新聞に昭和天皇崩御が一面トップで報ぜられ、中ほどに「平成」の文字を掲げる小淵官房長官の写真が載っていたのである。熊野先生はそれを見られるや、「いい元号ですね。」と言われた。我々にとっての平成元年はこうして始まった。

  (以下略)


(「追悼 熊野秀彦先生」つづく)

 

熊野先生御夫妻と文武廟にて


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