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3Dプリンター革命(3) [染物]

私が体験した印染における第一次技術革新は、スクリーン印刷の登場だった。私の師匠は研究心に富んでいた。いちはやく新しい情報が入る人脈もあった。ちょうど私がいた時にスクリーン印刷用の5間(9m)ぐらいの捺染台を設置して、試行錯誤が始まった。私がいたうちにはまだものにはならなかったが、私には、師匠のその試行錯誤の様子を側で見ていたのが、家に入ってから役立った。印染一筋の祖父とはちがい、母とともにきもの商売に変わっていた父は私が失敗を繰り返すのを見ていて、「どうせだめ」と高をくくっていた様子だった。かつて父はフロッキー加工にチャレンジして結局ものに出来なかった経験をしていた。しかしスクリーン印刷無しには考えられない時代へと確実に向かっていた。時代が、それなりの仕事をこなせるように育ててくれた。餅糊をつくらなければならない筒描でする仕事は、だんだんスクリーン印刷に追いやられていった。自分でつくっていた糊も、いつのまにか既製糊を使うようになり、それでも腐らせて無駄にすることが多くなっていった。筒描の最後の仕事がいつだったか思い出せないが、やめて10年ぐらいになるだろうか。もともと自慢できるような腕ではなかったが、それなりの修練を要する仕事なので、やらなければ腕は落ちる。今はもう全くやれる自信はない。

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筒描で染めた白鷹虚空蔵尊例大祭(高い山)の神幟(平成6年5月13日)


デジタルプリントに目を向けたのは平成12年。その前年から「新しい歴史教科書をつくる会」の運動に取り組まされていた。毎週水曜日山形まで行って会議をやった。その段取りもしなければならなかった。教科書運動だけでなく、いわゆるサヨクへの対応の最前線に立たされもした。山形県支部のHPを息子につくってもらい、「正気煥発掲示板」の管理人としても多忙を極めていた。「なんとか楽になれないか。」せっぱつまった中で出会うことになったのが大型プリンターを使う方法だった。結果として何もできなかった後悔ばかりの多い「つくる会」の運動だったが、私にとっての第二次技術革新であるデジタル化は、「つくる会」のおかげだったといっていい。


最初のプリンター(ミマキJV2)は、顔料インクを専用布にダイレクトプリントするものだった。はっきり言って、染物屋の感覚からすると満足からはほど遠かった。色は薄い、堅牢度も低い、専用布は高い、ちょっとした布の加減でプリント途中の失敗がでやすい。それでも従来は考えられない染めが可能になった。このプリンターは紙へのプリント専用で今も働いてもらっている。


平成14年、染物のデジタル化もこの程度かと思っていたときに「昇華転写」方式に出合った。たまたま訪ねてきてくれたミマキ本社の営業の人が見せた出力サンプルに驚いた。顔料のダイレクトプリントとはまったくちがうしっかりした色だった。布は加工された専用布でなくてもポリエステルであればなんでもいい。不安なく惚れた。今思えばこのときはじめて、デジタル化の革命性を感じ取ったのだと思う。しかし、2年前に借金したばかりで、導入の決断までは容易ではなかった。プリンターの他に転写機も要る。転写機設置のための工事も要る。後々借金返済に四苦八苦することになるのだが、とにかく「時代はここまできている」という思いが導入を可能にした。正解だったと思う。旗やのれんでは必須の両面染めもある程度可能になったことで、従来の印染のほぼ100%のデジタル化が確信できるようになった。そう確信できたときが、デジタル化の革命性をほんとうに理解できた時だったのだといま思う。最初は、師匠が顔料に対して「印染にとっては邪道」と思っていたように、デジタル化へのうしろめたさがあった。しかし時代の流れはその方向だった。たとえば、最初はおそるおそるポリエステル生地にプリントして納めた半天だったが、結局それが主流になった。今では綿製よりずっといいと確信を持ってお客さんに勧められる。デザインも色も自由、生地も丈夫、洗ってもすぐ乾くしアイロン不要、色があせることもないので何年使っても使い古し感がほとんどない。しかし今ではわが店の看板部門も、最初は「邪道」と思っていたのだ。古い感覚はこういう形で新しい感覚に代わらされてゆくのだろう。(つづく)

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赤湯温泉旅館協同組合のみなさんの半天(グレー地)も市長、副市長の半天(ワインカラー地)もデジタルプリント。

南陽市観光協会HPより)


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