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守谷健二「日本書紀と天武天皇の正統性の問題」について(3) [歴史]

古代史がうまく腑に落ちなくなってしまう原因のひとつに、天智天皇(中大兄皇子)と天武天皇(大海人皇子)が兄弟、ということがある。二人が実の兄弟であるとすると、天武天皇が妻とした大田皇女も鸕野讃良皇女(うののさららのひめみこ/持統天皇)も共に姪である。当時はそれもありうることかと思えば思えないことはないが、それにしても腑に落ちない。あるいはまた、九州と大和の関係もどうなっているのかわけがわからない。守谷氏の論を読んで、ようやくすっきりした。これならすっーと流れが呑み込める。当時の歴史についての基準ができた。今後、この基準が訂正が迫られるにしても、それはそれでいい。とにかく自分で納得できるイメージを持つことができたということが重要なのだ。これは、名のある学者のだれそれがこう言った、ああ言ったという問題ではない。守谷氏自身の納得がそっくりこちらに伝わったということなのである。素直にありがたい。


さて、壬申の乱の勝利で天武天皇となった大海人皇子は、自らの出自である倭国の存在を大和朝廷に溶かし込む。自らが大和朝廷の天智天皇の「実弟」となることによって。こうして天武天皇は「正統」の地位を得た。ならば、なぜそのための内戦がいまなお「壬申の『乱』」なのかを問う。


《現代の日本人は、何の躊躇いもなく「壬申の乱」と呼んでいる。「乱」と言うのは「世を乱す、秩序を破ること」で負の行為、悪事である。/ 日本の最初の正史である『日本書紀』は、わずか一ヶ月に過ぎない大海人皇子(天武天皇)の決起に始まるこの内戦(壬申の乱)にわざわざ一巻を立て天武天皇の正統性を高らかに主張し、天武軍の兵士たちを顕彰している。『日本書紀』を聖典とする立場からは、天武の決起を「乱」と云う事は許されないはずである。しかし、我々は何の躊躇いもなく「壬申の乱」と呼んでいる。》


なぜなのか。実は、奈良時代末期、藤原氏は皇位から天武の血を排除することに成功》していたのである。

 

藤原氏の祖、中臣鎌足は天智天皇の片腕。その子藤原不比等天智天皇の落胤であるとの説がある)は壬申の乱後不遇の身であったが、持統天皇(天武天皇妃)の譲位により即位した軽皇子(天武天皇の孫/文武天皇)擁立に尽力、娘宮子を夫人にすることで力を持ち、その後の藤原氏隆盛への基礎を築く。その結果、《平安の王朝は、天武の王朝ではない。奈良時代末期天武の血を継ぐ皇孫達は、強制的に排除され、天武の血の混じらない天智天皇の後胤が探し出され擁立されたのである。光仁天皇である。光仁天皇が皇太子に擁立された時は、すでに六十歳を過ぎていた。平安京を開いた桓武天皇の父である。/ 天武の血の排除は、天智天皇の片腕であった中臣鎌足の子孫・藤原氏よっておこなわれた。奈良王朝と平安の王朝は、異なった王朝である。天智天皇の血が復活した王朝で、天武天皇を正統化する歴史など作られるはずはないではないか。

 

平安朝において日本書紀は「神代より世にある事を記しおきけるななる日本紀などは、ただかたそばぞかし。これらにこそ道々しく詳しき事はあらめ」日本紀などはその一部分に過ぎなくて、小説のほうに正確な歴史が残っているのでしょう/『源氏物語』(蛍の巻))と笑い軽んじられていたという。

 

守谷氏の嘆きがある。

《日本の歴史は二重に亘り裏切られ、打ち捨てられた。一度目は、天武天皇を大和王朝の正統者に挿入した時。二度目は、平安の王朝が大和王朝本来の歴史を取り戻すことにサボタージュを決め込んだ時である。これは日本民族の精神に測り知れない甚大な影響を残すことになった。日本民族は歴史に対する信頼、畏れ、尊敬を失ってしまった。》


   *   *   *   *   *

 

以上、守谷氏の長い論考の前半部分を、守谷氏の文章のポイント部分をつなぎあわせるような形でまとめてみた。守谷氏の嘆きは真摯に受けとめねばならないと思う。「日本人としての共通意思」はその先に見えてくるものだ。思えば、私にとっての「新しい歴史教科書」をつくる運動は、その課題に応えるはずの運動だった。


守谷氏の論考、ぜひ全文通して読んでみられることをお勧めする。ほんとうにおもしろい。守谷氏が望まれるように、ネット上で議論が展開されるようになることを願う。


http://www.snsi.jp/bbs/search の右上検索欄に「天武」と入れて検索してみて下さい。3713から上です。



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